第7話 レッサー・トレント

 闇属性の初級攻撃魔術『混沌魔弾ケイオス・バレット』をなんとか成功させたボクはバロラに他の属性の初級魔術も教えて欲しいと頼んでみた。

 バロラは「あまり手を広げすぎるのも良くないわ」と言い、他の属性ではなく同じ闇属性の初級防御魔術である『剛力の盾フォース・シールド』の術式を教えてくれた。


 その後、ボクとバロラは『鑑定』を使って果樹園の中の樹を調べ、ステータスがLv10に上がって邪樹妖トレント化しそうな林檎の樹を『混沌魔弾ケイオス・バレット』の練習も兼ねて倒していった。

 

 果樹園の外で待機していたはずのクイタはいつの間にか果樹園の中に入ってきており、倒された樹に実っていた林檎の実をボリボリ、ムシャムシャと食べている。


「勝手に食べさせて果樹園の持ち主に怒られないの?」


 とボクが確認すると、バロラは倒した樹の林檎は好きなだけ食べて良いと許可をもらっているとボクに答えた。


 クイタは10個、20個ともりもり林檎を食べていく。

 そんなに食べて飽きないのか?と少し思ったが、果樹園に着いた時にバロラが言っていたように、クイタはどうやら林檎が好物のようだ。


 そんなに美味しいのだろうか?と思ってボクも試しに一つ拾って食べてみた。

 ここの林檎はやや小ぶりでボクの拳くらいのサイズしかなく、かじってみると爽やかな酸味と林檎の香りが口の中に広がった。


 果肉はやや固かったが食べにくいほどでもなく、「しゃり、しゃり」という食感よりどちらかというと「ぼり、ぼり」というような歯ごたえのある食感だった。

 香りはこれまでボクが食べた林檎の中でももっとも強く、ジャムにしたり、アップルパイなんかにしても美味しいんじゃないか?とボクは思った。


 クイタは30個ほど林檎を食べたあたりで満足したらしく、食後は間引いた邪樹妖トレントもどきの処分をしていた。

 器用に口で樹の幹をえぐるとその中で形成されていた小さな魔晶石を回収していく。

 魔晶石が形成されているということは魔物化する兆候で、このまま放置していたら林檎の樹は邪樹妖トレントへと進化していただろう。


 ボクのケイオス・バレットの練習を兼ねた樹の間引き作業は果樹園全体の4分の3くらいをもう終えていた。

 作業の終わりが見えてきたところで『ステータス』を確認すると残りMPが12になっている。

 ケイオス・バレットの消費MPが6なのであと2発でちょうど空になる。


 ボクたちは残りの樹の『鑑定』に取り掛かる。

 そうすると視界の隅に何か動くものがうつる。


 リンゴの樹だ!

 風によってゆらゆら、ざわざわと揺らいでいるという訳では無い。

 まるで蛇のようにうねうねと枝や根をよじらせている。


「あら? 邪樹妖トレント化してるわね。ちょうど良いわ。実戦経験もここで積んでしまいましょう」

「えっ? ボクまだ動く的には当てたこと無いよ……?」

「大丈夫よ! まだ邪樹妖トレントになりたての小・邪樹妖レッサー・トレントだからそれほど強くも無いわ。もし本当にやばそうだったら私が代わりに倒してあげる。まずさっき教えた『剛力の盾フォース・シールド』を展開してみて!」


 ボクはさっきバロラに教えてもらった『剛力の盾フォース・シールド』の術式を展開するべく、短剣で空中に六芒星を描く。


「混沌よ、力の根源よ、我が盾となりて、敵を退けよ! 剛力の盾フォース・シールド!」


 詠唱を終えるとボクの前に具現化した闇の塊が直径50㎝くらいの円形の盾のような形になる。


「闇属性魔術師の基本的な戦い方は『剛力の盾フォース・シールド』を展開して敵の攻撃を防ぎつつ、攻撃魔術で相手を倒すスタイルになるわ! 『剛力の盾フォース・シールド』はある程度、相手の攻撃を追尾して防いでくれるけど、それにはあなたが敵の攻撃を認識している必要がある。冷静に落ち着いて相手に集中すれば倒せない相手ではないわ!」


 ボクが『剛力の盾フォース・シールド』の術式を展開している間、バロラは前に出て「ほら!こっちよ?」と短剣を振り回しながら相手の注意を引き囮になってタゲをとってくれていた。

 バロラは触手のように延びる小・邪樹妖レッサー・トレントの枝を事も無げにひらり、ひらりと躱している。


「大丈夫よ! 相手に集中して!」


 とボクに声をかけるとバロラは少し後ろに引いて、ボクと小・邪樹妖レッサー・トレントの一対一の形になる。

 ボクはバロラに言われた通り、相手に意識を集中し、『混沌魔弾ケイオス・バレット』の術式の展開を始める。


 ――ドギャっ!


 短剣アゾートで空中に六芒星を刻んでいると急に小・邪樹妖レッサー・トレントの枝がボクに襲い掛かってくる。

 『剛力の盾フォース・シールド』は相手の動きを感知し、自動で追尾してその攻撃をはじく。

 シールド自体にも多少攻撃力が備わっているのか、小・邪樹妖レッサー・トレントの枝の先端ははじかれた際に折れた。


 攻撃をはじかれたことに小・邪樹妖レッサー・トレントは驚いたのか枝を少し引っ込める。

 ただボクもシールドが攻撃をはじく衝撃に驚いてうっかり短剣を落としてしまった。


 ボクは慌てて短剣を拾うと心を落ち着かせ、改めて空中に六芒星を描く。


「混沌よ! 力の根源よ! 我が眼前に弾となりて、敵を穿て! 混沌魔弾ケイオス・バレット!」


 ボクが魔術を発動させると小・邪樹妖レッサー・トレントも何か仕掛けてくると感じたのか枝を延ばして攻撃してくる。

 放たれた『混沌魔弾ケイオス・バレット』は相手の延ばしてきた枝に当たってその枝を折り、少し方向がそれて相手の幹の3分の1くらいを削った。


「まあ、初めてにしては上出来じゃない? 烈風刃ウインド・カッター!」


 バロラはボクが仕留めきれなかった小・邪樹妖レッサー・トレントに術式省略の『烈風刃ウインド・カッター』を放ち、止めを刺す。

 小・邪樹妖レッサー・トレントの幹は綺麗に両断され、樹はもう動かなくなった。


 バロラは周囲を軽く見まわすと、


「どうやら今ので最後だったみたいね。これでこのクエストは終了よ? お疲れ様!」


 とクエストの終了を告げる。


 ボクはさっきの戦闘で『剛力の盾フォース・シールド』と『混沌魔弾ケイオス・バレット』を使い、MPは0になっていた。

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