第50話 双剣士カレリアの想い

 召喚士ノタラスの叫びとともに、地面から六体の魔族が現れた。

 腐食し、濁った見た目の獣のような怪物だ。


 そのそれぞれが鍵に似た銀の装身具を差し込まれている。

 それは魔族を制御するための道具だった。


 本来、人類の敵である魔族を使役するのは相当の危険なともなう。

 魔族は絶対に自分の味方にさせなければばならないし、反逆を起こされたり逃亡されたりしたら大問題だ。


 そこで銀の鍵状の道具、「王の鍵」が魔族の肉体に埋め込んであるのだ。

 古代王国最後の王が作り出したとも言われるその道具は改良を重ねられ、使役する魔族を服従させるための高い効果を発揮していた。


 しかも、手慣れた召喚士であれば召喚と同時にこの鍵を魔族に付加させることができる。

 召喚士にとっては必須のアイテムと言える。


「幹部以外の団員たちは我が輩のほうで引き受けます。ソロン殿とソフィア様は、幹部二人と戦うことに専念してくだされ」


「わかった。ノタラス、助かるよ」


「お安いご用ですとも!」


 ノタラスは軽快にそう答えると、一冊の書籍を懐から取り出した。

 杖と「王の鍵」と並ぶほど、召喚士にとっては魔導書も重要なものだと聞く。


 魔導書による強化と指令で召喚魔族たちは戦うからだ。


「さあ、行け! 我が輩のしもべたちよ!」


 ノタラスの号令とともに、六体の魔族が一斉に平団員たちのほうへと駆け出した。

 

 それを見つつ、俺は聖女ソフィアの前に立った。

 前衛は俺、後衛がソフィアということだ。


 聖女ソフィアは圧倒的な力を持っているけど、自分だけでは自分の身を守れない。

 ソフィアは攻撃に徹し、俺が盾役としてソフィアを守ることになる。


「頼むよ、ソフィア」


「わたしを守ってね、ソロンくん」


 ソフィアは俺の背中にそっと手を当てた。

 柔らかく、温かい感触がする。


 それは、ソフィアから俺への信頼の証だった。

 そして、俺たちはそれぞれの武器を構えた。


 敵も双剣士カレリアが前衛として防御を行い、賢者アルテが後衛として攻撃を担当することになるだろう。

 聖ソフィア騎士団の幹部だから、いずれも強敵だ。


 けど、俺たちも聖ソフィア騎士団の元団長と元副団長だ。

 きっと何とかできるに違いない。

 俺がうまく盾役を努め、聖女ソフィアの力を万全に発揮させることができれば、間違いなく勝てる。


 そして、仮に勝てなくても、時間を稼ぐことさえできれば、もう一つ、秘密裏に打っておいた策が効果を発揮するはずだ。

 結界だけが俺の頼みの綱ではない。


 双剣士カレリアは両手に二つの宝剣を握り、それをまっすぐに俺に向けた。

 碧の宝剣ロゴスと朱の宝剣パトス。


 どちらの宝剣も、昔、聖騎士クレオンが使っていたものだ。

 クレオンは帝都北方の大迷宮攻略時に秘宝である聖剣を手に入れた。

 

 その後に、宝剣ロゴスとパトスは、クレオンがカレリアに譲ったのだという。

 どちらの剣も聖剣ほどではないが極めて高い価値を持つし、双剣士がそれを二つ同時に使えば、黒竜の鱗をたやすく断ち切るほどの威力を有するはずだ。


 そして、その二つの剣は、きっとカレリアにとっては別の特別な意味がある。

 尊敬し、好意を寄せるクレオンからの贈り物なのだ。カレリアは二つの剣をとても大事にしていると聞いていた。


 カレリアは少女らしい高い声を張り上げた。


「決着をつけてやる、魔法剣士ソロン! 貴様などいなくても、聖騎士クレオン様さえいれば騎士団が安泰であることを証明してやろう」


 次の瞬間、カレリアが俺の目の前にいた。

 おそらく賢者アルテの加護を受けて、速度を増しているのだ。


 二本の剣が左から俺に襲いかかる。

 俺はなんとかその剣を受け止めた。


 俺は宝剣テトラコルドを振り、反撃に出ながら言った。


「カレリアに聞きたい。どうしてクレオン自身が聖女ソフィアの説得に来なかった?」


「クレオン様はお忙しいのだ! あの方は計画の実現のために、皇帝官房第三部の要人と会っているのだから」


 皇帝官房第三部?

 皇帝直属の秘密警察組織のはずだ。

 どうして聖ソフィア騎士団の副団長が秘密警察になんて用があるのか。

 わからない。

 

 それに、そんなことが聖女ソフィアを連れ戻すことよりも重要なことだとは思えない。

 ここにクレオンが来ていないのは、何か別の理由があるのではないか。


 そんな気がした。

 俺は言った。


「婚約者を連れ戻すのを、よりにもよってカレリアに任せたのか。クレオンもひどいことをするな」


 俺が言った瞬間、カレリアの剣筋が若干ぶれた。

 たぶんだけれど、クレオンのことが好きなカレリアにとって、ソフィアという婚約者がいるのは複雑な気持ちだろう。


 ソフィアのほうがクレオンのことをなんとも思っていないとしても、少なくともクレオンのほうは聖女ソフィアを連れ戻そうとする程度には必要としている。

 クレオンは、自分に片思いしている相手に、自分の婚約者を連れ戻させているという、なかなかひどいことをしているわけだ。


 カレリアは碧の宝剣ロゴスを力強くこちらへと振り下ろし、俺はそれを受け流した。


「クレオン様を悪くいうのは許さない! 私はあの方に憧れて、この騎士団に入ったんだ!」


「クレオンはいいところもあるけど、欠点もいっぱいあるやつだよ」


「昔からのクレオン様の知り合いだからって、なんでも知っているみたいな口をきくな! 私は貴様のそういうところが嫌いだったんだ」


「憧れているだけじゃ、クレオンの気持ちは手に入らないよ」


 明らかに動揺しているカレリアに対し、俺は冷静に言って、それから宝剣テトラコルドを振った。


 通常の斬撃に加え、炎の攻撃魔法も同時にカレリアの足元に放ったのだ。

 俺は、剣技ではカレリアに劣り、魔法ではアルテに遥かに及ばない。


 けれど、二人と違って、両方をそれなりに使えるのが俺の強みだ。

 カレリアは足元の炎に気を取られ、避けるために若干姿勢を崩した。

 

 そこに宝剣テトラコルドの刃が迫る。

 しかし、テトラコルドの刃はカレリアに届かなかった。

 

 アルテが魔法障壁をカレリアの前に展開したからだった。

 離れた位置からアルテはくすりと笑い、その美しい黒髪をかきわけた。


「聖女様がどれほど強くても、先輩が三流以下であるかぎり、あたしたちには勝てませんよ」


 そして、賢者アルテはヤナギの杖を大きく振りかざした。




☆あとがき☆

いよいよ決着へ……!


『女神な北欧美少女のクラスメイトが、婚約者になったらデレデレの甘々になってしまった件について』

もカクヨムで新たに投稿はじめました!

↓のURLです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859171173499


フィンランド人の美少女クラスメイト、お嬢様の幼馴染、一途な女友達……に彩られたイチャイチャ同棲ものです!


宜しくおねがいします!

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