第5話 魔法紙の譲渡 前編
寝覚は最悪。このままシーツにくるまって、ずっと一人で過ごしたい。ジークはそう思い、ベッドから出られずにいた。
昨日という一日は彼の感情をミキサーにかけたようにグチャグチャにした。
最悪なやつとの再会、余命宣告、そして、冒険者エスタの来訪。
そもそも、ジークは妖精のフェアを数に入れないと、基本一人で過ごしている。人とコミュニケーションを取ることが少ない。だから、単純に疲れたというのもあるのだろう。
とにかく、彼は無気力でダウナー気味になっていた。
『ジーク、そろそろ起きませんか?』
ジークの目が覚めてからベッドから出てくるのをずっと待っていたフェアであったが、いい加減に痺れを切らしてきた。
『今日はそっとしといてくれ』
ジークの頭の中には、ぐるぐると同じ思考が停滞している。
昨日の夜、エスタがジークの元へと現れたのは話をするためだった。仕事が一段落ついたから戻ってきたのだという。会うのは二年ぶりだが、わざわざ真夜中に森まで来なくていいだろうとジークは思った。
とにかくエスタは気分で生きる気まぐれな男。前から何も変わっていないことに少し懐かしさを感じた。彼の行動を考えても無駄だ。そして、そんな彼が、ジークの知りうる限り最も強い人間だった。
だから、一つ質問をしたのだ。
だが。その答えがジークの悩みの種となった。
それは、エスタの強さを持ってして、原初の龍を倒せる可能性がどのくらいあるかという質問。
エスタの答えはゼロ。それだけでなく、倒すのには、エスタと同じS級冒険者十人は必要だという見立て。その数のS級冒険者を動かせるのは国家権力レベルでないとまず無理だ。
(どうしろってんだよ)
原初の龍を倒す以外にジークが生きる道はないのだが、倒すのはとてつもなく困難で一向に光が見えない。
ジークはより深くシーツをかぶって、ぐーっ、とうずくまる。
色々と溜め込みがちな彼は、その反動で落ち込むときはとことん落ち込む。もう長い付き合いになるフェアはそれに気づいてなんとか気分転換ができないかと思案した。
『そうだ! ジーク、プリンを食べに行きませんか?』
ジークの動きがピタリと止まる。そして、ガバッとシーツを捲り上げた。
『行くか』
先ほどの重たい雰囲気はどこに消えたのか、起き上がると軽い足取りで自室を後にする。
ジークはプリンに目がなかった。
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