第2話 ライブ中止? ビューティーファイブ・アー・ゴー!
「みんなぁ! こんにちは!」
元気よく美沙希が挨拶をする。客席のファンも、それに大声援で応えた。
「今日は私たちのライブを聞きに来てくれてありがとう。さあ、宇宙の果てまで突っ走るよ!」
知子のドラムから始まり波里、黒子、香織も演奏に加わる。前奏が奏でられる中、美沙希が曲の紹介を始めた。
「一曲目は『君の為の祈り』でした。みんな、知ってた?」
「知ってる!」「美沙希ちゃん!」「おおおお!」そんな怒声のような野太い声援が飛び交う。
「ありがとう。感謝してるよ。次は『レッドビートは光を越えて』です!」
伴奏は、突然激しいリズムを刻む。
「光を越えて 何処までも
追いかけていくわ あなたを捕まえるまで
宇宙の怪盗 アストラル」
美沙希の独唱から、全員のコーラスへと移行する。
「いつも 逃げてばかり
でも絶対に 捕まえる
あなたのハートを撃ち抜くまで
わたしはきっと 諦めない」
コーラスから間奏へと移行した瞬間に、美沙希コールが沸き上がる。しかし、唐突に演奏は中止された。そして会場内にアラームが鳴り響く。
『緊急事態が発生しました。本日のライブはこれにて終了いたします』
突然のアナウンスに会場は騒然となった。しかし、それはブーイングではなく、歓喜の叫び声だったのだ。
「みんなごめんね。お仕事、入っちゃいました」
美沙希の言葉に客席のファンが叫んだ。「待ってました!」「頑張って!」「今日は何処へ飛ぶの?」などの声援を送る。
美沙希の傍でペン型の携帯端末を操作していた香織が、確認事項を済ませてマイクを取った。
「レスキューの要請が入りました。行先は冥王星の衛星、カロンです」
途端に会場はどよめいた。
冥王星。それは通常の航行ではひと月以上かかる遠距離にある宙域だ。会場のファンはそのほとんどが宇宙飛行士なので、そんな遠方での救出作業はその距離だけで非常に困難である事を知っている。しかし、眼前の彼女達はその距離をものともしない光速突破のビューティーファイブなのだ。
マイクを持った美沙希が会場のファンに呼びかける。
「それでは、私たちは冥王星まで出動します。みんな、準備はいいかな」
会場からは「いいとも!」とか「おっけー」などの声が上がった。
「ではみなさん。号令をお願いします」
そう言って美沙希がマイクを客席へと向ける。彼女達、メンバー5名と観客が一体となって、ビューティーファイブ発進時の号令を叫んだ。
『ビューティーファイブ!
会場全てが発する号令の元、メンバー五名の姿は光に包まれて直視できなくなる。そして数秒後、彼女達は宇宙用のスーツに身を包んでいた。これが、謎に包まれているビューティーファイブの〝生お着換え〟シーンである。肉眼では到底見ることのできない光量なのだが、中には濃いサングラスを使ってこのシーンを目撃している者もいるという。しかし、見えるのは身体のラインでありシルエットのみで、彼女達の裸身が見えることはなかった。
ステージの後方に五本の、円筒形のカプセルがせり上がってくる。体にぴったりと張り付いている宇宙用スーツは、それぞれが彼女達のイメージカラーに彩られている。五人の少女はそれぞれが円筒形のカプセへと入る。透明な壁がスライドして入り口を塞ぎ、カプセルは密閉された。そして再び、眩しく光り輝いた。
光が収まった時、彼女達の姿は何処にもなかった。
ステージ上では演奏用の器材が片付けられ、そして大型のモニターが設置された。これでこの場所は、ライブ会場からビューティーファイブ応援会場へと変わった。ビューティーファイブのライブに参加する観客は、突発的にレスキュー業務が発生した場合にも決して怒ったりはしない。何故ならば、めったに拝めないビューティーファイブの〝生着替えシーン〟を見ることができるし、その後の彼女たちの活躍をリアルタイムで応援することができるからだ。
正面に設置された大型モニターには、レスキュー業務用の宇宙船〝スーパーコメット〟が映し出されていた。
一方、スーパーコメットのブリッジ内では五名のメンバーが転送され、それぞれのシートに着席していた。
大まかには楕円形のブリッジ内である。配置としては、正面の前方右側に操舵士の黒子、左側に航海士のララが座る。ララは量子コンピューター搭載型のアンドロイドだ。その後ろ、中央よりの位置に機関士の波里とレーダー担当の知子が位置している。そしてその後方に通信士の香織、その後方にリーダーの美沙希が座っていた。
「発進準備は完了している」
そう報告して来たのはアンドロイドのララだ。それに美沙希が答える。
「ご苦労、発進シークエンスに移行する。重力子反応炉は?」
「起動は完了しています。現在、アイドリングで安定」
美沙希の質問に機関士の波里が答える。
「機関出力2パーセント。微速前進」
「機関出力2パーセント」
「微速前進」
美沙希の指示に羽里と黒子が復唱する。スーパーコメットはゆっくりと動き始めた。前方にあるゲートが開き外の宇宙空間が視界に入ってくる。
スーパーコメットはゆっくりとゲートをくぐり、宇宙ステーション大鳳の腹部より宇宙へと進出していった。
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