第6話 最終日…その2(ものおもい)

 連休最終日の今日も最高にいい天気だった。

 私はいつもの特等席で、もう一人の相方がやってくるのを待っている。


 日差しにほんのり暑さを感じるけど、私たちの秘密基地である、この木の上は、風通しが良くて心地がいい。


 …今日は私が先についた。待ち合わせよりもまだ20分は早い。

 いよいよ来た最終日。

 なんて言えばいいのかな…ワクワクと連休が今日で終わる寂しさが入り混じった、不思議な気持ちだ。


 ただ、そんないろいろな気持ちをひっくるめて、今日をおもいきり楽しみたいって思っていた。


 本を読んで彼を待っていようかと思ったけど、集中できない。少し読んでは手を止めてを繰り返していた。


 …なんだかソワソワしちゃって、ね?


 …また落としても困るから、本はしまって、辺りの様子をぼーと眺めることにする。

 

 …公園はいつも以上の賑わいを見せていた。たくさんの家族連れが連休の最終日を楽しんでいる。それだけじゃあない。小学生らしき子ども達に、ランニングをする人…。そして、仲睦まじいカップルの姿。みなそれぞれの休みを楽しんでいる。沢山の人が集まっているのに、不思議とこの辺りには人の気配がない。まさしく『秘密基地』にピッタリだ。


 …ニヤっと笑う。


 …ちょっとした優越感に浸りながら、少し離れた芝生に目をやる。あの辺りはまだ人気ひとけがある。見たところ一組のカップルがバレーボールをしている。二人とも結構上手くてラリーが繋がっている。楽しそうにカウントする声が小さく耳に入ってきた。


 しばらくその様子を眺めていた。どうやら30回は続いたようだ。すごい。…私じゃできないなぁ。


…目標を達成したのか、それとも疲れたのか…。

 カップルは二人で公園でも人気のある方へと、肩を並べて歩いて行った。


 ・・・・・

 

 再び静かになって、風の音、それから葉の揺れる音だけが私の鼓膜を振動させた。


 ふと、先ほどのカップルの姿が自分たちにダブる。


 ――――昨日、私たちもあの辺りで追いかけっこしてたけど…周りからはそんな風に思われていたのかな?————


・・・そう思うと、先程の二人も決してカップルとは言い切れないんだな、っと思った。


 ・・・・・・

 ・・・そのまま、冬弥との関係について思いを馳せる。 

 ―――――『運命の友達』———―—


 最初はお互いに少し恥ずかしいと思ってのに、今となってはすっかりお気に入りになったフレーズ。


 …彼と私を表す関係。


 …ふと考える。運命の友達って、何なんだろう?


 付き合っているとか、恋人とは全然違う。

 …実際に付き合ってないし。


 …でも、ただの友達というワケにはいかない。


 …チークキスぐらいならしてしまうし、連休をずっと一緒にいても飽きることなんて無い。それどころか楽しくて、もっとずっと一緒にいたい、って思えてしまう。

 ・・・心が心地よくくすぐられる。そんな関係。

 

 …ふと、友達との電話のやりとりが思い浮かぶ。

 1年の時から仲が良くて、同じクラスの子。この子にはこの連休の事を話していた。

… 彼女が言うにはこうだ。


―――それさ、もうカップルでいいんじゃないの??―—


―――えー、違う気がする…。実際に付き合ってないし。そんな風なんじゃなくて、もっとこう…―――


―――あのねぇ、もうノロケにしか聞こえないんだけど?——―


―――結構真面目に考えてんだけどなぁ…——―


―――恋する乙女は複雑なワケね?かおりが羨ましいよ―――


―――弥生ちゃん!私は別に!―――


―――ハイハイ。私はそろそろ部活いくから。また佐々木君と進展があったら聞いてあげるわよ、んじゃね?―――


 弥生ちゃんは、からかう様な口調で電話を切ったんだ。


 …まったくもぅ、この思いの正体…そりゃ自分でもよくわからないけど、周りは直ぐにそういう風にいいたがるんだもん、なぁ。

 

 ・・・冬弥との関係を『デキてる』とか『付き合ってる』とか、そんなありふれた言葉で言われたくない…。

 なんか分かんないけど、そう思うの。


 ・・・・・

 ・・イヤホンから流れてくる曲に意識を向ける。

 ドリカムの『晴れたらいいね』だ。


 …女の子が成長して両親にメッセージを送る歌。今は丁度、2番のところ。母親に向けて歌っている部分が流れてくる。


 『あなたにも肩が並んで、人並みには恋もしたよ』


 ・・・ふと考えてみる。

 ・・・人並みの恋、ってなんだろう??


 小学校の頃に感じた「あの人かっこいいー!」ってヤツ?


 なら、私が感じているこの思いとは全然違う。

 それこそ、そんな人並みな感じじゃないもん。


 一人で家にいても、なんか嬉しくて、ふいに足をバタバタしたくなったり、胸が弾んでスキップをしたくなったりするんだよ?


「よ、かおり!」

「!!」

 突然名前を呼ばれてハッする。一瞬、気持ちが漏れていないか、なんてバカなことを考えてヒヤッとする。

 ・・・私の真下には、まさしく今考えていた運命の友達の姿があった。どうやら随分と物思いにふけっていたようだ。彼が近づいてくるのに気がつかないなんて。

 名前を呼ばれて思わず笑みが浮かぶ。私も彼の名前を呼ぶ。


「冬弥ぁ!!おはよ!!」

「わりぃ!遅くなった!」

「ぜーんぜん!約束の時間よりも全然早いじゃん!」


 時刻はまだ待ち合わせの10分前だ。


 …待ち合わせ、なんてデートみたいだね。

 ・・・そう『みたい』なのだ。

…私たちのしていることはデートじゃない。

…連休を一緒に過ごすっていう大事な『約束』


「待ってて!今降りるから!」

 待ちきれなくなって自分から木を降りる。少しでも早く会えたことが嬉しい。

 もう、今日の予定はシャクヤクの花を見に行きながら決めてもいいだろう。

 

 ・・・・今日は最終日なんだもん!

 

「・・・ちょっと早いけど、もういくか?」

「うん!」

 ・・・冬弥の声にめい一杯元気に頷く。

 気持ちが通じあっているようで少し嬉しかった。

 日差しが眩しい。体温が上がったような気がしたのは暑さのせい?


 とめどない会話で笑いあって、ふざけあって…どちらともなく2人一緒に歩いていく。


 ・・・へへ、歩調を合わせることも随分と馴れてきた気がするなぁ。


 私たちの隣をカップルが通りすぎる。手を繋いでいて、いかにも仲が良さそうだ。


 ・・・・ふと思う。手を繋いだら、カップル?

 …それとも『運命の友達』なら、それもあり??


 一瞬、彼の左手をチラりと見る。…私より大きい手。少し日に焼けてゴツとしている。血管が浮き出ているのが見えた。


「・・・?どうした??」

 私の様子に気付いて、冬弥が聞いてくる。気取られないようにへへっ、と笑顔を向ける。

「べっつにぃ~!今日は冬弥に何を奢ってもらおうかなーって♪」

「んにゃろ!今日は負けねぇっつーの!」

「へへっ、やってごらん~♪♪」

 歩調をあげる私と追いかける彼。


 そんな私たちに合わせるように、周りで2匹のちょうちょが飛んで、空にはつがいのツバメが飛び回る。まるで、私たちを含めてみんなで踊っているみたいだった。

 そんな風に二人で楽しく歩いているうちに、気付けばシャクヤクの場所は目前に迫っていた。―――――。

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