第51話 魔法剣士と賢者の戦いの決着

 魔法障壁に守られたカレリアが態勢を立て直し、ふたたび俺に素早く斬撃を放った。

 同時にアルテが素早く呪文を詠唱する。


「形あるものはすべて虚しきものと異ならず、虚しきものはすべて形あるものと異ならない。我は五大元素の真理を知る者。精霊よ、汝の力を貸せ!」


 アルテの杖の先から、赤・青・黄・緑・白の五色の光の束が大量に放たれる。

 巨大な魔力を出力した攻撃魔法だ。


 これほどの量の魔力を使えるのは、アルテが優れた賢者だからであり、また、魔王の子孫たる奴隷たちの犠牲による強化もあるんだろう。


 俺はカレリアの碧の宝剣による一撃目を受け流し、朱の宝剣による二撃目をなんとか受け止め、後退した。

 しかし、次の瞬間、アルテの攻撃魔法がこちらに襲いかかる。


 一撃目の赤い光の束は、宝剣テトラコルドで断ち切った。

 二撃目も同じ。 


 しかし、次の攻撃が防ぎきれない。

 ソフィアがとっさに防御魔法を展開して、続く二色の光の攻撃を弾き返した。


 けれど、最後のアルテの攻撃が貫通し、俺の右腕をかすった。

 腕が削れ、血飛沫が上がる。


 なんとか声を上げずにすんだけれど、痛みに顔がゆがむのは隠せなかった。

 アルテの攻撃魔法は斬撃による殺傷能力に加えて、その通過した部分を焼き切る効果がある。

 

 俺は自分の焼けただれた右腕の表面を見て、苦笑いした。

 自分のことながら、ひどい怪我だ。

 

 ソフィアが慌てて後ろから杖を振り、呪文を唱えた。


「この者を癒せ!」


 すると、俺の腕の傷口が八割ぐらい修復された。

 ライレンレミリアほどの重傷ではないから、ソフィアの力をもってすれば、一瞬で治せることは治せる。


 けれど、回復魔法だけで完全に治すことは難しい。

 右手で宝剣を振るい、カレリアの再度の攻撃を受け止めたが、正直かなり痛む。


 動きがわずかに鈍った俺に、カレリアがさらに畳み掛けるように二本の剣を振るい、追い詰める。

 そこにアルテの五月雨のような魔法攻撃が重なる。


 宝剣テトラコルドの力とソフィアの防御のおかげで魔法攻撃のほうは防げたが、今度はカレリアの斬撃を受けとめきれなかった。


 俺の肩をカレリアの朱の宝剣が切り裂く。

 肉が削がれ、骨が断たれたようだ。


 俺は後ずさったが、目の前に血が川のように流れていた。

 なんとか剣だけは握ることができている。


「この者を癒せ!」


 ソフィアがふたたび回復魔法を唱えたが、その声は泣きそうに震えていた。

 肩の傷は治った。

 まだ戦える。


 二度、三度と同じようなことが繰り返され、俺は傷つき、そのたびにソフィアが回復魔法をかけた。

 徐々に俺は後退していく。


 魔術は術者の位置が対象から遠く離れれば、それに比例して効果も減弱していくし、逆に術者が対象に近づけば、比例して効果が向上していく。


 だから、ソフィアの強化魔法と回復魔法を受けるのであれば、ソフィアにある程度は近い位置に立つのが効果的だ。


 一方で、前衛が後衛である魔術師のそばにいれば、予想外の敵の攻撃に後衛を巻き込まんでしまうかもしれず、良いことばかりではないけれど。


 五回目の攻撃で足を切断されかけた俺に、ソフィアが後ろから懇願するような声を投げかけた。


「このままだとソロンくんが死んじゃうよ! 降参しよう。わたし、騎士団に戻るよ」


「それはダメだよ」


 たとえば、投降してソフィアの身柄を引き渡せば、俺と皇女フィリアの安全を保証するという約束をアルテたちがしたとする。

 その約束が守られるとは限らない。


 約束は反故にされ、俺は殺され、フィリアが道具として連れ去られる可能性も低くないのだ。

 俺は努力して冷静なトーンで、ソフィアに話しかけた。


「大丈夫、ソフィア。俺を信じてほしい。問題の解決策はあるから」


 ソフィアは「……うん」と短く応じた。

 たしかに俺は危ない橋を渡っているけど、実は戦う前に考えた計画どおりだ。

 

 双剣士カレリアと賢者アルテの二人組の最大の弱点は、二人の連携が万全ではないということだ。

 たまたま二人は一緒になって任務にあたっているけれど、性格も違えば、価値観も違うし、戦闘スタイルだって異なる。


 だから、俺はこの二人の連携を断つつもりだ。


 俺は宝剣を上段に構え直すと、さらに一歩、後退した。

 それを見たアルテは嘲笑した。


「後ろへ逃げることしか、先輩はできないんですか? まったく、まともに戦う方法も思いつかない役立ずなんですね」


 俺が後退した結果、アルテは相対的に俺から離れた位置に来ていて、その声はやや小さく聞こえる。

 俺は声を張り上げて問い返した。


「そういうアルテこそ、こんな方法で本当にソフィアを連れ戻すことができると思っているのかな?」


「はい。騎士団本部にお連れすれば、聖女様もきっと目を覚ましてくださいます」


 アルテの声は確信に満ちていた。


 そのときカレリアの剣が俺に迫った。

 俺はそれをかわし、右側からカレリアに対して反撃の剣を放つ。


 俺は言った。


「こんなふうに暴力を振るって仲間を傷つけるやつを、ソフィアが許すわけ無いだろう。それにソフィアは騎士団をやめて、平和な生活を送ることを望んでいる。アルテがソフィアのことを大事に思うなら、ソフィアの希望を叶えてあげるべきだ」


「いいえ。聖女様はソロン先輩に騙されているんですよ。聖女様の真の使命は最強の冒険者としてもっと多くの偉業を成し遂げてこの国に貢献すること。騎士団の団長として遺跡を攻略することこそが、聖女様の真の幸せのはずです。そのためには賢者のあたしの横にいるべきですし、価値のない者を切り捨てることだって、必要なことなんですから」

 

 俺は賛同できない内容だったし、ソフィア自身もそう思っているはずだ。

 でも、これがアルテにとってのあるべき聖女像なんだろう。


 アルテは愉しそうに言った。


「さあ、無駄話は終わりです! カレリア、決着をつけなさい!」


 アルテの言葉と同時にカレリアの碧と朱の斬撃が凄まじい速さで繰り返される。 

 俺はそれを捌きながら、後退を繰り返した。


 そして、ある一点を超えたとき、俺はカレリアの剣を強力に弾き返した。


 さっきまでであれば、速さの面でも威力の面でもそんなことは不可能だった。

 アルテの魔法の加護が、カレリア自身の剣技の速度と威力を高めていたからだ。


 けれど、いまは違う。


 俺は庭園の入口側の方に立つアルテをちらりと見て、それからかなり建物側へと移動してしまった正面のカレリアを見た。


 アルテとカレリアの距離は無視できないほどの大きさとなった。


 カレリアは不思議そうに自分の剣を見て、それからはっとした顔をした。

 魔術の加護は距離が遠ざかれば効果が薄くなる。

 

 俺の後退に引きずられてカレリアが前進するたびに、カレリアとアルテとの距離は開いていった。

 そのたびに、アルテがカレリアにかけた強化魔法の効果は低下していって、いつのまにかゼロになるほど引き離されていたということだ。


 俺が苦境をあえて大げさに見せつけていたのは、俺が後退している真意をさとられないためだった。

 

 ろくな連携をしていなかったアルテとカレリアの失態だ。

 カレリアがひるんだすきを突き、宝剣テトラコルドの刃がカレリアの碧の宝剣を捉える。カレリアは支えきれずに手から剣を落とした。


 俺はこの好機を逃さず、聖女ソフィアを振り返り、合図を送る。


 ソフィアがうなずくと、その綺麗な金色の髪が揺れた。

 そして、ソフィアは綺麗に澄んだ声で唱えた。


「この者を加速させよ!」


 それは俺が詠唱なしで使えるほど簡単な加速の魔術だ。

 だけど、それを聖女が全力をかけて行えばどうなるか。


 俺は前へ向けて大きく踏み出した。


 次の瞬間には、俺はアルテの前に立っていた。

 俺は宝剣テトラコルドをアルテに向けて振りかざした。


 賢者アルテの美しい黒い瞳は恐怖に見開かれていた。


「終わりだ」


 俺は剣をアルテめがけて振り下ろした。

 ほぼ同じ瞬間、アルテがぎゅっと目をつぶったのが見えた。

 

 きっと俺に殺されると思ったんだろう。

 でも、俺はアルテとは違う。

 

 宝剣テトラコルドはアルテのヤナギの杖を両断した。



☆あとがき☆

決着……?


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