クイタとのおしゃべり~『言語理解』の魔法と幻獣語~

 ボクはバロラとの特訓の帰り道、ちょっと疑問に思ったことをバロラに尋ねてみた。


「ねえ、バロラ。もしかしたら人間が持っている『言語理解』の魔法って幻獣とも話せたりするの?」

「ええ、話せるわよ? いつも私はクイタとおしゃべりしていたでしょ?」

「ああ、あれって会話だったんだね?」

「ええ、そうよ? あなたもクイタに話しかけてごらんなさいな」


 バロラに促されてボクはクイタに話しかけてみた。


「はじめまして、クイタ! ボクの名前はニケだよ?」

「こるるるるっ!(やあ、ニケ。はじめまして、僕の名前はクイタだよ。よろしくね)」

「わ、わ、ほんとだ!クイタし ゃべってる!?」

「かるろらっ?(失礼だなぁ、ニケは。君は僕たち幻獣を魔獣か何かと同じだと思っていたのかい?)」


 クイタは眉間に少し皺をよせ、ちょっと怒ったような表情を見せた。


「ご、ごめん! いや、なんかボク、この世界の常識に疎くって…… 気分を悪くしたらごめんね?」

「からららっ(良いさ。まあ、人間の中にはあからさまに幻獣を差別するやつらもいるからね。でも気を付けるんだよ? 幻獣にも魂があるからプライドもある。見下されたと思ったら襲ってくる凶暴な子だっているから、ちゃんと敬意を持って接した方が良いよ)」

「えっ? そうなの? 教えてくれてありがとう! でも幻獣って便利だね。『からららっ』だけでそんなに長い文章の意味を相手に伝えられるんだもん」

「こるろら!!(ニケ、君は面白い子だね! 僕たち幻獣の言葉は君たち人間のと違って文法を持たない。でもそれを理由に下等な生物とみなしてくる人間も多いんだ。そんな風に言われたのはニケが初めてだよ!)」


 クイタが愉快そうにころろろっと笑った。


「そうなの? ボクだったら『からららっ!』の一言だけで伝えたいことが全部伝えられるなら、むしろ便利で良いなって思うけどね?」

「かるららっ?(もしかしたら出来るかもしれないよ? 声に気持ちを込めてごらん?)」

「ほんと? ちょっと試してみるよ! からららっ?(ボクが言ってる意味わかる?)」

「こるろろっ!(ちゃんと伝わってるよ!)」

「かるろらっほー!(わーっ! やったー! 幻獣語もボク、マスターしたぞ!)」


 ボクが嬉しそうにしている姿を見て、クイタが眉を細めた……ってどこが眉だかはわからないけどね?


「かららららっ(君は本当に面白い子だね。こんな面白い子はバロラちゃん以来だ。君とだったら幻獣の【同盟契約】を結んだって良いよ)」

「こら! クイタ~。浮気しちゃダメじゃない?」


【同盟契約】ってなんだ?って一瞬思ったけど、すかさずバロラが茶々を入れる。


「こるるるぅ……(ごめん、バロラちゃん、浮気じゃないよ? それだけニケは面白い子だって言いたかっただけだから……)」

「そうなの? じゃあクイタは私一筋?」

「かるろららっ!(当り前じゃないか! バロラちゃんが一番だよ!)」


 なんだか、急に恋人同士みたいにバロラとクイタが睦み始めた。

 ボクが少し白い目で見ていると……


「かららろっ?(ニケ、心の声がだだ漏れだよ? 僕たち幻獣は人間と違って、言葉以外の仕草も『言語』として捉えているからね。幻獣としゃべる時は気を付けた方が良いよ?)」

「えぅ? そ、そうなの? ボクもなかなかそこまでの境地には達せられそうにないかなぁー」

「かららっ!(くかかかっ、ニケも幻獣としてはまだまだ半人前だね!)」


 ボクとクイタはかららっかららっと笑いあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る