9日目 「映画を見たい!」


 そろそろこの前置きも飽きたころだろうか。

 ははっ……。

 大体、言い出しっぺの僕が飽き始めている時点でお察しか、すまないすまない。


 とはいえ、あの出会いは今でも鮮烈な思い出だ。この退屈な人生に花が咲いたと言っても過言ではない。というか、普段から刺激なんてなかったし、刺激という刺激も部活で出来た擦り傷だとか打撲だとか捻挫だとか——それくらい。


 胸をときめかせるような、ドキドキワクワク、そんな感覚を味わったのはもうかれこれ十数年前だろう。もしかしたら、あれだ。母親のおなかの中から出てきて泣き喚いた時くらいだったかもしれない。


 ——って、何を長々と語ってるんだよ俺は。


 じゃあ、言ってしまってもいい頃合いだから言ってもいいか?


 言うなって言われても言うからどっちでもいいんだけど、というか言う言ううるせえな。


 はぁ、くそ。何回でも言ってやるよ。


 ——夏休みのある日、俺は野生の巨乳ロリに出会った。



―――――――――――――――――――――――——————————————



「今日は映画借りてくるから一緒に見よっ!」


「え」


「私、大学からの帰りTATUYAいって借りてくるから、何がいい?」


「ちょ、え?」


「っ……もぉ、なんで乗ってくれないの……」


 そんな急に言われても困る。というか、なんだこの声の張り上げ具合は。いつもならもう少し眠そうな顔でトロトロに蕩けてるはずだし、ここまでニコニコニヤニヤしているようなキャラでもないはずだ。


「……ていうか、なんで今日はそんなに元気いいんですか」


「えっ、もしかしてバレたっ⁉」


「バレるも何も言葉の端々から伝わってきますって」


「えへへ、それほどでもぉ……」


「褒めてませんよ」


 そして謎の一連の流れ。某有名幼稚園児アニメの主人公みたいなこと言いやがって。


 お尻の真似でもやってくれたらいいのに——なんて断じて俺は思ってもいない。いや、別に好きな人の裸を見てみたいなぁとは思う、あははっ!! 何を何を、これでもいっぱしの男子高校生だ。エロい事には興味ありありだ、というか拝みたい、おっぱいも拝みたいっ‼ は、違っ、というかもう揉ませてくれ‼‼


 ——なんて本音も内に秘めているが生憎と俺は冷静で高潔だ。言ってしまって「なんちゃって」みたいなへまは起こさない人間だ。


「——まぁ、いいやっ! とにかく借りてくるから! しっかり夕方までには帰ってきてね~~‼‼」


「ちょ——また急にっ」


「じゃっ!」


「まっ——!」


 ガチャンッ‼‼


 玄関を勢いよく飛び出して、ぎゅるりと脚をフル回転させて階段を爆速で下っていく真音さん。どれだけ楽しみなのか、俺には図りかねる。


「はぁ……部活までアニメでも見て、時間潰すかっ……」



 ☆☆



「たっだいまぁ~~‼‼」


「……」


「あれ、返事ない……寝てるのかな?」


 私が大学から帰ってくると彼からの返事はなかった。いやぁ、彼とか言うのは少し違うかもっ。やっぱ、りょーちゃんの方が馴染んでるし……こういう慣れないことするのは良くないよねっ。


「……んぁ」


 スポーツ用品店で買ったスニーカーを玄関に適当に脱ぎ捨てて、私はリビングへ向かう。っていうか……なんかこの動きが板についてるのがこれまたいいのか、なんて疑問が浮かんでくるけど、最近じゃ普通すぎてあまり気になっていないのもほんとだし……あれ、私ってもしかしてヤバいかな?


 はははっ。

 というか年下の男の子の家に居候させてもらってるだけでもうヤバいか。


「むぅ……ぁ」


「きゃわ……」


 はぁ、ヤバいなぁ。

 というか可愛すぎ、この寝顔半端ない!


「ん……ぁ……ぁ」


 それに、すっごい気持ちよさそうにして寝てるし。なんか邪魔しにくいなぁ。

 これ……。

 

 バックからTATUYAで借りてきた戦争映画「プライベートキリアン」とホラー映画「リンぐるぐる」を取り出して、テーブルに置く。少し見つめて、見たい気持ちを生唾とともに飲み込んだ。


「はぁ……でも、仕方ないのかなぁ……寝てるし」


「……」


「ていうか、ほんといい顔してるし……かわいい」


 まあ、明日見ればいいし、今日はお風呂でも入ってすぐに寝よう。私もいっつもりょーちゃんに頼りがちになったらだめだし、大体私居候の身だし! これ以上、変なことしないようにしよう‼‼


「よぉ~~し、おふろおふろおふろ~~おっふろ~~!」



 ☆☆



「ふわぁぁぁぁぁあ!」


 どぼしゃん、じゅーるじゅーる。


 ——みたいな音と共に湯船からお湯が一気に零れた。ん、そんな音してないって?   いやいや、私には聞こえたもん! 私が聞こえればそれでいい、それが私のモットーだし!!


「はぁ……何考えてるんだろぉ、私」


 こんな日常にどっぷりつかって、りょーちゃんの優しさに甘えて……これじゃあ童顔な前に本当に子供じゃん。いやいや、あれだよ! 胸おっきいし、巨乳だしお姉さんだし‼‼


「ふぅ……」


 こんな風に焦って、疲れて、どうにか考えないようにしてるけど。さすがに私も考え何と駄目なのかなぁ……。


「私、りょーちゃんのこと好きなのかも…………なーんてねっ」




 



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