第7話 おかしなステータス?
「……ありえないわ」
バロラが深刻そうな表情でつぶやく。
ゲーム世界のことだと分かっているのに、その深刻そうな表情を見るとボクまで不安になってしまう。
「そんなに珍しいことなの?」
「珍しいどころか……」
「――多分、前例が無い」
前例が無い?
ゲームの設定上、全属性適性を持つことは無いってことになってるのか?
「……ねえ、ニケ。あなたが全属性の魔法適性があることは他人には話さない方が良いわよ」
「どうして、バロラ?」
バロラは額に手を当てながら少し悩まし気な表情を浮かべる。
「少なくともこの特性が魔術的に大変貴重なことは確かよ。魔術の中には古代の神霊と契約を交わし、その権能を行使するものもあるんだけど、神霊と契約する際に生贄を求められることもあるの」
「その生贄にボクが狙われるということ?」
「そういうことね……」
これからのゲームの展開としては、ボクの身体をめぐって魔術師たちが争うみたいなことがありうるってことなのか?
「おそらくこの特性が魔法協会があなたを目覚めさせたいと思った理由なんじゃないかしら?」
「――それって……ボク、人体実験のモルモットにされたりとかしない?」
顎に手を当て、うーん、と唸りながらバロラは少し思案する。
「多分、大丈夫よ。もっと小さな魔術結社とかならそういうこともやりかねないけれど、魔法協会と言えばこの世界の魔法関連組織の中では一番メジャーな組織だわ。生贄のような聖神教会が禁忌とする行為を行えば教会勢力からの反発もあると思うし、せいぜい魔法大学の研究に協力してくれと頼まれるとか、その程度のことじゃないかしら?」
「本当かな~?」
「多分ね?」
どうやら聖神教会という大きな宗教組織があるらしく、魔法協会とは表向きは協力関係ということになっているが、考え方の相違から対立している部分もあるようだ。
おかげでボクは魔法協会に生贄にされるということは無い……ということで良いのかな?
魔法協会の人に会ったらその人がVRや医療の研究者で「
とか言われないだろうか?
それならそれで別に構わないんだけど、それだったらボクが目覚めた時に現れて状況を説明してくれるはずだよね?
まあともかく、もしバロラがお姉ちゃんでないとしたら、ボクを
それがお姉ちゃんなのか、それとも他の誰かなのかは分からないけど、自分が置かれている状況を把握するためにも、そしてなんでその人がボクをVRの世界に引き込んだのかを知る為にも、その魔法協会の人にあった方が良さそうだな。
バロラはカップをくいっと傾け、残ったハチミツ生姜茶を飲み干す。
「とりあえず今わかることとしてはこの位が限界ね。ダンジョンを出て、冒険者ギルドに向かいましょう。そこで何か判明すると思うわ」
バロラにならってボクも残りのお茶を飲み干す。
すると「ピロリン!」というベル音が鳴り、ステータス画面が光る。
「あら? レベルが上がったわね」
バロラに言われてステータス画面を見てみると、Lv1からLv2に上がっている。
「バロラ。モンスターとか倒していないのにレベルって上がるものなの?」
「ええ、そういうこともあるわ」
バロラの説明によると、モンスターを倒す時、モンスターの体内に存在する魔素という物質が放出され、それを肉体に取り込むことで人間は自分のレベルを上げることができるそうだ。
モンスターを倒す以外にもレベルを上げる方法があって、モンスターを倒した後の死骸にも魔素がまだ残っているので、モンスターを原料にした食材を食べればレベルが上がるということらしい。
「えっ? じゃあボク、知らず知らずの内にモンスターを食べてたってこと?」
「そうよ? というかこの世界での食材のほとんどはモンスターよ? さっきあなたが食べたパンもチーズもお茶もハチミツも……全部、材料はモンスターだわ」
知らず知らずのうちにモンスターを食べさせられていたことにショックを受ける……
えっなに? モンスターって意外と美味しいの?
この世界の食材の原料がほとんどモンスターだと聞き少し驚いたが、でもまあこれまでのゲームでもモンスターの肉を食べるゲームとかけっこうあったからね?
生理的にはちょっと気持ち悪い気もするけど、まあ仕方がない。
受入れよう。
バロラは荷物をまとめ、出発する準備を始めた。
「休憩は終わり! それじゃあ、ニケ。そろそろ出発するわよ?」
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