第7話 イーサン・クラン
「考え直していただけませんか、グレアムさん」
四十代あたりの気品のある男が、眉間に皺を寄せていた。
「ごほっ、ごほっ、わ、わしは……も、もうこれ以上は。ごほん! ごほん! じっ、持病が……」
白髪の老人は苦しそうに胸を掴んだ。
「はぁ、グレアムさん。フリはやめていただきたい。大事な話をしているんだ、世界にとって」
シルヴェニア王国都立病院の一室。
ジークの祖父グレアムは、演技がバレて舌を出す。
「何度言われても、後悔する気はない。あれはこの国を守る力。他国に渡して侵略のために使わせる気はない」
「だから、こちらも何度も言っているじゃないですか。侵略のためではないと」
グレアムと話す男の名前は、イーサン・クラン。ライアンの父で、魔法士協会の会長だ。
魔法士協会とは、魔法因子に優れた家系であるエレメントマスターが中心となる組織で、世界中の魔法士の立場を保護を名目に掲げている。そのため、すべての国に対して中立の立場に位置し、それを貫けるだけの力を有している。その力は、一組織でありながら、おそらく大国にも劣らない。
「ちっとは、歴史を学べよ、小僧。ウラルディビアやベルゾス、パンハッタン、周辺国がやってきたことをよ。馬鹿の一つ覚えみてぇに領土拡張。それに巻き込まれて、この国がどうだったか。世界のためだってんなら、今の平和を維持すんのが世界のためだろうが」
グレアムは語気を強め、巻き舌で捲し立てた。
「今はそれでもいいでしょう。しかし、未来永劫に、この国があなたの開発した魔道具を侵略のために使わない保証はありません。もし暴走を始めたら、止める術が必要なのです。他国に公開するのに抵抗があるというのなら、我が協会にだけ秘密裏に公開するというのはどうですか? 不謹慎ですが、グレアムさんがお亡くなりになられた後、我が教会だけでも知っておけば、対抗措置となります」
「嘘つきはペラが回りやがる。俺の魔道具はな、力の使い方を分からねーバカには使えないように術式を組み込んである。いつか世界を征服しようなんていうバカが現れても使えねーから心配すんな」
「ほう? そんな魔法みたいな術式が存在するのですか? 大変、興味深い。後学のために、教えていただいてもよろしいでしょうか?」
イーサンは、嘘つきはどちらでしょうかとでも言いたげに、大袈裟な驚きを見せる。
「バカには理解できねぇよ」
グレアムはニッと笑った。
「無駄足でしたね」
イーサンはため息をついて、眉間をほぐす。
そして、数秒間沈黙したかと思うと、そのまま病室を出たのだった。
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