10.5日目「映画を見よう!」2


 始まった映画の名前は「違う人の彼女になったよ」だった。


 ネタバレかと思うほどの題名だが、予想以上に胸が熱くなって、キュンときて、琴線に響く泣ける大学生の恋愛。


 いつか、自分が受験をして大学生になった頃。こんな恋愛をできるのだろうかとふと考えてしまう。まあ、居候でJDを住まわせている高校生が何をほざいてるのか、そう言われたら何も言えないがな。


「……ぅ」


 しかし、さっきから隣が騒がしい。


 体勢を変えたり、嗚咽を漏らしたり。

 そんな風に泣きじゃくる真音さんのおかげで普段は映画なんかで泣かない俺ももらい泣きしてしまいそうだった。

 

 俺たち二人、ギリギリのラインを攻めてくるこの映画の罠にまんまとハマっているようだ。


「うぅ……かなじぃ……ぶーーーっ」


「あはは……鼻水垂れてますよ、ほら」


「あ、あじがどぉ……ぉ」


 鼻水がだらんと垂れて、雪の中、半袖で遊ぶ少年のようだったが童顔と相まって汚くは見えなかった。というか、むしろ愛らしい。変に保護欲を抱かせる顔。


 ……もしも妹がいたらこんな感じの想いを抱くのだろうか。


「ぶぶ————っ! りょー、ちゃ……んんは泣が……ないのぉ?」


「鼻咬みながら言うのはやめてくださいよ……泣き過ぎですっ」


「そんなこと言って! うぅ……涙目じゃん、泣いてもいいんだよぉ?」


「こ、これは……少しだけもらい泣きしそうになっただけですよっ。僕は泣きません!」


 言葉の端々が少し震えたが涙は堪えられたようだ。


 いやしかし、隣に座っている女の子がここまでギャンギャンしていると俺もかなり危ない。もらい泣きの寸前だ。それに、これが吊り橋効果ってやつなのか? いや、似た類いだったけど違うか……。


「にしても……いい話ですね」


「でじょぉ‼‼」


「うわ、ちょっとっ——汚いですって!」


「ぶぶぅ——‼‼」


「おわっ、ちょ! 俺の服で鼻かんで涙拭くのやめて下さい!」


「拭いてないし……ないしぃ!」


「なんで怒ってる……情緒不安定なんですか? 女の子の日とか?」


「うぅ……なんで今そういうこと言うの‼‼ 私のはひどくはないけどっ、思い出じたくないもん‼‼」


「っあ、それは、っはい……すみません。デリカシーなかったですね……」


「むぅ……許すぅ……」


 涙目で萌え袖で、さらには俺のパーカーのお腹当たりを掴んでいる。それがもう、童顔と巨乳にマッチしすぎて目とお腹が幸せ過ぎた。違う意味での涙が出てしまいそうだ。お父さん、お母さん、産んでくれてありがとう。これが俺の生きる意味です。最高です、最強です、ああもう最大級の感謝です。


 ――ってなに感謝してるんだ俺は。

 しかし、一度冷静になってみて考えるとこれを地でやっているカップルに殺意が湧いてくる。


 というか、俺だったら一日も持たない気しかしない。女の子ってどうしてこんなにも柔らかいんだよ、触りたくなるぞ。いや、触ったりしないけどさ、絶対。


「ぁ」


 頭の中の変な葛藤に悶えていると隣で寄り添って座っている真音さんが小さく呟いた。何があったのか、と俺もテレビの方に視線を送る。


「ぁ」


 なんとまあ、キスをしているじゃないですか。


 それも違う人の彼女になった女の子が本当の愛を求めて元の彼氏のところまで持ってきて、背徳感溢れる本当の意味キスをしている。


 瞬間、全身が赤くなった気がした。いやいや、こんなので慌てるような童貞じゃない……まあ童貞だし、付き合っていない歴=年齢の俺だけどさ。そんなわけない、ありはしない、俺は断じて慌ててない!


 しかし、俺の隣に座って肩をくっ付ける真音さんも顔を赤くしていた。触れている肩と掴まれた腕からは僅かに上がった熱が伝わって、余計に筋肉が強張っていく。これが恋をするということなのか、それともただのつり橋効果なのかは分からないが胸がドキドキする。


『好きだよっ』


『……そんな、なんで』


 失ったら初めて気づく大切さ、それを示している二人は俺たちには少し遠い存在だったがあとからでは遅いということを意味していた。


 そんな熱いキスの虜になり固まっている俺。


 寄り添う真音さんの事も忘れかけていると——雷撃の様な衝撃が右手に炸裂した。


「っ——!」


「……だ、だめ?」


 不安げに顔を覗く彼女。

 しかし、重要なのはそこではない。

 視線を落として、右手を見る。


 するとそこには、地面についた俺の右手に上に真っ白で小さな手が添えてあったのだ。


「ぇ、ぁ」


 動揺する中、手に伝わるほのかな体温。冷え性の俺にはとても心地がいい。それに、少しだけ彼女の手が汗で湿っていて余計に胸がドキドキする。


 この音、聞こえてないだろうか? そんなありきたりな心配すらもしてしまうほどに緊張していた。


 しかし、顔を覗く彼女は気にしてはいないようで、むしろ少し強めに握ってくる。添えからの握り、ランクアップだ。


 ここでダメと言えば人生で初めての経験が終わってしまうと全力で肯定する自分と、付き合ってもいないのに一線は超えてはいけないぞと反対する自分がぶつかり合っている。


「……?」


 やばい、でも。

 やめるわけには……っ。


 そして、数秒間悶えた俺が選んだのは————両方だった。


「——っ」


「だ、めかな?」


「……別に、気にしないです」


 最強無敵のポーカーフェイス。

 舌を噛んで正気を取り戻し、俺は優しく微笑んだ。




<あとがき>


 なぁ、こんなのずるくねぇ!? 僕が高校生の時、こんな甘々なことしたことないんだけどなぁ‼‼ まじで高校生カップル爆破しr——————っ。


 永遠に幸せになりやがれ、クソッたがぁ‼‼‼‼‼‼


 そういえば、あの方が見ているかは分かりませんが


 To Mexican Writer

Thank you for your friendly comment!


 あと、良かったらお星様恵んでくれませんか……、ひもじい僕に?

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