第2話 診察結果 前編

病院での診断が終わり、ジークは診察室で医者と向かい合っていた。医者はなにやら神妙な顔つきで、二度、三度と口を開きかけてから、やっとのことで話し始めた。


「このままだと、三年ってところかな」


あと三年、そう告げられた時、ジークの意識は遠のき、今いるこの場所が現実ではないような、そんな錯覚に襲われた。


硬くなった表情で懐から紙を取り出す。


”魔法因子欠乏症の平均寿命は二十五歳ですよね?”


ジークが取り出したのは特製の魔法紙で、魔力を通すと文字が浮かび上がる。


「一般的にはね。原因は分かっていないが、魔法因子欠乏症の人は、徐々に身体が衰弱し、平均二十五歳で死に至る。ただ、前も言った通り、君は身体を酷使しすぎだ。普通の人よりも衰弱の進行が早くなっている」


"普通の人? 魔法因子欠乏症の時点で普通ではないと思いますが"


「言葉の綾だよ」


医者は額に手をあてて俯きながら、


「とにかく……、君は安静にすることだ……」


と言葉を絞りだす。


「今のままの生活を続けるつもりなら、三年ももたないと思った方が良い」


医者の助言にジークは肩を落した。


自分が魔法因子欠乏症だと聞かされ、そして、この症状を持つ人は短命だと聞かされたとき、すぐには受け入れられなかったが、覚悟を決めるには十分な時間が経っていた。


緩やかに死を待つか、死に物狂いで生を掴み取るか。


ジークがまだ幼かったころ、魔法因子欠乏症がきっかけとなり、両親が死んだ時からジークの心は決まっている。タイムリミットが現実に迫ってきた。ただそれだけのことだった。


はぁ、と軽く息を吐き、顔を上げて背筋を正す。

”自身の身体の状況については分かりました。ありがとうございます。一つだけ、お願いがあるのですが”


「何かな?」


”祖父と……、祖母には伝えないでもらえますか?”

「それは……。できない。医者として伝える義務がある。君の覚悟は理解しているつもりだが、医者として、少しでも君を健康に長く生きてほしいと思っている。それはきっと君の祖父母様も同じだと思うよ」


先生はじーっとジークの顔を覗き込んだ。ジークの表情は微動だにしない。


”そうですか。まあ……、言ってみただけです。診察は以上ですよね?”


「ああ」


”ありがとうございました”


ジークは退出しようと席を立った。


すると、


「ちょっと待って! ジーク君」


と医者はジークを慌てて引き止めた。


振り返って、疑問の表情を浮かべたジークに、


「君はどうしようと思っている?」


と医者は質問する。


ジークは、ふっ、と笑った。


先ほどよりも声音が硬く、尋問口調となった医者がおかしかったからだ。


”魔泉の水を飲んで、魔法因子欠乏症を治します”


まっすぐに医者へと魔法紙を見せた。


「で、でも、君は以前失敗しただろう? それで力を失って……。状況は絶望的だと思うのだが、君には勝算があるのか?」


驚いて、医者はジークに尋ねたが、ジークは無言。


そして、そのまま会釈をして退出した。


誰もいなくなった診察室。


医者は虚空に、


「どうしても聞いておかなければならなくてな……」


と呟く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る