第一六四話

鬼月雛にとってそれは何等の葛藤もなく行われた事であった。彼女にとってはそれは普段と全く同じ行いに過ぎなかった。


 周囲の者達は違う。黒蝶婦の助けもあって一度抜け出した走縄が再び雛を締め上げる。いや、先程よりも遥かにきつくきつく、柔肌に痕が出来る程に締め付ける。五臓六腑が潰れそうになるような圧迫……彼女にとっては大した事ではなかった。


「式は?侵入は成功したか?」


 雛は距離を取って佇む元稚児に尋ねる。彼の目に触れさせるのも穢らわしい汚物であるが、この場においてはこの者の腕は不可欠だ。故に平静に声を掛ける事が出来た。


「……あぁ。監視役の奴らの数は減ってる。そいつらも陽動の動きに反応していて此方には気付いていない」


 淡々と、感情を排した義務的な報告が返る。雛も白若丸も知っていた。聞いていた。彼が何等かの策で以て天狗共を抱き込んだ事を。監視役共の内、手練れは既に離れている。そして雛の志願した作戦に従い、使節団の人員は敢えて天狗の目に触れるように禁地の中をジリジリと進んでいた。最後に徹底的に機能を限定して隠行させた式……それらの要因が重なる事で、この作戦は成功に導かれる手筈となっていた。


「さて、と。黄曜、やろうか?」


 呼び掛けに反応して天よりその物は現れた。神々しい後光と共に参上してきたのは龍である。


 全身を金色の鱗で包んだ威厳に満ちた大龍……朝廷の記録に書き記され、広く知られる絵巻物でも伝えられている神龍。鬼月の家が虎の子として従え、雛が契約する『黄曜』そのものであった。


『……』


 普段は放し飼いされている神龍は雛の眼前で着陸すると目蓋を細めて観察するように主君を見下ろす。あるいは困惑しているようにも見えた。尤も、その姿を見れば当然であったが。


「良く来てくれた。早速だがお前にやって貰いたい事がある」


 従える龍の困惑を当然のように無視して、雛は凛々しく、あるいは淡々と説明をしていく。永く生きて知性と理性に優れた龍種というものは人の言葉を解するのは容易であったが、今回に限れば例外のように思えた。


『…………???』


 雛の発言に、声こそ上げぬものの明らかに龍は混乱していた。意味不明過ぎる主君の言葉にその格好も含めて動揺していた。雛にとってはどうでも良い事である。


「分からんか?ならば今一度言うぞ?」


 そして雛は頭の鈍い己の下僕に向けて今一度語り聞かせる。……龍からすればその混乱に更なる拍車をかけるだけであったが。


「……ちっ、もういい。黄曜、お前に理解を求めてはいない。命令に従えば良い。それだけの事だ。余計な事なぞ考えず己の職分を全うしろ」


 冷酷ですらある雛の要請に、それでも尚も龍は動かない。ただただ一の姫を見つめ続け、何かを訴えるように低く唸り食い下がる。


 しかしながら、その苦労は徒労と化す。


「兄貴がいた……!!待て、これは!兄貴、危ない!!?」


 式との視覚を共有した白若丸の声音は喜色を得て、しかし即座に悲鳴が上がった。それが何を意味するのか雛は詳しく尋ねる必要すらなかった。その暇はなかった。


「黄曜……!!」

『グオオオォォォォッ!!!!』


 雛の咎めるような催促は、何処までも鋭かった。殺気立っていた。最終警告。直後の咆哮。そして業火の吐息が雛を包み込んだ。一流の退魔士すら致命的な灼熱の獄炎……!!


「あぁ、待っていてくれよ?直ぐにお前の下に……」


 意識が業火に呑み込まれる刹那、うっとりと恍惚に浸り切った表情で、雛は甘く囁いた。身体を包み込む浮遊感と喪失感なぞ気にもせず、ただ己の利き腕を見た。掌を見た。


 小指を切り落とした手を見て、甘く、甘く、そして溶けて、熔けて、融けて……熱と光の中で彼女の意識は消失した。


 これまで幾度も体感した感覚に、雛は恐怖なぞ微塵も感じなかった。


 ……世界が回る。視界を蒼白い炎が覆う。即座に意識は覚醒し、霧散していた四肢の感覚は復活する。


 正面には強大で邪悪な存在の気配。どうでも良い。痛いくらいに感じる視線に思わず下腹部が疼いてしまう。頬を炎以上に火照らせてゆっくりと振り向いた。


 愛しい愛しい最愛の彼と再会する。逢瀬する。


「済まない。……遅れてしまったな?」


 優しく優しく囁いた。


「ここは私が引き継ぐよ。お前は退避してくれ」


 そして迫り来る邪魔者向けて、異能の範囲内として同じく再生された刀を引き抜いた。


 化物に斬りかかる。同時に身体だけでなく持ち物や装束までも再生されている事を、雛は頭の片隅で酷く疎ましく思ったのだった……。







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 基本的に退魔士家は代を重ねるごとに強くなる。それは代々の婚姻によって血統が積み重なる事により受け継ぐ霊力の総量が増加するためである。


 逆説的に言えば歴史の浅い家は継ぐ霊力もまた少ない。それは致命的であった。妖は人を超える身体能力を持つ。超常の力を持つ。霊力の寡多は身体強化、霊術呪術の手数、継戦能力に関わる。必須の要素であった。


 人妖大乱により古き家の多くが断絶し、朝廷はその穴埋めを迫られた。多少の質は妥協せざるを得ない。とは言え粗製乱造にも限度がある。


 故に朝廷と陰陽寮が着目したのは異能であった。これまでは身体能力と霊術呪術の付属品として扱われてきた一発芸というべきそれを正規の退魔士任命に際しての評価対象とする事で人材の門戸を広げんとした。


 殻継稲葉の、あるいは殻継家もまた同様。突然変異的に発生した異能によりて退魔士家としての道を歩み始めた……そうだ。


『駆使為拏』、その異能はある種の傀儡術であり式神術の変型である。対象に向けて特定の形状の得物によって傷をつける事でこれを操る。より詳しく語るならば、意識はそのままに肉体のみを操る。


 肉眼の視界に映る範囲内で、同時に操作出来る対象は一つのみ、しかも傷が癒えたら権限を失う。決して使い勝手の良い異能ではない。しかしそれでも俺を取り巻く状況下では確かに意味があった。


 走縄だけでは動けなかった。あれは極論身体を「支える」だけである。残念ながら補助的なもの、底上げであってそれだけである。それだけでは、到底俺は動き切れなかった。天狗連中を今すぐ誑し込む必要があるならば尚更に。


 稲葉姫の得物は串に似た大柄な戦棒である。大柄なのも打撃武器であるのも計算の内である。当たり判定を極限化させるため、そして戦法の欺瞞のためである。


 串で殴られた。鬱血。そして俺は操作された。天狗共に高度を指定したのも、俺が大言壮語で挑発し続けたのも注意を逸らすためである。異能の関係上、肉眼で見える位置に彼女はいなくてはならない。マップ攻撃で吹き飛ばさせる訳にはいかなかった。


「とは思っていたが情けねぇな……!!?」


 眼前の姫と蛇の激闘を目撃しながら俺は吐き捨てる。己の不甲斐なさを思っての事であった。


 間一髪であった。どのような仕掛けか、雛が現れなければ俺も、稲葉姫も死んでいた。天狗連中は根切りされていた事であろう。少なくとも雛の参戦はその運命の確定を阻んだ。幸運に他ならない。


「素直には喜びにくいな……!!」


 それは罪悪感であり、それ以上にプライドの問題で、しかしそれこそ自己満足であった。何はともあれ救われた者がいるのだ。俺がそれに不満を述べるのは筋違いであった。


「……姫様、聴こえていますか!?返事をして下さい!!」


 葛藤を押し退けて、俺は法螺貝に向けて叫ぶ。呼び掛けへの返答は暫ししてからやって来た。


『聴こえて、る……』


 法螺貝特有のくぐもった声音は、淡々として無機質で、それを装って尚も震えている事が分かった。神格の大蛇に睨まれたのだ。生きた心地はしなかっただろう。


「そうですか。……今すぐ場所を変えて下さい。予備の監視地点に向かって下さい!」


 既に位置がバレた以上、隙を狙って光線でも吐かれかねない。薙払われる前に彼女は移動せねばならなかった。


『まだ、やるの?鬼月の姫が来た。勝てない?』


 途切れ途切れに、しかし問い掛ける稲葉姫。視線を向ける。其処では早々に頂上決戦が行われていた。


 視界が爆ぜた。光線が払われて周囲を吹き飛ばしたのだ。雛は全身を蒼炎に包みながら湯面を駆け抜けて大蛇に肉薄していく。


『シャアアアアァァァ!!!!』


 蛇の鳴き声は威嚇であり、攻撃の合図だった。湯面から次々と飛び出す毒蛇共。それら全てを歯牙にも掛けず雛は迫る。触れるものは無条件に滅却する業火により、無力化する。


「はあぁぁぁっ!!」

『……!!?』


 そして振るわれる刀。大蛇の顔面の一角が肉片を散らして吹き飛ぶ。上がる怪物の悲鳴。


 尤も、それに喜ぶ程俺はお気楽ではない。とっくに分かっていたし聞いていた。その権能の前では雛の会心の一撃も、また……。


「何……?」


 雛は顔をしかめる。彼女の眼前で相対するは切り落とされて、焼き爛れた頭の断面。其処から噴き出すのは無数の蛇の姿であり、盛り上がるようにして分裂と増殖を繰り返す蛇共はそのまま身を寄せ合い大蛇と密着する。そして……同化する。


 条件付けによる自己再生。山姥のそれに似た理不尽な神の力。その一端であった。


『シャアァァァァァッ!!!!』


 嘲りながら蛇は一転、雛を攻め立てる。溶解液を凄まじい勢いでばら蒔いた。ウォーターカッターと化した無数の毒飛沫。毒液の散弾である。食らえば最後、着弾箇所から肉が融けて大穴が出来上がるだろう。死の豪雨だ。


「なめるな!!」


 業火で己に降りかかる毒液を問答無用で滅却していく雛。異能を全面に押し出した強行突破である。


《脳筋猿がっ!!》


 其処に尾の一撃が来て叩き飛ばされる。遥か彼方に飛ばされていく寸前、全身が発火する。火球の中から大蛇に向けて突貫する女刀士。


 無論、蛇の尾は雛の身体から放たれる炎が飛び火してその肉を滅却させていた。本来ならば緩慢な逃れられぬ死が運命づけられる所であるが……蛇の肉は燃え盛る所から裂けるように切れ落ちて、断面からは先程の頭の時のように子蛇が溢れて新たな肉を形成していく……。


「権能か何か?ならばその神力、枯渇するまで殺し続けてやるまでだ!!!!」


 その様を見て咆哮する一の姫。その言は正しい。実現困難である点を除けばという枕詞を必要とする事を無視するならば。


(雛の霊力が先に尽きる……!!)


 雛の異能は燃費は決して良くはなくて、雛の有する霊力はその華奢な身体相応だ。地力で勝り攻撃が効かぬ相手との消耗戦は明らかに悪手であった。


「見ての通りです。当初の予定通り、あの手で行きます。……御気持ちは分かりますがどうぞ御協力の程御願い致します」


 こんな苛烈な戦場、とっとと脱出したいだろう心情を察しつつ俺は頼み込む。彼女の協力はこの場を切り抜けるためには必須だった。


『分かった。なら……先ずはあっち?』


 法螺貝からの返答。それに頷いて、俺は空を見上げる。雛には悪い事をするが、先に彼方をどうにかしなければならないだろう。


 天狗と鬼による、まるで演武のような苛烈で華麗な空中戦を見ながら俺はそのように思った……。




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 飛行出来る事はそれ自体が大きな利点である。重力の関係上、上方から下方攻撃する事は容易であり、逆に下方から上方に攻撃する事は、特に有効打を与える上で困難を極める。


 それだけではない。自由自在に飛行出来るという事は危険から迅速に離脱出来る事を意味する。地の利ならぬ空の利、それを得る事で常に己に優位な環境を保ち続ける……天狗は特に有象無象の鳥妖や蟲妖に比べてもより飛行に長けている。


 翼だけに頼るのではない。天狗はその翼自体が、その羽根自体が濃厚な妖気を帯びた一種の呪具であり、空中に漂流する霊力を吸収して、放出する事で空力のみでは不可能な変幻自在な高速飛行が可能となるのだ。


 天狗の赤坊長は、楓花はそれを知っていた。荒事専門たる赤坊組は殊更天狗の長所たる飛行技能を鍛えていたのだから。外敵と対する上で自分達の強みを活かさぬ理由はない。


 そして楓花は実際、暗摩の天狗の中でも五本の指に入るだけの飛行技能の持ち主であった。戦いながらでの飛行であれば三本の指に入るだろう。その異能を加えれば誰よりも飛行に長けているかも知れない。


「その、筈なんだがね!!?」


 叩き潰される直前での拍手。鬼の背後に入れ替わる。縄を振るう。首を締める。首を振るわれて逆に自分が投げ飛ばされる。慌てて縄を切り落として距離を取る。鬼は落下とすると共に即座に湯中を蹴り出して湯面まで上がってくる。上がって、湯面を走って行く。


「ふざけやがって!!」


 楓花は吐き捨てる。鬼は跳ぶ事は出来ても飛ぶ事も翔ぶ事も出来ない。加えて湯の濁流は足場の制限によって鬼の機動力を殺す意味合いもあったのだが……あんまりにも非常識な鬼の解決法に愚痴りたくもなる。愚痴りつつ、焦燥に支配される。


 何度も跳躍して仕掛けて来る鬼の一撃必殺の拳や刃を紙一重で避けきって、僅かな隙を突いて視線を彼方此方へと向ける。向けて舌打ちする。


『糞、まだ来るか!!あの猿め、何時になったら糞蛇殺せるんだよ……!!?』

『嘆かないで!!今更後戻り出来ないんだから!!こうなったら最後まで付き合うしかないでしょうが!!』

『母様は!?母様はどうなっている!?助けられたのか!!?』

『山吹が重傷だ!!誰か援護してくれ!!後方に下がらせる……!!』

『畜生!!やってやる!!やってやるさ!!来やがれこの害虫共がぁ!!』


 上空は阿鼻叫喚の一歩手前の喧騒に包まれていた。


 天狗はその種族としての素質は下限でも並の中妖を超える。大妖並みの素質を持つ者も少なくない。


 しかしながら下手に社会性を有する故に、分業化が進んでいた。全ての天狗が荒事に精通している訳ではない。赤坊組や黒坊組を除けば最低限の護身の心得しかないのも多かった。どのような適性も素質も、磨かなければその価値はない。蛇の下僕共の数もあって里の天狗達は次第に圧されていく。一気に崩壊しないのはその組織力と飛行能力のお陰であった。


 破綻は時間の問題だった。蛇か鬼か、どちらかが迫れば虐殺が始まるだろう。均衡は薄氷の上のものであった。


「ちっ、母様は!?」


 舌打ち。そして彼女は母を見る。番犬(?)の滑った腕(?)に抱かれて、隻腕の傷まみれの天狗が離れていくの目撃すると楓花は安堵する。直後に拍手して位置を変えて鬼の蛮刀を回避する。


 そして楓花は視線をそれに向ける。


「アイツは……!!?」


 暴れる大蛇の方向を振り向いて、そして其処で天狗は困惑した。漸く気付いた。その業炎に。


「あれは!?」


 大蛇と死闘を演じる炎に包まれた華奢な女刀士の姿。獣のような咆哮と共に蛇に仕掛けるその光景に瞠目して、直ぐにその人物の正体に心覚えがある事に思い至る。


「あの女、誘拐した時に出しゃばって来やがった……御礼参りにでも来たのか?」


 一瞬の困惑。しかし即座により優先するべき者がいる事を思い出す。そして直ぐ様その男の姿を探そうとして……暗い影が背後に迫る。


「このっ、!!?」


 拍手は、異能の発動は姿勢の関係から間に合わないと悟る。故に一気に急降下して蛮刀の一撃を避け切る。避け切って、しかし湯面で踵を返そうとしてそれは現れる。


「ちぃ、雑魚が!!?」


 湯面から飛び出す毒蛇海蛇。噛み付こうとして、毒液を吐こうとして、破裂しようとするのを翼による一迅によって払う。だがそれは失速を意味した。動きが止まる。加速するまでに必要とするのは数瞬の刻。鬼相手には致命的であった。


『グオ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ォ"ォ"ォ"ッ!!!!』


 強過ぎる酒気が鼻を不快に擽った。一気に肉薄していた鬼。いや、それは飛びかかっていた。大口を開けて、楓花に向けて襲いかかる。振り向いた時には既に無数の鋭い牙が彼女を半ばまで包みこんでいた。視界が暗くなる。滑り気を帯びて赤黒くなる。やはり、拍手は間に合わない。


 食い千切られる……!!それを覚悟してせめて相討ちを狙って何かせんとして、しかし高速で思考を回した行いは徒労に終わった。


 巻き戻ったかのように視界は開けた。ガチン、という顎を綴じる音は楓花が顎内から解放された直後に小気味良く鳴り響いた。数瞬でも遅ければ死んでいた。


「縄……?」


 そして己を救い出したのが鬼の首を背後から引っ張り上げて、締め上げている走縄である事に気付いて意識は更にその先に。そして湯面を突き抜けた大樹に縄を巻き付けて固定している男の姿を認めた。即刻飛び立ちそちらに向かう。


「間一髪だったな……!?」

「お前こそ、生きてたのかよ!?何処で遊んでいるのか探すのに苦労したんだけどねっ!?」


 売り言葉に買い言葉。しかし其処に嫌味はあっても悪意はないのは楓花も分かっていた。軽いじゃれ合いである。


「一旦、何処か隠れるか?」

「馬鹿言わないで頂戴。ウチの連中皆殺しにさせるつもりかい?」


 深く肉に食い込んで、しかも背後から幾重にも巻き付く縄は剛力の鬼でも力学と肉体構造の問題から力尽くで引き裂くのに苦労しているようだった。苦労しているだけで時間の問題だった。間違いなく百、いやその半分も持たないたろう。


「それ程か。……ならば、やはり姫様には御願いしなければ」


 道連れの人皮の男は横目に蛇と炎の死闘を見やる。地獄を思わせる激戦は互いに決め手のない千日手に陥りつつあった。いや、この分だと女の方が先に息切れするか?


「当初の予定通りに行こう。飛んでくれ、姫様に伝えなければ」

「あの中を、かい?死ねと?」


 明らかに触れたら危ない蒼白い獄炎。それが火の粉として遠慮もなく彼方此方に舞い上がり、舞い散る火中に突っ込めとは……容赦のない猿である。


「俺のためじゃねぇ。お前のお仲間と母様のためだ。それとも、お前の技芸でもあの中は怖いかね?」

「はは、冗談!」


 最後の挑発に敢えて乗り、楓花は男を縄で締める。締めて、抱き締めて、胸元に固定して、舞い上がる。オマケとばかりに残る縄は鬼にくれてやった。後少しで逃れんとした所に顔面に手首、肩をと締め付けて妨害する。これで今少しだけ時間を稼げるだろう。そうだと思いたい。


「一気に行くよ!お前さんが話すんだ、着くまでに舌噛まないでよ!!?」


 男を抱えた楓花は突風となり、火中な渦中の中へと果敢に突っ込んで見せた……。








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 大蛇と天狗と、鬼と不死者と人外人が入り乱れて戦っている中、其処から遠く離れた天狗の里の郊外。其処でも戦いは繰り広げられていた。


 ……狐璃黄華は典型的な妖狐である。妖狐としては正統の、そして正道を行くものだ。


 元来妖狐という種は悪知恵に長けて、幻術に秀でた妖である。高い知性とそれ以上に深い悪意とで人々を欺き、惑わせて、貶める。奸智の獣共……。


 その習性から其処らの妖より余程人の社会に害を与えるとして扶桑国を含む幾つもの国から優先的に弾圧と駆除の対象となってきた。そしてそれは真に正しき判断であった。


 種として圧倒的に牝が多く、そして暴力的に美しい事で妖狐という種族は知られる。だからといってそれに騙されてはならない。妖の美貌は見掛け倒しというが、妖狐の場合はある意味でそれ以上に悪質だ。


 美人が心まで美しいとは限らない。まして妖は尚更に。狐璃黄華はそんな妖狐の見本そのものだ。


 嘗て義長姉様として崇めていた黒狐の如く幻術を超えた多種多様の術を高度に使える訳ではない。忌々しい白狐の義妹のように単純な暴力が突出している訳でもない。しかしその二獣に比べて、黄華は妖狐として確かに秀でていた。


 純粋な幻術の枠内に限り、この八尾の狐は確かに黒狐にも白狐にも勝っていた。加えて、相手の一挙一動、僅かな表情の変化から相手の感情と思考を察して先読みする……数々の男を魅了して無惨に破滅させて来た妖狐にとって、それは実に容易な事であった。


『さぁさぁ、鬼さん此方!手の鳴る方へっ!何てですねぇ!!』


 キャハハハ、と嗤って樹林の中を跳び跳ねていた狐は消える。消えるように視界から消える。直後に松重牡丹は横合いから放たれた無数の鬼火を弾き落とした。弾き落として、一つが鬼火に見せ掛けた短刀である事を見抜き切れなかった。


「くっ!!?」


 掌に突き刺さった短刀を牡丹は乱暴に抜き取る。理由は起爆札が貼り付けられていたからだ。人気のない所に投擲する。爆発する。判断が一瞬遅れていたら腕が弾けていた。


『ハッ!!判断が早いですねェ!!夢魔だから思い切りが良いのですかね!!?』

「狐がっ!!」


 四方八方から反響するような嘲り。無数の分身が翻弄するように周囲を跳び跳ねる。牡丹はそれに向けて罵倒するように吐き捨てた。お前それ絶対褒めてないだろ、と内心で突っ込みを入れて。


「忌々しい……!!」


 そして牡丹はそれを啜る。腰に巻き付けた護謨袋を一つ引き千切る。タプンと音が鳴りそうに震えるそれの濃厚な中身をしゃぶり尽くす。途端に癒えていく掌の穴……それに一層不快になる。


「折角の在庫が減ったじゃないですか!どうしてくれましょうかね……!?」


 そして鋭く五感を働かせて、牡丹は跳躍する。樹林の一角、何もない場所に向けて。


 殴る。幹が砕ける。何もない。何も見えない。しかし確かに牡丹の五感は何もない筈の場所の空気が乱れている事に気付いていた。まるで何かが通り抜けたような気流の僅かな乱れ。その行き先は……。


「其処かぁ!!」

『おっと、危ナァイ!!?』


 引き締まった尻を振るうように。そして実際にそれは振るわれた。何かが空を切り裂く。狐は慌てて這いつくばった。頭の上を刃が遠ざかる。先端が刃状の、長い長い悪魔の尻尾である。因みにある程度伸縮自在なので鞭のように使えた。


「外れたか……!!しかしっ!!」


 枝の上で四つん這いとなった半獣半人染みた狐を掠れるように見出だした。牡丹は即座に突貫する。蹴りつける。狐は慌てて避ける。枝木が無数の粉塵と破片を四散させながら千切れ飛んだ。相撲取りの胴体に匹敵する太枝が、である。


『馬鹿力が!!』


 罵倒。そして消える狐。牡丹は苛立つ。

 

(中々に技巧派ですね。獣の分際で道具も使いますか……!!)


 単純な腕力では恐らく……そしてある意味不名誉な事に……此方が圧倒している。しかしながらそれも当てられなければ意味はない。


 狐璃黄華は何処までも妖狐らしく牡丹を翻弄していた。五感は、特に視覚は当てにならなかった。常に複数の幻術を重ねて仕掛けているのだろう。妖としての因子から来る超感覚がなければ複雑怪奇な幻を見切れなかったし、それがあっても尚完全には見切れない。


(いや、集中出来れば出来ない事はありませんが……っ!!)


 横目にそれを見ながら牡丹は舌打ちする。集中すれば幻術を見抜くのは不可能ではない。しかしそれは出来なかった。正面にのみ意識を向ける訳にはいかない。牡丹には守らねばならぬものがある。


 まるで物見遊山するように、樹上御殿の窓よりて戦いを見守る中納言のその呑気な姿に僅かに苛立つ。苛立ちながら護符を放ち隠行された火の玉から貴人を護る。


『隙アリぃ!!』

「っ!!?」

 

 そして観察眼に優れた金狐は意識の逸れた瞬間を見逃さない。横合い斜め下より、何処からともなく抜いた暗器の短刀を突き立てる。その滑り具合から明らかに宜しくないものが塗ってあった。


 華奢な横腹に突き刺さる。幻影だ。狐を抉る。立ち消える。狐が数体現れる。同時に仕掛ける。一番左の者以外はただの影である事を牡丹は知っていた。


 幻術合戦であった。互いに偽りを見せて見せられ、精神を侵食するように魅せようとして、騙して欺き嵌め落とさんとする。第三者が見れば視界を埋め尽くすありとあらゆる幻の前に理解が飽和していただろう。


(若干、押されて来ていますね……!!地の技量は彼方が上ですか!)


 当然の話である。夢魔は確かに幻術に長ける。しかしながら松重牡丹が夢魔と化して一年の刻も経ていない。生まれながらの妖狐に及ばぬのは無理もない話だ。寧ろ食らいつけているのが奇跡であった。それは彼女の退魔士としての経験、祖父の教え、そして取り込んだ因子の品質のお陰である。


 ……狐にとっては若造相手に拮抗されるなぞ矜持の傷つけられる事この上ない話ではある。


『コノ程度でぇ!!ナメてくれるナァ!!!!』


 狐はその幻術の段階を一段、いや。二段上げる。激しく激しく、幾重にも幻を見せて牡丹の五感を出し抜こうとする。分身は数知れず。四方八方から様々な声が重なる。嗅覚は百の香の前に意味を成さず、偽りの熱さと寒さが精神を削いでいく。


 均衡は徐々に、次第に明白に崩れ去る。牡丹は防戦一方に追いやられる。


 ……そのように、見せ掛ける。油断を誘い、慢心を誘う。そして繰り出す。その切り札を。


「余り使いたくはありませんでしたが!!」


 腰に巻いた護謨袋を二つ、引き千切って噛み千切る。爆発的に増幅する妖気。強化される肉体。五感。全能感……!!


「は、ははっ!!」

『ぬおっ!!?』


 己のものとは思えぬ嘲笑と共に牡丹は反転攻勢に出た。


 妖狐に比類するだけの幻術。そして大きく超える腕力。腕力。腕力。……剛力による物理で幻想をぶち壊し、幻術を打ち壊す。其処に術比べの浪漫は欠片もない。無くて良かった。松重の人間は、退魔士は仕事にそんな無駄な物は求めない。妖狐に真正面から術だけで競うのは市井の物語だけである。


『こんのっ!!?』


 先程までとは次元を一つ超えた超感覚は幻術を無力化し、身体能力は無理矢理罠を術を、策略を粉砕する。こうなると純粋な火力に不安のある妖狐は決め手を失っていた。戦局の天秤は先程までとは逆側に一気に傾く。


「そして、駄目押しの……!!」


 追加に巾着宜しくブラブラと吊り下げていた護謨袋を更に噛み千切る。乙女の尊厳を溝にぶちこみ、牡丹は畳み掛ける。


『不味い……ガバッァッ!!?』


 慌てて幻術による分身を無数に放ち目眩まし。本体は逃げ出さんとするが無駄だった。胸元を見れば心の臓に生えた腕。超感覚は幻術を僅かな違和感から全て見抜いて一直線で本体へと導いた。そして止めである。


『ば、か……な?』

「時間ギリギリでしたね。全力だと小袋程度の分量では直ぐ効果が切れますか。燃費の悪い」


 驚愕する狐。淡々と呟く牡丹。護謨袋の中身は小分けにし過ぎたようで、もう身体能力も超感覚も、平時に戻りつつあった。無論、それでも破格の効力ではあった。


 もっと燃費の良い体液の存在を牡丹は知っていたが、流石にそれを採取するつもりも利用するつもりもない。冗談抜きで勘弁して欲しい。


「……さて。上手く心臓を抜けましたね。頭が潰れずに幸いです」


 一瞬げんなりとして、気を取り戻して牡丹は思考を本道に戻す。この狐の頭の中には用があった。後程色々聞き出すためにも首だけは無傷で手に入れたかった牡丹である。


 故に手刀を作る。首を切断しにかかる。そして……。


『馬鹿な淫乱猿ですねぇ!!?』

「っ!!?」


 背後からの嘲笑。振り向くと共に八本の尾で以て牡丹は叩き飛ばされた。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。その行き先は中納言のおわす樹上御殿。突っ込んで壁をぶち抜く。それは牡丹が狐に仕掛けた不意打ちそのままの意趣返しであった。


「がぁ!!?」


 驚愕。困惑。激痛。それら全てを後回しにして、牡丹は立ち上がる。急いで己を強化しにかかる。腰に手を伸ばす。


「っ!?袋が!!?」


 補充のために掴もうとした護謨袋は、しかしその手をすり抜ける。そして全身に巻き付けていたそれが全て朝露の如く霞んでいく。狐を見る。掌には握り潰された無数の護謨袋。悪意に満ちた笑顔。嵌められた。きっと、最初から……!!


「この……かはっ!!?」


 気付いた時には既に左右の横腹に突き刺さる刀。きっと刀で串刺しにされていた事自体が幻術で欺瞞されていた。極まった幻術は限定的な概念攻撃でもある。一時的に世界すらも騙してしまう。ましてや個人の傷や痛覚を誤魔化すなぞ余りにも易い。


「ぐっ、ふっ……!!?」


 致命傷でなくても限りなく致命的であった。五臓六腑の半分近くが大刀を豪快に突き立てられた事で傷付いていた。その場に倒れ伏すのは必然であった。


 気配が迫る。牡丹は必死に足に力を入れんとする。立てない。どうあっても、筋繊維が切り裂かれていた。


『お馬鹿さんですねぇ?幻術勝負で狐に勝てるとでもぉ?思い上がりも大概にして欲しいんですよねぇ?』


 倒れ伏して、震えながら立ち上がらんとして果たせずにいる牡丹に向けての狐の嘲笑。しかしながらそれはある意味では不公平で理不尽なものであった。


『狐之窓』……限りなく凶妖に近い大妖たるこの狐妖怪の有する権能の効果は単純明快にして妖狐らしい程に妖狐らしいものである。


 即ち、幻術系の呪い・能力の強制解除。その利点は実力差、特性すら無視して最優先で発動する事である。


 牡丹と黄華の戦いの拮抗は互いに幻術を仕掛け合う事前提であった。超感覚も、牡丹の幻術を無視して全力で己の幻に集中出来るなら黄華は欺き切れていた。黄華と幻術勝負をする事は最初から絶対の敗北を意味していた。全ては茶番劇だった。


『上手く嵌まりましたねぇ?分身が解けてるのに、強化も解けてるのに、気付かず勝ち気に、間抜けなキメ顔!!アハハハ!!まぁ。御遊戯としては悪くなかったですよぉ?』


 立ち上がろうとしたところを蹴り上げて、床に打ち倒される牡丹を見て奏でる豪快な罵倒。類い希なる美貌を醜く歪ませる。この狐、荒事は得意ではないが嗜虐心は一流であった。勝てる相手と思えば態々手加減して、相手に勝機をちらつかせては希望を見せる。そして急転直下で絶望に突き落とす……そんなのだから嘗ての義長姉が次席につけずにいたのだが本狐は露知らぬ事である。


「くっ……こ、の」

『させませんよぉ♪』


 術を仕掛けようとする前に、妖しい動きをする掌に刀を突き刺す。床まで突き抜けて串刺しにする。漏れる悲鳴。重ねる嘲り。


「狐、がっ……!!」

『先程は良くも心臓ぶち抜いてくれましたねぇ?知ってますかぁ?人を呪えば穴二つですよ?あぁ、私妖ですけど!!』


 どっと腹を抱えて狐は何十にも声を重ねて笑う。牡丹を何処までも嘲笑う。屈辱に歯を噛み締める牡丹。狐にとって、最高の表情だった。


『さてさてぇ。では永遠にさようなら♪』


 当て付けのように、金狐の八本の尾が淫魔の胸元を貫いた……。








『さーてと。漸く邪魔者がいなくなりましたしぃ。これからが本題でお楽しみなんですよねぇ?』


 牡丹の骸を放置して、狐は悠々と御殿の中へと足を踏み入れていく。狐にとってそれは今や最優先の目標の一つであった。目的達成のためには必要な獲物、首であった。


『そーこーかー?』


 妖の鋭い感覚は即座にそれに感づいた。壁を二枚程ぶち抜く。そして見つけ出す。呑気に茶を注ぐ猿を。護衛に侍る天狗が一匹……。


「ん?おお、終わったのかの?いやはや、途中までしか分からなんだが中々に豪快な幻術合戦であったな?全く見事、魅事!!」


 殺気剥き出しの狐に向けての中納言の感想は、黄華の神経を逆撫でした。眉間に皺を寄せる。


「さて。どうかね?あれだけ立ち回ったのだ。喉が渇いたのではないかな?一つ、茶でも飲まんかな?」


 そして差し出される湯呑。上等な茶葉で煎じた熱い抹茶である。黄華は尾の一つでそれを叩き跳ばした。壁に湯呑がぶつかり四散する。


「おっと。危ないのぉ?」

『ちっ。無駄に反応が良い爺ですねぇ?』


 手首ごと持って行こうと思ったのだが……上手く腕を引っ込めたお陰で中納言は掌を失うのを回避した。流石は元武官というべきか。


『とは言え、所詮は霊力も持たぬ唯人。たかが知れていますがねぇ。……悪く思わないで下さいよ?立場が悪いんですよ。立場がぁ』


 天狗共相手の使節でさえなければ老い先短い人生安穏として暮らせたであろうが、今やこの老人の生き死にはその人生と命を遥かに超える重大な意味があった。天狗共と扶桑国の関係を完全に破綻させるための鍵……故に狐はその命を狙う。


「ふぅむ。困ったものじゃの。そのような獰猛の顔をするでないわ。折角の美貌が台無しであろうに。もっと気品のある笑みを浮かべるべきではないかな?」

『命乞いですかねぇ?残念ながらその程度の賛辞ならこれまで飽きる程聞いて来ましたから心揺さぶられませんよ?』


 無駄な足掻きを嘲笑いながら狐は進む。尾が振るわれる。前に出た天狗が捌いて、打ち据えて、切り抜ける。代わりに相応の代物たる筈の薙刀はへし折れてしまったが。柄を捨てて身構える天狗。


『健気な事ですねぇ?意固地にならず、妖同士仲良くしましょうな?おっと危ない!』


 放たれる火術を避けて尾を振るう。天狗を壁に叩きつける。死にはしなかったが重傷だった。


『ふん。所詮は混じり物共ですか』


 蔑みの言葉が出てきた瞬間、脳裏に真っ先に過るのは白い義末妹の姿。義長姉の一番の寵愛を受けていた小生意気な家族の姿に舌打ちして、黄華は老人の眼前まで堂々と辿り着く。老人が逃げなかった事もあるし、逃げても即座に捕らえられるからであった。上位の妖としては低くても唯人とはその強靭な肉体強度は比較にならない。


『御好みの死に方はありますかぁ?』


 狐は尋ねる。悪意から。態々尋ねてみて、答えとは違う殺し方をするのはこの狐の意地悪さの一つである。相手が必死に葛藤して、迷って、答えを絞り出す様があれば完璧である。


「そうだのぉ。……確か、アレらの弱点は尻尾だったかな、道硯?」


 中納言は傍らの床にちょこんと座る蜂鳥に問い掛けた。


『然りであります。ではやはり?』

「そうだの。昔、雲雀殿がやっておったろう?ズボリと。あれは見ていて妙に爽快だったなぁ」

『はは。では折角なのでその通りに』


 呑気に語り合う老人と蜂鳥。その口振りに今更ながら狐は気が付いた。


 この老人は、ここまで一度たりとも自分に話しかけていない事に。


『その鳥、一体……』

『という訳だ。中納言殿の御要望通り、やるようにせよ。分かったな?』


 困惑する狐の言に重ねて蜂鳥は尊大に宣う。狐の背後に向けて命じる。息を呑んで、狐は振り向いた。


「つーかまえたー♪」


 黄華はそれを目撃する。己の立派な毛並みの八尾の、一本を掴む夢魔の姿を。恍惚に似た歪んだ笑みを湛える表情。口元の真っ赤な血も相まって見る者に魔性の恐怖と魅力を印象づける。


 悪意たっぷりだった。嫌な予感がした。


「ぺろっ。……書物で読みましたよ?ここ、弱いんですよね?」


 仕込んでいて、そして噛み千切った護謨袋は二つ分。それを舌の上で卑猥に感じられる程艶かしく転がして、松重牡丹は敢えて尋ねた。妖狐の尻尾が性感帯であるのは有名な話だ。


 凄く凄く、嫌な悪寒がした。


『おい、何するつもりですかね?ヤメロ、オイ!ヤメロフレル……!!!?』

「嫌です♪」


 冷や汗と共に声を荒げた狐に向けて、実に実に意気揚々として夢魔の孫娘は尻尾を掴む腕を引っ張った。


 ズボリと小気味良い音と、獣の絶叫が森に鳴り響いた……。


 

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