第9話 魔野菜収穫クエスト

 バロラたちと別れた後、ボクは冒険者ギルドの受付に向かった。

 今日のクエストを受ける為だ。


 ボクの手元にはまだ100MP分の魔晶石が残っていたが、これは今日の食事を摂ったら無くなってしまいそうな金額だった。

 それに魔法協会のあるアレクサンドラに向かう為にも、ボクはお金を貯める必要がある。


 なぜこの世界にボクが取り込まれたのかは依然分からない状況だったけれど、もしここがVRのゲーム世界だと仮定すると、冒険をしている内にどんな世界なのかも分かってくるかもしれないし、プレイヤーに出会えればゲームについての情報も得られるかもしれない……

 それにプレイしている内に姉が会いに来てくれるかもしれなかった。


 バロラが姉で無いとしたら、おそらくボクを眠りから覚まさせる依頼を出した魔法協会所属の人物がボクをこの世界に巻き込んだ張本人の可能性が高いわけだから、お金がある程度貯まったら魔法協会の本部を訪ねて情報収集をする必要がある。


 ボクが冒険者ギルドの受付に着くと、


さん、おはようございます!」


 とアイシャが元気よく挨拶してくれる。


 ボクは右手の人差し指を口に当てて、「しーっ!」とアイシャに静かにしてもらえるよう促した。

 アイシャは「おや?」という表情をしたが、こちらに従ってくれる。


「アイシャ、ボクはこれからしばらく男の子の冒険者ということで通していくから、これからは『ニケ』じゃなく、『』と呼んで欲しいんだ。お願いできるかな?」


 そう伝えるとアイシャは事情を察したらしく、


「分かりましたよ、さん。じゃあギルド内の冒険者登録情報も修正しておきますね? もしまた女性の名前に戻すようでしたら、ギルドの受付に申し出てください。冒険者登録情報の備考欄にもそのことを記しておきますから……」


 と小声で返してくれた。


 ボクは自分の全魔法属性に適性があるというステータス情報も内緒にしてもらえるようアイシャにお願いした。

 アイシャは冒険者の個人情報に対する守秘義務をギルドは負っていると説明し、「安心してください♪」とボクに言ってくれた。


 アイシャが約束してくれたことに安心したボクは、初級冒険者でパーティーに所属していないソロの人でも安心して受けられるクエストが無いか、アイシャに相談した。


「そうですねぇ~、とりあえず魔獣退治のような危険な任務をいきなりするのはやめておいた方が良いでしょう…… なら、魔野菜収穫クエストとかどうですか? 昨日、バロラさんと果樹園の邪樹妖トレントもどきの間引き依頼もこなされてましたし?」


 ということで、農家の人が街の近くの農地で魔野菜を収穫するのをお手伝いすることになった。



 受付でしばらく待っていると農家の人がやってくる。

 彼の名前はゴンサクさんというらしく、名前からしてそうであるように見た目も日本人のおじさんのような感じだった。


 ボサっとした黒髪の短髪で鼻の下にはちょび髭を生やし、一見頑固おやじ風に見えなくもないがコロコロしたつぶらな黒い瞳がちょっと可愛らしい。

 服装は黄土色のオーバーオールつなぎに白いシャツ、麦わら帽子といった出で立ちだ。


 ボクはこの世界に取り込まれてから、ずっと周囲を欧米風の顔立ちの人に囲まれていて、密かに疎外感を感じていた。

 日本人っぽい顔の人に出会えてちょっと嬉しくなってしまい、思わずゴンサクさんの両手を握ってしまう。


 ゴンサクさんは少し困惑したような表情を浮かべながらも、


「なんだ、おめえもヤマト国出身か? まぁ確かに異国の地で同郷の人間に会えたら嬉しいべな?」


 と返してくれた。


 ボクは自分はなのでヤマト国の出身かは分かりませんが、ゴンサクさんの見た目にはすごく親近感を覚えますと彼に伝えた。

 ボクの出自に関する説明は【賢者語】に阻まれてちゃんとできないかもしれないし、セフィラ級ダンジョンの深層にある封印された箱で目覚めたという経緯は周囲の人に余計な心配をかけるかもしれない……

 とりあえず当面は秘密にしておいた方が良いだろうと考えたからだ。


「そうか、そうか。記憶喪失とはてえへんだ。まぁ、なにか困ったことがあれば同郷のよしみで助けてやるからいつでも声をかけてこいよ?」


 と、ゴンサクさんは優しく声をかけてくれた。



 ゴンサクさんが到着するとこのクエストを受注している他の冒険者も集まってくる。


 一人は暗めの濃い赤色の長髪をバサバサっと高めのポニーテールにしてまとめている獣人族の青年――なかなかのワイルドイケメンだ!


 切れ長の瞳は琥珀色をしていて美しく、彫が深い顔によく映えている……

 三日月のように大きく弧を描く口元は唇が厚く、セクシーだし、チラリとのぞく八重歯はあどけなさも感じさせ、そのギャップがなんとも魅力的……


 なんの動物の耳かは分からないけれど、モフモフの耳が時折ピコピコ動く様は何とも愛くるしい。

 尻尾は服で隠れているのかよく分からなったけど、短めの尻尾なのかな?


 彼は手に弓を持っていることから狩人系の職業をやっていると思われる。

 胸に鉄製と思われる胸当てを着けていて、大胸筋が発達しているのかそこが少し盛り上がっていた。


 弓矢の他にも幅広で少し短めの鉈のようなショートソードと、投擲にも使えるような小さい斧を装備していて、それを腰に巻いたレザーベルトに掛けていた。

 冒険者等級は首から下げた冒険者証を見る限り、鉄等級と思われる。


 見た目や雰囲気はクールなのにモフモフの可愛らしいお耳というギャップがある意味、のどストライクゾー…… ――はっ! ヤバい! 地が出てしまってる……

 今は男の子の冒険者という設定だということをボクは思い出し、少し自分を落ち着かせるよう深呼吸をした。


 もう一人の冒険者は自らの名前を「ロイ」と名乗った。

 彼も赤い髪色をしていたがイケメンケモミミ狩人くんより明るめの赤髪を短く刈り揃えていた。

 短髪の元気そうな少年だ。


 彼はどうやら先日のスタンピード被害にあった村の出身者らしく、ボクと同じ駆け出しの木等級冒険者のようだ。

 装備も粗末なものでボクが着ているのと同じような綿がしっかり詰まったシャツと長めのズボンを穿いていて、手には少し刃が欠けて見た目もみすぼらしくなった剣を握っている。


 彼は「中古品なもんで……」と少し恥ずかしそうに言い、中古だからなのかその剣には鞘もついておらず、そのまま手に持って携行するようだ。


 ボクは「木等級冒険者のです。職業は魔術士で得意なのは闇属性魔術です。混沌魔弾ケイオス・バレット剛力の盾フォース・シールドが使えます」と簡単に自己紹介をした。


 イケメンケモミミ狩人くんが「木等級なのにもう闇属性が使えるのか? すごいな! オレは狩人のテミスだ。よろしくな!」と自己紹介しつつ誉めてくれる。

 ケモミミ狩人くんのお名前はテミスくんなんだねー♪

 少年ロイは魔術に対する知識があまり無いようで、「あっ、それってすごいんスか?」という反応をした。


 ケモミミ狩人のテミスくんが、


「この中で自分が一番等級が高いみたいだから、今回の臨時パーティーではリーダーを務めることになるが、問題は無いか?」


 とハスキーな声で確認してくる。


 ボクは、


「ハイ! 問題無いです!」


 と、元気良く答えた。

 まぁ、いちおう素直で良い子だって思われたいじゃない?


 ゴンサクさんはボクたちが一通り自己紹介を終えるのを見計らって、今回のクエストの説明を始めてくれた。

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