12日目「どうしてこうなった?」
「——それじゃあ、どっちが亮介に美味しいご飯を作れるのか勝負よ‼‼」
「なんでそうなる……」
「よし、いいわぁ、受けて立とうじゃないの‼‼」
「——いやなんでそうなる⁉」
——てなわけで、往年の幼馴染と隣の部屋のお姉さんによる料理対決が始まった。もちろん審査員は俺で、副審査員は清隆。二人の対決に巻き込まれるのは少し苦しいが真音さんの料理は食べたい。
それに隣の清隆はニコニコしてるし、言ってはいなかったがこいつら二人は昨日俺の家に泊っているんだ。
「なんでなんだよ……清隆……っ、というかなんで昨日は泊った!」
「なぁにしゃらくさいこと言ってるんだよぉ。俺たち、親友だろ?」
「誰が親友だっ、この腐れ縁めっ!」
「うわぁ、そう言われるとさすがの俺も傷ついちゃうなぁ~~」
傷ついてるやつが頬まねぇっつの。ほんと、急に来るわ、急に泊まるわ、急に始まるわ。何しに来たんだよ、こいつら。
「あ、ほら、始まったぞ」
「はぁ……見えてるよ。知ってる」
「いいのか、冷蔵庫漁られてるけど?」
「言い出しっぺのお前が何を言ってる、ふざけんなっ」
「俺じゃないって……」
「じゃあ、その連れだ」
「お姉ちゃん?」
「その言い方やめてくれ……俺はそんな風に思ってないんだよ、ったく」
「まあ、それでも案外気にしてないみたいじゃん? 当の本人はさぁ~~」
「はいはい、言ってろ言ってろ」
そんなこんなで二人で他愛のない話をしていると二人の料理対決はすでに終盤に差し掛かっていた。二人ともラストスパートの強火と味付けでコンロの前での圧力バトルを繰り広げている。一人暮らし用のマンションのくせにIHコンロが四つあるところが不思議だったが、もしかしてそれは今日のためにあったのかもしれない。
とはいえ、二人の熱烈な料理対決は最初から決しているようなものだった。お互いがお互いの事を知らないためか、はり合っているつもりだったようだが……雲泥の差だった。それもどんなに天変地異が起こったとしても変わらないくらいにだ。
俺の幼馴染が真音さんの美味しい料理に勝てるわけがない。
つまり、簡単に言うなれば――真広が作る料理は何でも鍋。美味しい物なら何でも入れて、味もへったくれもないようなえぐいやつ。
食べた人間は殺意を抱くほどにまず過ぎるらしいが——とはいっても、俺だって食わされたことがある。小学校の時だったためかそこまで味が洗練されていなかったが、そんな真広が高校生になったのなら……これはもう、致死のレベルだろう。
「——勝てねぇよ、真広じゃ」
狭いキッチンで二人して汗を流す二人。
まるで何かのアニメの様に青春しているように映ったが、それもすぐに塗り替えられる。
「なんでそんなこと言うの! お姉ちゃんにたてつくとはいい度胸ね!」
度胸も何も、真広には胸すらないだろう。隣を見てみろ、爆乳、巨乳だぞ。仲良くなって一線を超えそうになったが、触ったことすらないのが惜しい。まあ、それでも目の保養にはなる。
「大体、匂いがヤバい。どうすんだ、真音さんの料理に移ったらよ」
「えへへっ、それほどでもねぇ~~」
「褒めてねえよ! てか、まじでうまい料理に傷を付けたらふっとばすぞ!」
「うるさいもん! 真広が作る料理はおいしいもん!」
「美味しいわけあるか! この何でも入れたようなクソ鍋があるわけないだろうが、なんだこの色、ドブ川のヘドロみたいな色してるぞだろ……っ」
「な、何をぉ‼‼」
「まあまあ、りょーちゃん。あんまりいうのは少し……」
「真音さん……」
――ん、待てよ。
「いいっていいって、どうせ私が勝つんだから……ぁ」
「——んなにを‼‼」
さすが、いつもは男の俺と二人きりだったから分からなかったが真音さんも椎奈真音という名の女子大生だ。つまり、女である。
しかし、今回見せたのは女の笑みだった。
「おいおい、ヒートアップしてるなぁ!」
「楽しそうだな、俺はちっともだぞ……」
「だろうな、いっつもあんな旨そうな料理食ってるならいらないもんなぁ~~」
「笑うな、きめぇ」
「どっちの台詞だ? 俺か、それとも地でやってる亮介か?」
「清隆だよ」
「うわぁ、女子大生居候させてる時点でヤバいって言うのによぉ」
「もう、何度も言っただろ……すぐに出ていくんだよ、分かったか?」
「はいはーい」
返事は二回だよ、クソッたれ。
そして数分後、二人の料理が完成したが見た目から察するに勝敗は歴然だった。真音さんの前に置かれたのはそこら辺の定食屋顔負けの栄養価の高そうな煮物だった。
味噌とかつおだしをうまく組み合わせ、みりんや醤油、砂糖でバランスを取っている、言わば真音さんの十八番その二である。これはもう、喉から耳から、穴という穴から手が出そうなくらいだ。
「うまそう……」
「それに比べて?」
「ああ、それに比べて真広のは……ノーコメントで」
「なんでよぉ‼‼ お姉ちゃんのほうが、真広の方が美味しそうでしょ? そうでしょ!?」
「んなわかあるか……色、焦げ茶の塊だぞ……まずそうだし」
「そ、そんなわけないもん‼‼ 絶対に美味しいもん‼‼ ——はむっ!」
すると、あろうもことか真広はスプーンを手にして小さな口に焦げ茶の塊を頬り込む。噛めば噛むほどバリバリ、ぼりぼりと音が鳴っていて、流石の俺も金属でもかみ砕いたかのような音が聞こえてしまえば喉も震える。というか怖い。
「おい、大丈夫か……?」
ゴクリ、真広が飲み込むのにつれて俺も生唾を飲み込んだ。
直後、親指の指紋を見せようと腕を掲げようとして——その瞬間、彼女はその場に突っ伏した。
「う、うぇえええ……!」
「だから言った」
トイレに駆け込む真広。
それを横目にニヤリと笑みを溢す真音さん、今まで天使のように感じていたがもしかして悪魔だったりするのか。いや、なんというかそれもありかもしれんけども。
「じゃあ、私の勝ちでいいかな?」
「はい、いいですよ。食べなくても分かります、圧勝です‼‼」
「おぉ~~」
清隆一人の静かな拍手の元、熱烈だったはずの料理対決がパットせずとも終わったのだった。
<あとがき>
もうすぐお別れ……と言っておいて新キャラの登場。もしかして続くのかな……? と思った方もいるかもしれませんが、しっかりの終わるのでご安心を。
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