14日目「最後の日」

 臭い台詞は最初に言うのが先決だと思う。だが、それを書くにはこの余白じゃ狭すぎる。


 ——なんて、フェルマーさんのような言葉を使いたい年頃である。


 ごめん、滑った。分かったから、言うって、待て! 離れようとするなっ! 分かったから‼‼


 ――高校二年生の夏休み。


 ――セミの鳴き声が晴れ模様の空に響き渡り、湿った暑さでどうにかなりそうだったある日の午後。


 俺はに出会った。


―――――――――――――――――――――――——————————————


 てな御託を並べてみたがやっぱり恥ずかしい。つまり、俺も成長したということだ。


 それにしても、この二週間はとても刺激的だった。


 俺が部屋の前で体育座りをした彼女を見つけて、鍵を無くしたとかどうとか言われて、無視しきれなかった俺は居候させて、美味しいご飯を作ってもらって、何度か一緒に出掛けたり、一緒に寝たり、幼馴染が来たり……そんな起伏のあり過ぎる一週間を二人で送って来た。


 今まで、部活と学校で退屈だった灰色の日々を彼女がこうも色鮮やかに彩ってくれるとは、あの頃の俺からしてみれば思ってもみなかった。それくらい濃くて、綺麗で、どこか儚げな毎日。


 そんな日々と——今日、別れなければならない。


 ————なんて感動話は少し俺には似合わないな。


 はぁ、たっく。


 最後くらいは少しでもいいからマシな別れ方をさせてほしいぜ。というか、まじで生脚凄かったんだが? 真音さん、部屋ではいっつも肌見せない服ばっかり来てるから、特にバスタオルからはみ出た艶めかしい生脚はかすり傷に消毒液を付けるくらいに沁みるものだった。


 いやはや、忘れたくても忘れらない美脚。


 真っ白で、ふわふわのぷにぷにで、柔らかそうで、背が低い割にはかなり長く見える最強の脚だったな、あれは。それに、ましてはあの巨乳。ここだけの話、バスタオルから乳首が薄っすら浮き出てたような気もしなくもない。ただ、俺の様な高校二年の男児には少々刺激が強すぎる。おかげで寝られなかっただけなんだけど……そのことは置いておくとしよう。


「くっそぉ……なんなんだよ、最後だって言うのに……」


 それに、あそこで一緒にお風呂でも入っていたらどうなっていたことか。若い男女が二人、夜中にこそこそとすることは何か――と言えばあれしかないが、果たして、俺にやれる度胸があるのか否か。悔しいが、今となっては分からずじまいだ。


 「……そろそろ時間かぁ……まじで早っ、行きたくねぇな……」


 壁に掛けられたシンプルな時計を見ると時間は7時20分を指していた。生憎、残念だが今日は朝から三時間ほどサッカー部の練習がある。夏休みと言えば部活だろ――なんて言いやがるうちのおじさん監督がウザいったらありゃしないが行かなければ試合に出してもらえないので行くしかない。


 ちなみに、俺はスタメンだぞ? 地区の二部リーグだけど(笑)


 

 リビングに敷かれた布団を見ると真音さんも寝ているようだった。いつも以上に早起きしたせいか、たまたまなのかは分からないが朝の早い彼女にしては珍しい。近くから眺めるとやっぱり可愛かった。さらさらした茶髪と綺麗に伸びる睫毛、赤ちゃんの様にキュッと握り締められた手。寝る姿も愛らしい。思いがけず、キスでもしちゃいそうになるのが罪なところだ。


 だが、気持ちよさそうに眠っている彼女を起こすのも少し悪いなと感じ、俺は置手紙を残すことにした。


『椎奈真音さんへ。

  この二週間、とても充実した時間を過ごすことが出来ました。今まで俺は人生

 を楽しくなんてない暇で退屈な日々の積み重ねであると本気で思っていました。で

 も、真音さんと出会えて、少しだけ価値観が変わりました。真音さんの笑顔や声を

 聞いていると凄く元気になれて、明日も頑張ろうと、生きていこうとそういう気

 持ちになることが出来ました。

  短い手紙ですが、そろそろ時間なのでここまでにします。今まで本当にありがと

 うございました。

  凄く、楽しかったです。

                               亮介』


「……くっせぇかも、はずっ」


 我ながら改まって手紙とは少し臭い。でも、このくらいしかできないし仕方ないだろう。


 部活ジャージを着て、スパイク、レガース、そして制汗剤とタオルをリュックへ押し込み、やや小走りで玄関へ向かう。時計はすでに7時55分。練習開始は9時からだが、家から高校までの距離を考えると自転車で45分。ちょうどいい時間帯だ。


「……それじゃあ、頑張るか」


 そうして俺はドアを開ける。


 朝の陽ざしに目を閉じて、一身に流れ込む夏の生暖かいそよ風。そんな気持ちの悪い風すらも自分を祝福してくれているように聞こえるのが末期なのかもしれない。


 だが、そう思えたのも彼女の——真音さんのおかげだろう。


「それじゃあ、行ってきますっ——」


 誰もいない廊下、そして誰もいない玄関に俺の声が響く。

 これで最後だ。

 今日で、終わるんだ。


 そんな涙が出そうな刹那に負けないように一歩を踏み出した。



 ありがとうございました。

 真音さ——————。


「——待って」

 

 すると、聞き慣れた声がした。

 ふわりと突き抜けた綺麗な声が廊下に響き、背中にあの圧が触れる。それもこれも慣れずとも経験したものだった。


 しかし、俺が振り向くと同時、その瞬間。

 コンマ1秒の世界で粘り気のある音が鳴った。


「——っちゅ!」


 え?


 一瞬、理解が出来なかった。

 俺の頬に当たった暖かくて湿った感覚。

 ドキッと心臓が跳ねて、全身が一気に熱くなる。

 

 短くて、一瞬の暖かい感覚が今までの俺を塗りつぶすように覆いかぶさった。


「ぶ、ぶぶ……部活頑張って‼‼」


 バタンと扉が閉まる。


 何秒だろうか、音のない静謐とした廊下に俺は口を頬けて棒立ちしていた。


 しかし、時間が経つことに思い出される頬の感覚。柔らかくて暖かいそれの感触がはっきりと脳裏を霞む。


 そして、一分が経った時。

 

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ⁉」


 果てしない胸の高ぶりと共に、長かった17年の貞操が俺の元から去っていったのだ。



<あとがき>


 ついに終わりました。

 5月上旬に適当に書き始めたこの小説がいつの間にかフォロワー700人目前というところまで大きくなってしまい驚きましたが、何とか楽しんでもらえるように頑張った次第でございます。応援、コメント、☆評価、そしてレビューをくれた方には最大級の感謝を捧げるとともにこれからも甘くて切ない、でも甘い――そんな小説を書いていこうという意気込みを残します。


 この後、エピローグも書くのでよかったらそれまで付き合って頂けたら嬉しいです。(エピローグの公開は朝7時です!)


 次回作は高校生ラノベ作家ものか、大学生リケジョ先輩のどちらかを書こうかなと思っています。僕の小説を少しでも読みたいなと思った方は是非、歩直のフォローをお願いします。ラブコメの長編、恋愛の甘酸っぱい短編作品からSF、ファンタジー作品までたくさん書いているので読んでいただけると幸いです。まだ☆評価してないよ! という方は是非お願いします!


 最後になりますが、僕の自己満巨乳ロリ小説に付き合って頂きありがとうございました。また、会えることを心待ちにしています!


PS:ラノベ作家になりたいです。




 

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