13日目「み、認めようじゃないの!」


 ――嵐とはいつ来るかも分からない。そして、いつの間にか去っているものなのだ。


 そんな言葉があったような、なかったような気がする。まあないならないでここで作ったことにすればいいか。そう、この高潔なる作者んがっ――‼‼


 ぶっ飛ばすぞ、てめぇ‼‼


 はぁ……久々で少々手荒に吹っ飛ばしたのだが、あんまり気にしないでください。うちの作者がほんとすみません。


 それで……。


 つまり、お前は何を言いたいのかというと——幼馴染が家に帰ったということだ。


「い、いいわぁ……み、認めてやるわっ!」


「ちびっ子にはまだまだね~~」


「っく……そんなこと言って、真広より小さいじゃん?」


「ひゃ?」


「ちびっ子~~ちびっ子~~」


「わ、私はチビじゃないもん! 女子大生だもん!」


 それとこれにどんな関係があるのかは分からなかったが、ちびっ子にちびっ子と揶揄されている真音さんの反応はとにかく面白かった。クスクスと笑みがこぼれて、少し睨まれてしまったがその姿の代償と考えれば安いものだろう。


 ほんとに――ちびっ子、ロリ巨乳の真音さんが自ら墓穴を掘っていく様は謎の可愛さを醸し出して、幼馴染の存在すらも忘れてしまいそうだ。


「——じゃ、これだけだから! 真広たち、もう帰るねりょーすけ!」


 しかし、地団駄を踏む真音さんを適当にあしらった真広は振り向いて玄関に走っていく。帰るには少し早い、そう思い俺はすぐに訊いた。


「んあ、もう帰るのか?」


「何、真広おねえちゃんがいないのは寂しかったりするの? まだいてあげる? 怖い怖いんなら真広まだいるよ?」


「違うって、それなら早く帰ってくれ……というか帰りやがれっ」


「まーたツンデレなのね、りょーすけはぁ~~」


「お、やっと亮介もお姉ちゃんに心許したのか?」


 にししと歯を見せながら笑う真広の横でこちらもニコニコと笑みを浮かべる清隆。ほんと、急に来てはぐちゃぐちゃやって帰るとはさすがにひどい。片付けくらいしてほしいものだ。


「許してねぇ、良いから帰れ、ほらっ!」


「うわっ」

「つめたーい」


 棒読みの二人、その余裕そうな顔を覗けばどこかこちらをバカにしてそうだった。


「はい、いったいったぁ、じゃあな!」


 ——バタンッ!


 最後、真広が何か言いたげな顔をしていたが俺は無視して扉を勢いよく閉じた。さすがに今日はゆっくりしたい。それに、真音さんも明日で最後なんだし、色々積もる話もあるだろう。


「——っはぁ、っはぁ」


「だ、大丈夫?」


「あぁ、はい。大丈夫ですよ。ほんとあいつらと言ったら、ごめんなさいね、真音さん」


「え、いやいや私は楽しかったから大丈夫だよ!」


 大丈夫な人が料理中に殺意向けたりなんてしないよ——と言ってやりたいが同時に必死に作ってくれていたためいじるのも少し悪い。釈然とはしなかったが俺はこくりと頷いた。


「それならいいですけど」


「えへへ、最近は大学もあんまりだったしこういう感じの雰囲気も久しぶりで楽しかったよ?」


「そんなにですかね……まあ楽しんでくれたのならありがたいですけど」


「……」


 背中を向けて、奴らが汚した後を片付けながら言うと真音さんからの答えは返ってこなかった。数秒待ってもその返事はなく、少し心配になって振り向くと——


「ほぅら、そういうとこだよ?」


 真音さんがぷくーっと頬を含ませながら上目遣いを向けていた。それも俺のすぐそば、距離を取るなら5㎝程度の場所だ。急すぎて背筋がぶわりと震えて、反動で一歩後ろに下がってしまったが、彼女も足取りに合わせて一歩近づいた。


「っ」


「なんで逃げるのぉ?」


「え、べべ、別に逃げてはいませんっ」


 言葉では言い逃れしようとしても、体が言うことを聞かなかった。


「あ、ほら、逃げてるっ」


「ち、違います! 逃げてません‼‼」


「ふぅ~~ん、そっか」


「え?」


「……そうだよ、そうそう! これだよりょーちゃん‼‼」


 しかし、無言になったのも束の間。真音さんが引いた足を再び前に出した。次はというのも先よりも前に、というかすで胸がお腹に当たっている。その圧力に変な声が漏れてしまったがそんなことはどうでもよかった。


「っあ⁉ な、なななに、何、何なんですか‼‼」


「これなんだよ‼ これ‼‼」


「こ、これって——俺なんか、なんかしてますっ?」


「違うんだよ、そうじゃないんだよ‼‼ だって、りょーちゃんつまらないじゃん!」


「……つ、つま……え?」


「さっきみたいにぶつぶつぼそぼそなんか言ってるのよりも、こんな風に元気にしないとだめなんだよっ‼‼」


 びょんびょんと飛び跳ねる彼女。

 そしてもちろん、巨乳もバフリバフリと揺れていた。あそこに手を突っ込んだらどうなるんだろう――なんて妄想もいつもなら捗るが今日はあんまりだった。


「元気……いや、いっつも元気ですけどねぇ」


「でも、面白くないじゃんっ」


「んぐっ。そ、それは少し刺さりますね……」


「でしょ! だから今度からはもっと元気に笑ってくれないと困るんだよ‼‼」


「……」


「分かった?」


「え、まぁ……」


「分かったの?」


「そ、ん……どうでしょう?」


「わ、か、った、って、き、い、て、る、の?」


 駄目だ、圧がヤバい。

 胸圧もヤバかったが、それに匹敵するくらいヤバい。

 眼力と言葉の圧が俺を踏み潰そうとしてる。ここは穏便に――っ。


「わ、分かってます‼‼」


「うん、ならよろしい‼‼」


 そうして今日は妙に上機嫌だった真音さんと夕飯の買い物に行き、新婚の夫婦なのかい? とパートのおばさんに言われて、二人で顔を真っ赤にして帰り、そわそわした気持ちのまま夜を迎えることになったのだ。



「——そ、その……お風呂一緒に入る?」


 そんな誘いが聞こえたが俺は騙されない。


 聞き間違いの妄想だ。


 夏休みの課題をやっていると後ろから声が掛かる。しかし、俺も疲れているんだ。真音さんがそんなこと言うわけもないと頬をはたく。


「ね、ねぇってば……聞いてる?」


 もう一度、頬をはたく。

 しかし、今度は肩にトントンと柔らかいものが当たった。


 幻聴の次は幻覚とは俺も案外つかれて——ぁぁあああああああ!?


「な、ななな‼‼」


 なんと、振り向くとそこにはタオルで前を隠した真音さんが居るではないですか。


「だから、一緒に入るって?」


「な、何言ってるんですか‼‼ 早くそれ隠してくださいよっ‼‼」


「か、隠してるけど……」


「ま、丸見えですっ‼ 足が‼‼」


「生足だよ?」


「生足だよ、じゃないよ‼‼ いいから早くお風呂入ってきてください‼‼」


「えぇ……分かったよぉ……」


 そう叫ぶと彼女はお風呂へ戻っていった。


 しかし、なんで急にこんな、明日が最後だから言ってたのかそれとも入りたかったのか……俺には理解しかねるぞ。あんなもの見せられて動揺しない俺ではない。いつしか制御すらできなくなりそうだ。


 ——結局、見えそうで見えない胸と白く綺麗な生足を数秒間も凝視してしまった俺は一睡もすることなく朝を迎えたのだった。

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