第8話 シルヴェニア王国国立高等学校 前編

 ジークは身体を硬くして、椅子へと腰かけていた。


「こんなところで顔を合わせるとはね……」


 怖い顔でジークを睨んでいるのは、祖母システィ。


 イーサンが退室後、しばらくして、エスタとジークがグレアムの病室へとやってきた。しかし、エスタはイーサンがすでにいなくなっだことを知ると慌てて、どこかへ行ってしまった。


 そのあと、入れ違いでシスティが来訪し、ジーク、グレアム、システィの家族三人水入らずの場となったのだった。


「まあ、そんな怒ってやるな。言いづらかったんじゃろ」


 不機嫌なシスティに対して、グレアムの機嫌は良かった。


 すでにジークの寿命について知っていたグレアムは、ジークの心情を理解している。


 ジークは寿命を告げられてから、どんな顔をして家族に会っていいかわからなかった。だから、昨日ばかりは毎日欠かさなかったグレアムのお見舞いに行かなかったし、家でシスティと鉢合わせないように帰る時間もずらした。


 グレアムはそのような背景があっても、自分のことを心配して駆けつけてくれた孫の気持ちが嬉しかったのだった。


「真っ先に、私たちに言うことがあっただろう? 今後の話もしなきゃならないのに」


 ジークは俯いた。


(やっぱりこの人は苦手だ)


 教育者という職業柄もあってか昔から何かとシスティは厳しかった。


 それに、


(今後、か……)


ジークは鼓動がいつもより大きな音でドクンと跳ねるのを感じた。


「あんたには来年から私が理事を務める国立高等学校に通ってもらう」


 システィの言うことは唐突ではない。以前から高校への進学を促されていたので、ジークに驚きはなかった。


ただ改めて選択肢を突きつけられたことにより、いつの間にか呼吸が浅くなる。気持ちを落ち着けるように、大きく深呼吸をする。


"嫌だって言ったら?"


ジークは魔法紙をシスティへと見せた。


「残念ながら、あんたには権利はない」


"高校は義務教育じゃない"


「今まで目を瞑ってやってたんだ。高校に行かないっていうなら訴えるよ」


 訴えられることに身に覚えのないジークは眉間に皺を寄せ、システィを見つめた。


 システィはジークの様子に笑って、


「知らないとは言わせないよ、元冒険者。ギルドの許可なく魔物の狩りをするのは違反だ。こっちの意見を呑まずに、今の生活を続けるつもりなら私はギルドに報告する」


 ジークは唇を引き結ぶ。全身に力が入り、思わず壁を叩きそうになったのをグッと自制した。


 魔物の狩りができないことはジークにとって終わりを意味する。


 ジークが強くなって魔泉の水を手にするには、より強い魔石を手にし、より強い魔道具を作ることが不可欠だ。魔石は買うこともできるが、強い魔石ほど高価だ。来年十六歳の成人になるとはいえ、今のジークには稼ぐ手段も算段もない。冒険者ライセンスさえあれば状況は違ったかもしれないが、ないものはない。


 学校が嫌で、無駄で、意味を感じられず、逃げたい、いっそこの世からなくなればいい、とそう思う場所だったとしても、結局のところ、非合法に狩りをしていることをギルドに報告すると持ち出された時点で、ジークに選択肢はなかった。


 システィはジークの返事を待ったが、ただ項垂れるだけの彼をしばらく見つめ、


「あんたなら、入試は問題ないだろうけど、準備はしとくんだよ」


とそう言い残して、部屋を出た。

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