第一五二話

「おぉ。本当に見事なお点前でありますなぁ!!」

「恐悦至極、光栄で御座います」 

 

 差し出した茶の湯の味に対する惜しみ無き称賛に、葵は恭しく応じた。人当りの良い笑みを浮かべて、しかし眼は何処までも冷たく冷淡で呆れ果てた色彩を浮かべて……。


(実に、詰まらない席な事)


 鬼月の上洛隊が都に到着した、その次の日から取っ替え引っ替えして始まった貴公子達相手の接客……実質的な見合い……の席での会話と求愛を、葵は何処までも冷めた目で見つめていた。


 あの男が態々己の幸せや相性を考えて相手を選んでいるなんて幻想は抱いていない。席は何処までも政治的に用意されたものである事は明白だった。あるいはそれ以下であるやも知れぬ。


(この程度で流されるとでも思っているのかしら?)


 あの当主だって幼い頃であればいざ知らず、今更己を正面から失脚させて鬼月の一族から排外するなぞ不可能だと承知していよう。故の搦め手。己を適当な家に嫁がせて、家から追い出そうという魂胆か……見え透いた茶番劇だ。


(失敗したわねぇ?本命連中は不在、残る候補は二流三流ばかり……この程度じゃあ強硬も出来ないわよねぇ?)


 西土の名門たる赤穂家に燕集院家、南土の名門たる桐斬家、その他等々……此度の上洛で都に向かう予定であった家々の少なくない数が、それも名門を中心に諸事情でそれを中断した。中断せざるを得なくなった。


 それは同時にこれ等から拵えられていたであろう候補もまた……実際、当主から葵に提示された都での日程を見れば明らかに奇妙な歯抜け塗れであった。毎日の茶会や園遊会、唄会の合間合間に空いた奇妙な時間の空白。その意味くらい葵は直ぐに見抜けた。そして、格下の家柄ばかりならば礼儀として一度顔見せくらいはしてもそれきりに縁切りするのは余裕であった。


 幾ら当主であろうとも、次期当主候補の婿に有象無象の格下を選ぶなぞ、本人は無論長老連中を無視してまで無理矢理に出来まい。それが出来るだけの派閥と名声を葵は拵えたし、翻って寝込み続けていたあの男の家中での権力は未だ万全ではない……普段と変わらぬ風貌で、内心苦虫を噛み締めているのだろうと思うと痛快にすら思えた。


「いやはや、本当にお美しい……」


 葵が何を考えているのかなぞ露知らず、西土の中堅退魔士家、瀧崎家本家跡取りの青年はひたすら葵を褒め称えた。その美貌を、その教養を。……彼女は全てを見透かしていた。


「ふふふ。お止め下さいな。褒めても何もでませんわよ?」


 袖で口元隠して、囀るように笑う。笑って流す。そして内心で呆れ果てる。


(下らない)


 どの男共も右に倣えとばかりに同じ事ばかり口にする。退屈で、詰まらなくて、下らない。彼らは誰一人として己の心を揺り動かす魅力に欠けていた。


 恋は盲目ともいう。既に惚れ切ってしまった人がいるのも確かに理由であろう。しかし、聡明な葵は自己分析を、少なくともこの案件ついては正確に行えていた。心の至上の上座に先客がいる、それだけが心揺さぶられぬ理由ではない事は分かっていた。


 彼らは所詮、己を見ていないのだ。己の教養を、力を、才能を、官位を、家柄を見ているだけなのだ。誰一人として、己の心に触れて来やしない。杓子定規の定型文。心の籠らぬ言葉で鬼月葵という人間の表面をなぞるだけ……あぁ。偶に乳と尻は見てくるか。何にせよ、それだけだ。


 所詮、逆の玉の輿を狙う打算だらけの媚び売りだ。


(まさに彼とは大違い)


 呪林での日々での彼は違った。状況が違うという者もいるだろうがそんな次元ではないのだ。あの逼迫した状況で、彼は確かに自分の心に触れて、自分の心を思い遣り、自分の心を守り、何よりも寄り添おうとしてくれた。あんな絶望的な状況でありながらだ。己自身の事ですら一杯一杯だった癖に。 


 そして、彼は他の全てを捨てた。捨ててでも、己を選んでくれて、だから……。


「……仮に、瀧崎様はどう致しますか?」

「?何がでしょうか?」


 ウンウンとひたすら恭しく頷き、肯定し続けていた姫君による突然の問い掛けに、青年は笑みを浮かべたまま首を傾げる。


「これは先日某所にて、退魔の士の心構えに紐つけて耳にしたお話です。……その退魔士は任で他家の友と現地に赴いたのは良いものの、相手は事前の話と大違い、己の身に余る怪物であったのだとか。その者は慌てて隠れたのだそうです」


 甘い甘い声で彼女は語る。一拍置く。青年の様子を見て、輝かん笑みを浮かべて続ける。


「一層困り果てたのがその場面。隠れ見れば友は手負い、今にも喰われる寸前。その退魔士はどうするべきかと酷く酷く、思案したのだそう」


 葵は詩を詠うように語る。それはもう天女の如き美声で以て。故に青年は藪から棒な話にも聞き入ってしまっていた。酔うようにして聞き入り、そして神妙な表情を浮かべる。


「……その者はどうしたので?」

「さて、其処までは……同じ退魔の職で禄を食む身としては実に興味深く思いまして。幸い、私は未だそのような場面に出くわした事がありませんが、仮に殿方であればどのように判断するのか、そんな事を思いまして」


 気紛れの思い付きのように、何気なく囁いて見る。青年は思案する。その視線を吟味する。その表情の機微を観察する。葵にはその思考の流れが手に取るように分かっていた。


「……御安心下さいませ。私は退魔の心得を違う事なぞあり得ません。感情に流されて判断を誤る事は御座いません」


 そも、いきなり軽率に向かうなぞ有り得ませんと、油断せず、餌を先に向かわせて備えます……そのように青年は答えた。賑やかに、爽やかに。


「……そうですか」


 驚きも落胆も意外性もなかった。想定内だった。発言も、思考も。何もかも。


 葵の目は全てを見抜いていた。明確にこの男は計算していた。己の価値観と、己への印象を、どのように答えれば好感度を稼げるのかを。そして答えた答え……やはり、下らない。詰まらない。俗物だ。


(どちらも不合格ね)


 内心の価値観だけでも慈悲があればまた違ったろう。口にした言葉だけでも情を選んでいたのならばマシであった。現実には圧倒的な打算のもとで、冷徹な答えを口にした。向こうからすれば退魔士家の当主として最善の返答を口にしたつもりなのだろう。己は愚かな選択は選ばぬと。下らぬ死で以て御家を傾けたりはしないと、宣言したのだ。


 失格だ。こいつはきっと、家のため自身のためならば平気で妻も見捨てるだろう。森の中で命を狙われた小娘なぞ容易に切り捨てる筈だ。今の問答への反応で葵は完璧に見抜いた。これまで同じ問答した連中と、何も変わらない。


「それは実に、頼もしいお話ですわね」


 天女のような美貌で空虚に微笑んだ。己の美貌を最大限自覚しての笑みだった。大抵の男共はこれだけで誤魔化せる。己が口にした奇妙で下らない突然の問い掛けなぞ、あっという間に忘却してしまう。ほら、今まさに馬鹿みたいに口を開いてくれている。


(やはり、彼だけ……)


 長年に渡って自身の権力のために、彼の立場のために、有象無象と交流し続けた故の鬼月葵の確信。彼だけだ。誰でもない。あの日に彼女を救ってくれたのは彼だけだ。彼でない何者であろうと、己は此処にはいなかっただろう。


 そしてそれを理解する程に因果を感じる。あの日彼と共にあの地獄を経験した事は天命だったのだと思えて仕方無い。前世でも、前々世でも、前々前世であっても夫婦であったのではないかと思えてしまう。きっと畜生道であろうとも番だったに違いない。葵はそれを確信する。


 そう、それはまるで運命の赤い糸で繋がっているかの如くに……。


「はぁ……」


 彼との太い繋がりを思い、しどけなく、何処までも艶めかしい嘆息。艶やかに耳元の髪を掻き上げていた。正面の青年がそれに見惚れていたが最早葵の関心の外であった。


 そうだ。彼との繋がりが葵にはあった。あの日々によって培われた彼との深い深い、情念の繋がり。信用。信頼。故の彼の明言せぬ明確なる意志を誰よりも先に葵は知りえたし、伝えて貰えたのだと信じている。そしてその一助となる事を許されて……それだけで葵は死んでもいいと思える程に幸福で、彼のために更なる尽力をする事だけが生きる意味であった。


(そのためにも……)


 そのためにも、彼の一挙一動を見逃さぬために、彼の求めに何時でも応えられるように、葵はそれを「視る」。視界の共有。彼の外出に合わせてその傍に忍ばせて尾行させた式。視界の半分をそれと共有する。彼の堅い背中を視界に納めただけで姫は至福の中にあった。眼前の青年の接待に意識の二割で以て適当に応じて、残る全てを彼に注ぐ。


 形だけの談笑。微笑みながら、うんざりしながら、胸を高ぶらせながら、そして葵は湯呑を手に取り一口啜ろうとして……。


「あら?」


 直後に式神の視界が暗転した。破壊された。一瞬動揺して、しかし刹那に感じ取った微かな気配に葵は下手人が何者なのかを把握して落ち着く。


 あの老人、まさかこの場面で殺す事はあるまい。ならば狙いは恐らく……宜しい。それならば己は待つだけだ。夫を信じて待つのは良妻賢母の務め故に。


「……えぇ。そうよ。妻の、義務だものね?」


 己を納得させて、葵は小さく囁いた。湯呑を一口。平静に努める。己は冷静で、淑やかで、夫の三歩後ろを恭しく付き従う扶桑撫子の鑑だ。だから、彼がそれを選んだと言うのならばそれに口を挟む余地なぞ一欠片もなくて……。


 パキンッ!!

「ひゃひぃっ!!?」


 茶会の席は、湯呑の割れる音と濃厚な霊気に当てられ失神する青年の悲鳴で以て御開きとなった……。








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 浮遊感。雲を掴むような感覚。感触も、温度も、音も、平衡感覚すらも曖昧となって、それはいきなりに戻ってきた。


「っ……!?」


 突如自覚する床の感触。重さをどっと全身で思い出す。思わずよろけるのを、どうにかして転げぬように努める。目元の布が、弛む。久しくも思える光に一瞬瞼を細める。


 次に視界が開かれた時には、俺は書店の中に佇んでいた。周囲を見渡す。本棚、本棚、本棚……そして、背後には巨大な妖気。


「……よぅ、熊暫く振りだな?」

『グルルルルル!』


 最後に出会った時にはロケットパンチやら尻穴ジェット噴射していたような気もするが……その辺りは気にせず触れず、俺は背後に立つ鬼熊に呼び掛ける。返答は相変わらず言語化してないのに何となく言いたい事は分かった。妖の癖して人間臭い奴である。


 まぁ、それはそれとして……。


「……何だ、それは?」

『ワフッ!!』


 熊妖怪の頭に乗っかる仔犬を見ての質問だった。雪のように白い、あるいは銀色の毛皮に包まれたモフモフ。あざといまでに可愛らしい仔犬。但し、その身に纏う気配は……。


「神気?」

「孫が連れ帰って来てのぉ。実験動物とでも思っておくといいわい」


 馬鹿蜘蛛と同質の感覚に眉を顰めていると何処となく響く嗄れた返答。視線を周囲に向ける。本棚の一角から現れたのは杖で己を支える腰の曲がった皺だらけの老人の姿。指名手配された御尋ね者、松重の翁の姿……。


「……もしや、蝦夷の姫の案件ですか?」

「左様じゃ」

「どんな経緯でそんなものが……何見てんだよ?」


 鬼熊の頭上から此方をひたすらじっと見続けて来る仔犬に問う。ぼんやりと此方を見る眼差し。そして突如どや顔(少なくとも俺にはそう見えた)を浮かべて来た。


 ……何か勝手に格付けされた気がする。ふざけんな。


「躾がなって無さそうですね?」

「全く困ったものじゃよ。連れ帰った本人は碌に育てんしのぉ。生き物を飼う時は最後まで責任持つように言っているのじゃが……」

「猫派なんですかね?世話は誰がしているので?」

『グルルルル!』

「いや、お前飼われてる側じゃないの?」


 常に側に置いていた猫又を思い出して語れば、衝撃の事実に衝撃を受けて突っ込む。突っ込んで、俺は自身が思考誘導や洗脳されていない事を証明する。


 翁の口にする下らない会話が、俺の思考の柔軟性を測るものである事を理解していた故に。


「……ふむ。こんなものじゃの。少なくとも儂らを嵌めるために何か命令を埋め込まれてはいないようじゃな?結構結構」

「目隠しもですが、用心深いですね?」

「用心深くなければ今頃お縄じゃよ」


 翁の言葉に納得しそうになる。しかし、ならば朝廷のお膝下で潜伏するのは……灯台もと暗しという事なのだろうか?


「……そういえば、牡丹殿は?」


 そして俺はこの場に不在の人物に触れた。最後に出会った時には随分と面倒な事態になっていたように思えるが……果たして無事なのだろうか?


「あやつならば気にするな。席を外しとるだけよ。まぁ、生きてはおるよ」

「不穏な言い方ですね……」


 逆説的に生きているだけとも言える物言いに思わず顔をしかめる。この世界においては生きているだけ、という言い回しは比喩や形容では済まないのだ。それこそ、逆にどうしてこの状態で生かせておけるのか分からないなんて状態にも出来る訳で……。


「安心せい。五体満足で五臓六腑もちゃんとあるわい」

「だから言い方ぁ!!」


 言い方が生々しくて余計に不安になるんだよ!!じゃあそれ以外は無かったりするの!!?


『グルルルル!!』

「えっ!?大丈夫だって?」

『グー!』


 俺の疑念に向けて安心させるようにして唸る熊。気安いというか距離が近いというか……何こいつ馴れ馴れしいの?アレか?俺がどんどん化物に近付いてるから同族認定されてたりするの?


「まぁまぁ、落ち着け落ち着け。茶はいるかの?」

「……結構です、といっても呑ませるのでしょう?」


 何が入ってるかも知れぬ湯呑を差し出す翁。しかし俺にはそれを拒絶する権利はない。


「腹の中まで曲者がいないか確かめねばならぬからの。この書店は外部とは断絶しておる。周囲を屯している式は……区別も出来んので纏めて薙いだ。この会話を聞かれる恐れはない。位置も逆探知される事もない。囮も蒔いた。お主が何処で何をしているのか知る者はおらん」

「暫くの間は、ですか?」


 俺の確認に頷く翁。幾らこの元陰陽寮の次席でも限界はある。元々荒事は専門外なのだ。刀狂い辺りが形振り構わず動いたら流石にどうにもなるまい。


 だからこそ、こうして俺が此処に留まれる時間は限られていて、俺が戻った後に体内に仕込まれている物があればそれは翁達にとっては致命的であり、俺にとっても死活問題だった。全員纏めて引っ捕らえられて斬首……いや、松重の爺孫と俺だけではない。連座で何人巻き添えになる事か。


 だからこそ、これはある意味当然の義務であって……。


「……」

「何しとる。はようせんか。時間は限られるぞ?」

「はい」

「因みに冷める程効果は増すぞ」

「鬼かなっ!!?」


 俺は突っ込みながら湯呑を呷る。酷い味だった。苦く、酸っぱく、塩辛い。無理矢理呑み切る。胃袋に流し込む。そして……。


「……厠は?」

「あっちじゃ」


 指差す方向に全力ダッシュしていた。


 ……因みにいうと、下したのは上の口からである。スッキリは全くしなかった。うえっ。








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「水じゃ。飲むかの?」

「……何か入れてます?」

「必要ないのに何か入れる訳無かろう。儂らとて金に余裕がある訳ではないわい」


 胃袋の中身を文字通り空にした俺に差し出される湯呑。一応駄目押しの二撃目を警戒して見るが、翁の納得しかない言葉に最後には口直しを兼ねて呷る。


「んっ、んっ……はぁ」

「もう一杯いるかな?」

「結構です。……着席しても?」

「自由にするといい」


 翁の許可を得て、俺は近場にあった椅子に深く座り込んで翁と相対する。息を整えて、心と身体を落ち着かせて、漸く本題に入る。


「暗摩山、天狗……護衛の一員に指名されました」


 どうせ風の便りである程度聞いているだろうから、端的に俺は今の状況を口にした。


「ほぉ?先にそちらかの?今の監視体制から脱け出したいという話かと思ったぞ?」

「常に覗かれ続けるのは確かに良い気分ではありませんが……それについて、手を貸すつもりはないのでしょう?」


 当主の復活によって鬼月家による監視が強まったが、逆に言えばそれだけだった。程度の問題だ。それこそこの翁と出会う頃から反乱や逃亡を念頭に監視はされていたのだし、逃げんとすれば呪い殺される立場にあったのだ。それが多少厳しくなったからといって俺が助けを求めて、それに応える道理は松重にはない。


 ……そも彼らにとって、いつ爆弾となり得るか分からぬ怪物の首輪を外す理由なぞある筈がない。


「……ふむ。己の立場を理解しておるのならば良い。あぁ、安心せい。帰る際の小細工ならばちゃんと考えておるからな?」

「寧ろ、事後処理の見通しが無いのに接触なんてしないのでは?」

「そうとも言う」


 かかかか、と嗄れた声で嘘臭く笑う老人。俺は肩を竦めて湯呑に残る水を一口。そして、改めて本題に移る。


「あの山の天狗連中について、何か知っている事はおありでしょうか?」


 俺が天狗について知る内容は然程多くはない。何処まで準拠しているから知れないが、少なくとも原作『闇夜の蛍』やその派生作品において、天狗という存在は微妙にストーリーの焦点に当たる事はなかった。


 公式で確定しているのは初代帝に協力した人を親とした天狗がいた事、その後暫くして扶桑国から手酷く追放された事、天狗という種族は妖の中においても特に知能が高く悪知恵が働く存在である事、本編終盤にてルート次第で救妖衆側で扶桑国に攻撃している事が伝聞形式で語られている事、連中の羽毛のよる毛織物が珍重されている事……それくらいだ。本編でも外伝でも、天狗共はその姿を直接現す事はなく、名有りと言えるのも一体だけという有様であった。


「天狗、か。あ奴らについては儂も然程知らなんでな。知っている内容はそれこそ公の書物と変わらんぞ?」


 翁は語る。その内容は、確かに俺がこの世界に生れ落ちてから知り得たそれと大きな差異はなかった。


 ……山奥に、森の奥地にて社会性のある集団を形成する天狗共。その造形は背中に羽を生やし、全身には体毛を伸ばした獣面、鳥面に近い怪物であるという。言葉を話し、独自の文字を扱い、怪し気な術も扱い、嘗ては人を騙してあくどい取引をしていたのだとか。


「但し、連中は他の化物共に比べて人を襲撃する事例は比較的少なくての。何方かと言えば低級の神格やら同じ妖こそ積極的に餌としていたのだとか。……これは図書寮の奥の書の記載になるが、初期の朝廷は一部の天狗党と相互不可侵の約定を結び、交易を行っていた事例もあるという。暗摩の天狗共はその一つじゃな」


 伸ばされた白い顎鬚を撫でながら、翁は含みを持った物言いで語る。


「……それで?」

「しかして一二代目、契狎帝の時代の事じゃ。彼の帝の時代に天狗共との交流の多くは途絶えたとされとる」


 扶桑国の歴代の帝には名君がいれば暗君も、凡君も、暴君もいる。武闘派がいれば平和主義者もいて、傀儡も多い。善悪美醜、多種多様な来歴のある帝達の内で、契狎帝は冷徹な武闘派に数えられる。即位以来六〇年、その間に南土・東土に散らばる纏ろわぬ夷敵共を数多く屈服させ、妖の多くを討ち果たす事で扶桑の地の拡大に貢献した……らしい。皇子の死を因として暗摩の山天狗共にも討伐隊が派遣され、撤収した。


「暗摩の禁地成立の起源、ですか」

「うむ。以来あの地は基本的に不可侵じゃ。他の地の天狗共は遥か昔に討伐されたにもかかわらず、な」


 心底訝しげに老人は語る。そして、付け加える。


「儂も陰陽寮に仕えていた頃、あの地に足を運んだ事がある。ちょっとした依頼でな。連中の皮剥ぎしようとしたのじゃ。……残念ながら叶わなかったがの」

「陰陽寮の次席が、ですか?」

「若造の頃の話じゃよ」


 若干言い訳気味に翁は答える。暫し沈黙。そして、分析を述べた。


「仕掛けた罠は呪術的なものも物理的なものも、何れもこれも解除されてしまっていての。七日七晩協同して粘って見たが、ついぞ捕らえられんかった。挙げ句に帰る直前に挑発されての。しかも……くくく。奴らめ、よくもまぁ虚仮にしてくれたものよのぉ」


 不気味に笑う翁。それは憤慨というには粘り気があった。怨み、に近いように思われた。しかし、それは……。


「翁の狙った天狗が殊更狡猾だった、というのは楽観的な考えでしょうね」

「連中の術の残滓を調べて見た。通常の妖術とは違うようじゃった」

「厄介な……」


 唯でさえ原作でも殆んど描写がなかったので対策が立てづらいというのに……本当に本当に、厄介極まりない。どうしろってんだ?


「一応、任務は掃討ではなくて交渉だそうですが……」

「妖相手に交渉とは、実に馬鹿馬鹿しい話よな。悪知恵長けた妖であれば、尚更よ。そうじゃろ?」

『グルルルー?』


 傍らに控える鬼熊向けての問い掛け。それが意図した意味を分かりかねて熊は首を傾げる。つまり熊、手懐けられているお前は馬鹿だって言われているんだよ。


「……現地で相対した者としての勧めは?」

「惑わされるな。奴らは狡猾、常に我々を翻弄せんと隙を窺っておる。連中の狙いを良く見定める事じゃ」

「具体的……とは言えない助言ですね?」


 注意しろ、といって注意しきれたら苦労はしない。狙いを見定めろというが先方の価値観や認識が分からぬのに何処まで正しく推測出来るかと言えば……。


「嫌味かの?」

「い、いいえ……」


 ギロリという視線に、俺は視線を泳がして誤魔化す。助けを求める手前、此処で心証を害するのは愚策であろう。


「……あー、どうでしょう?今回、支援は可能で?」

「直接の接触は避ける。じゃが手はある。遠方から観察もしておこう。任せよ。……合図の類は決めておるのだろう?」

「えぇ。……紙と筆を」


 傍らにのそのそとやって来た熊が大き過ぎる手で以て要望した紙と筆を差し出す。俺は何とも言えぬ表情でそれを受け取る。受け取って、墨に浸した筆を用紙の上に走らせる。文字を認めて……乾いた紙を正面の人物に手渡す。


「ふむふむ……そうか。宜しい。この通りに備えてみよう」

「御世話になります」


 受け取った紙の文面を、注文を読み込みながら翁は頷く。


「いやいや、この程度の求め、お主が立てた功績の前には慎ましい要望よ。さて……そろそろ時間かの?」


 今一度紙を読み込んで、それを折り畳んで懐に仕舞いこんだ翁。杖を支えにして立ち上がる。自然な振る舞いで、俺の横を通り過ぎていく。


「準備する予定の道具も妥当じゃの。殊更、此方から言うべき事はない。儂の助言を求める必要は無かったな?」

「いえ。正解かは分かりませんでしたので。及第点を頂けたのでしたら幸いです」


 本当に本当に、そう思った。経験者からの意見は大切だ。無知と誤謬を基に動くのはこの世界においては悲惨な結果を招くものであった。


「……そうじゃ。序でに一つ餞別の品をくれてやろうかの?」

「餞別?何ですか?」

「なぁに、直ぐに分かるわい。……それではな?」


 背後からの意地悪な囁き。直後、頭に激しい衝撃が走った。


「う、ぉ……!!?」

「源……こや……運んで……団子…順………」



 世界がグルグルと暗転する。吐き気。記憶の混濁。視界の奥に遠ざかる翁の腕にあるのは……ピコピコ染みたハンマー?


「……いや何でやねん」


 取り敢えず見掛けに比べて痛過ぎる衝撃に、恨みを込めた突っ込みを入れておいた。そして。そして。そして…………。










「……あ?」


 俺は雑然とした新街の通りに佇んでいた。天を見る。日は僅かに傾いている。困惑して周囲を見る。通りは相変わらず無数の人々が賑わいながら行き交う。記憶を辿る。団子を食った後、商店をあれでもないこれでもないと見分していた所だった。


 僅かな違和感は味覚によるもの。舌に残る苦味。そして空きっ腹。頭部に感じる鈍痛……あぁ。成る程。これは……。


「見事なお点前で……」


 小さな小さな嫌味も含めた囁き。手元を見ればいつの間にか手にしていた三色団子。但し順番は定番とは違う。上から白、緑、桜色……予め予定していた、恐らくは紙に認めたであろう、問い掛けへの返答。暗号……。


「……腹、減ったな」


 空っぽの腹を満たすべく、団子を食らう。視線は真っ直ぐに、前を見据えて、俺は歩んだ。


 前をじっと見据えて、懐に忍ぶその触感を確認しながら、街道を進んだ……。










ーーーーーーーーーーーーーー

「ほうほう。叩く瞬間だけ硬くなる訳か。使って見たのは初めてだが……これは製作者は中々ひねくれているの」


 以前にその手の曰く付きの呪具を取り扱う同業者より購入した玩具の鎚を、彼方此方と視点を変えて観察する老人。もう一方の掌には積木を握っている。記憶の、積木であった。


『夢落鎚』、達磨落としに結びつけたこの呪具は以前は扶桑国において拷問に使われていた代物である。人を達磨に見立て、積木を記憶に見立て、殴打と共に記憶を物質的に結晶化して分離する。


 結晶化したその中身を見る等という事は出来ず、使用による感覚の違和感は残るがそれは敢えての事である。連続して記憶を分離する事で精神を不安定にする副次的効果があった。恐らくは使用時にだけ硬化する性質も責め苦の側面があるのかも知れない。精神崩壊寸前となった所で記憶を返す事で相手の自白に誘導する……非人道的として時の左大臣より運用停止と廃棄を命じられたそれは、しかし一部が闇市場に流れて未だに取引されていた。


「記憶関係は、分かっていれば対策は出来るからの」


 あくどい表情で髭を撫でて、翁は嘯く。


 長く使われる術は対抗策もまた多い。記憶見の呪術もまた同様。記憶を覗かれるならば、予め覗かれる記憶を封印するなり分離してしまえば良いのだ。そして偽りの記憶を代わりに押し込めばいい。加えるならば、その記憶を読まれるのを前提に偽情報を埋め込んだり、精神に効果を発揮する罠を仕掛けてやるなんて手も存在する。


 いや、流石に後者は若干難しく時間も必要とするが……。 


「……あの男は去りましたか?」


 思い出したように少女の声が響いた。翁が視線を向ける。答える。


「おお。去ったぞ?そちらはどうかな?もう問題はないかな?」

「はい。……いいえ。もう少し、時間は必要ですね。もう、少し。糞、忌々しい……!!」


 罵声と嬌声が紡がれた。


 気付いた時には、本棚の物陰で何事か激しく水音を立ち続ける音が激しく鳴っていた。鞭のような尻尾だけが其処から覗いていて、それは上に下にとブンブン空を切ってのたうち回っていた。よがる生娘のように萎れて立ち上がって呻いては本棚を傷つけ、床に穴を開き、書物に激突すれば綺麗に切り裂く。まさに凶器。傍らでは猫又がにゃーにゃー喉を鳴らす。


 ……糞どうでも良い事だが熊は顔を赤らめて顔を隠して恥ずかしがっていた。頭の上にグテンと乗っかる神犬はジト目で小さく鳴いた。冷笑であった。猫又が非難がましく鳴き返すと犬もまた言い返すように吠える。


 純な処女ロリ乙女しか勝たん派とムッツリドスケベツルペタ淫魔の良さが分からぬか小僧!派の仁義なき戦いであった。不毛な争いであった。勝手に戦え。勝手に戦っていた。


「くぅ、うぅ、はぁ、はぁ……ふぅ。大丈夫です。もう、問題ありません……」


 犬と猫の言い争いは無視し続けて、そして暫く艶かしい嬌声が響き続けて……漸く、彼女は物陰から現れた。


 松重の孫娘。松重牡丹。その装束は若干着崩れして、隙間からは黒光りする特製拘束具の紐が覗く。その頬は紅く染まり、息は白い息が見える程に生々しく荒い。しかしそれだけだ。完全に、十全に、人の姿……。


 上手い擬態だと思った。最初の頃は角も羽も尻尾も全く隠せていなかったものだが……今では注意深く観察しなければ幻術は見破れない。南蛮の堕神類の因子を混ぜて正解だったと翁は自賛する。


 ……牡丹がその言葉を聞いたら、恐らく霊力強化した拳で祖父の顔面を殴っていた。


「そうか。……さて。では儂も動くかの」


 翁は重い腰を上げて立ち上がるとツテツテと厠まで向かう。扉を開くと新鮮な酸えた悪臭が広がった。老人は顔をしかめる所かニヤニヤ笑って杖で穴の奥をまさぐり始めた。そして、それが飛び出した。


「なんじゃ。詰まらんの」


 瘴気を纏った呪水蛇。吐き出した時に自覚しなかったのは収縮していたから。胃袋に寄生して、宿主の五感を記録する。


「儂なら宿主の因子を取り込ませて時間差で自爆させるがのぉ。……ん、源武」


 逃げんとする蛇の行く手を大足が塞いだ。見上げれば巨躯。野獣の眼光。蛇は踵を返す前にその頭を殴り潰された。のたうつ体を熊手がガッチリ捕まえる。


『グルル?』

「うーん。食ってよし」

『グルルー♪』


 妖熊による呪水蛇の踊り食い。それを詰まらなそうに一瞥して、牡丹は口を開く。


「肩透かしですね。鬼月程の名家が腹に仕込む呪いがこの程度ですか?」

「鬼月お手製ではないの。あれは夫人じゃな。振る舞う茶の中に卵でも入れていた、という所か。まぁ、悪戯の類いじゃて」


 二の矢はないかと若干期待しながら穴の中を杖でかき混ぜながら翁は語る。残念ながらこれ以上の仕込みには期待出来そうには無かった。


「赤穂ですか。相変わらず、あの家はこの方面では雑ですね」


 朝廷からの禁術指定の御触れに馬鹿正直にあらゆる手札を晒して、何なら認可された物まで自主的に封印したような家である。刀術に身体強化の技では扶桑でも一、二を争うが、それ以外はからっきしだ。


 ……笑えないのはそれだけであの家はあらゆる問題がどうにかなってしまう事であるのだが。


「……どう見ましたか?」


 牡丹は思考を切り替えて、祖父にその見識を尋ねた。


「どう、とな?」

「惚けるのは止めたらどうですか?……あの目。かなり上手く平静を装ってはいましたが、分かるでしょう?」


 己も同じだからこそ、牡丹はそれを確信していた。あの目。目的の相手のためならばそれこそ己の命すらも捨てるだろう一種の狂気。


 復讐者の、ある種の覚悟を決めた眼差し……。


「鬼月幽牲、鬼月菫。共に退魔の世界において立場ある人物です。警告の一つもしないので?」


 それは穴の中をかき混ぜ続ける祖父への質問。否、詰問であった。


 北土三家の一角たる鬼月家の当主。そして初代退魔七士直系の系譜に連なる鬼月当主夫人。どちらも退魔士の世界において重い地位にある存在だ。少なくとも、半ば化物と化している下人なぞより、余程。


 祖父の在り方を思えば、それこそ何かある前に己の手であの下人を殺してしまうべきなのだ。あるいは洗脳してしまうか……鬼がどんな反応をするのか怖いが何もしないなぞ有り得ない話だった。祖父は必要ならば家族も己も切り捨てられる人物だった。


「そういうお主はどうなのじゃ?」

「どう、とは?」

「あの下人と縁で縛られておる今のお主にとって、儂がアレを殺せばどうなる?」

「……あの阿呆みたいな蜘蛛と違って、托生ではない筈ですが?」


 祖父に向けて、心底不愉快げに答える牡丹。あー、と翁は唸ると問い掛けを言い換える。


「確かにお主の命は奴に寄生しておらんな。じゃが、腑は最適化されておるじゃろう?」

「……」


 今の牡丹の身体は大きく妖に寄っている。死から逃れるための窮余の一策だ。あらゆる怪物の性質を内包する妖母の血を媒介に、悪魔の因子で変質の方向性を固定した。


 南蛮で言う所の淫魔。夢魔。吸精鬼……そのまま同じ代物という訳ではないが、それに近い形に妖化した彼女は命を繋ぐ。その代償は激烈なまでの本能、衝動。


「其処らの者共では満たすのに量が必要。退魔士相手であれば足るだろうが立場上接触も盗むのも困難。翻ってあやつはお主の因子の源流という事もあって相性は良い。実際、少量でも日持ちするのだろう?」

「……今更の説明ですね」


 説明に対して吐き捨てる。他人事のような再確認が牡丹には忌々しく思えた。そんな説明、十分過ぎる程に十分理解している。だからどうしたというのだ?


「だからこそよ。あやつが死ねばお主は飢えよう?にもかかわらず始末の提案をする意味なぞあるのかの?」

「……確かに私の身体は半分妖です。ですが、心は退魔士のままのつもりです」

「感情任せに破れかぶれに復讐に走ろうとしている者が、かの?」

「……」


 痛烈な指摘に牡丹は何も言い返さない。唯、鋭い眼差しで祖父を睨み付けるのみだ。


「……まぁ。為るように為るだけか」


 冷笑。そして問い掛けの始めに戻って、翁は答える。


「現状、あの下人については放置じゃな。そも、鬼月の夫妻が少々の小細工で足を掬われる筈も無かろう?」


 仮に掬われても、即座に対応して見せるだろう。それでも後先考えずに己の因子を暴走させて暴れ回ればあるいは……しかし、それは当分先の話であろう。


 殺るならばそれ相応の機会というものがある。二度目はない以上、今すぐには動かない。


「まだ利用し甲斐はあるからのぅ。処分について考えるのは先で良いと、儂は思うぞ?」

「……貴方らしくもない」


 牡丹は短く吐き捨てた。そしてそれきりだった。重苦しい沈黙が流れる。牡丹は不満に満ちた態度で、複雑な感情を呑み込むのみだった。翁もまた、そのような孫娘にそれ以上言う言葉はなかった。

 

 この孫娘がどのような選択をしていくのか、どのような道を進むのか、それは翁の関知する所ではなかった。そも、翁はこの孫に何かを強いる義務も責任も権利も無いのだから……。


「……おぉ。そうじゃそうじゃ。最近は抽出の技術もこなれてきてのぉ」

「……何ですか、藪から棒に」


 これで問答は御開き、そんな空気が流れていた所での雰囲気ぶち壊しの軽い問い掛けであった。牡丹は刺々しく問い返した。この老人は、何が言いたい?


「いや、そろそろ体液の在庫が心細くなって来たじゃろう?幾ら効率良く、節約しておるというても有限は有限じゃ」


 だからこそ、先程まで物陰で酷い恥態を晒していたのである。


「……それで?」

「いやの。胃液も体液の一種じゃろ?この濃度ならば上手く抽出すれば錠剤に結晶化出来そうだと思って……」

「止めて下さい。絶っっ対に止めて下さい!!」


 厠の壺に溜まった大盛の吐瀉物を愉快げにかき混ぜる老人の言わんとする事を理解して、全力の全身全霊で拒絶の言葉を口にする牡丹であった。


 それだけは、乙女として絶対に容認出来なかった。


「いや、しかし……実際、在庫が心細いじゃろうて。それに此までの分とて大概ではないかの?」


 今日までどのように凌いで来たのか、それをどのように調達したのか、それを知る翁からすれば今更大した差異はないように思えた。少なくとも、翁にとっては。


「私にとっては大違いです!!乙女心って物を考えて下さい!!」

「乙女心では問題は解決せんぞ?代案はあるのかの?」

「取り敢えずその選択肢は無しです!!」


 合理的であれば何でも良い訳でもない。感情は大事だ。人の心は大切だ。せめて黙ってくれていたら知らぬが仏であったのに。……いや、多分飲んだ後に由来を聞いたら卒倒していただろう。どの道地獄であった。


「ふーむ。其処まで言うならば仕方あるまい……。では、そうじゃな。良い機会じゃ。仕事を頼まれてくれるかの?」

「……仕事、ですか?」


 ピクリ、と牡丹は反応する。先程まで交わされていた会話を思い起こす。察しをつける。


「主ならば、儂よりもずっと動きやすかろう?儂が色々下準備してやろうて。……あぁ。これもやろう。痕跡は残すなよ?」


 孫娘が理解したのを確認してニヤリと笑う。手元の紙鎚を押し付ける。


「……自分が現地で危険を冒したくないだけでしょうに」


 嫌味たっぷりに牡丹は吐き捨てた。吐き捨てて、鎚を受け取った。悔しいが、今の彼女には渡りに船であったかも知れない。


「……承知しました。行って参りましょう」


 心底不本意に、内心の奥の奥の何処かでは微かな興奮と期待も内在して、松重の半妖は応じたのだった。







「……そうじゃそうじゃ。採取にはこれを使うといい。護謨製での。使用後に縛れば持ち運びにも便利じゃぞ?」

「そっちの汁は採取しませんよっ!!?」


 オマケの如く大量に押し付けられた小袋に向けて、孫娘は祖父の発想に全力で突っ込みを入れた……。

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