第4.5話 明日に胸いっぱいの希望を〜かおり〜
…自室の窓を開けて外の景色を眺める。陽はすっかり落ちて、街灯の明かりだけが点々と光っている。家の傍の田んぼから、かえるの鳴き声が聞こえてくる。あのフォルムと、ぬめり感が本当に苦手なんだけど、姿さえ見なければ、まぁ平気。
田んぼに水が引かれたからかな?少し涼しい、爽やかな風が部屋の中に入ってくる。
「・・・運命の友達、かぁ。」
ごろん、とベットに寝転がって、そっと頬に手を当てる。冬弥の温もりが残っている気がして口元がにやけてしまう。
嬉しさで顔がジンジンしてきて、思わず枕を抱き締めて、顔をうずめる。
随分と大胆なことしちゃったなぁ。
…自分でもそう思う。
反対の頬にも触れる。…こっち側は…冬弥からの…
枕を抱える腕に力が入る。ダメ、身体と気持ちをコントロールできない。
足をバタバタとさせて、閉じた目にもギュっと力を入れる。
胸の高鳴りは止まらない。頬に発生するしびれ。それはきっと飛び切り甘いものを口に入れた時の感覚に似ている。
枕から顔を離して、横に置いたスマホをちらりと見る。誰からも、何もきていなかった。
…さっき、トレーニングしてるってラインが来てたもんなぁ。
ふぅ、っとため息をついて、スマホを無造作に置く。いつでも反応できるように、手元に。
…家にいる時、チラチラとスマホを気にかけることが増えた気がする。
いつもなら、ポイっとそこら辺に置いて本でも読んでいるのに。
「……こんなことが起きるなんてねぇ?」
あんな出会い方、あるもんなんだね、っと初日のことを思い出す。
…あの日は、私にとって重要な『決戦の日』の延期が告げられた日でもあった。
あんなに待ち望んでいたのに、上手くいかない事ばっかりで、未来なんて信じるもんかって思ってた。落ち込んで、塞ぎ込んで、ムカムカしてて……
そんな気持ちを少しでも落ち着かせるために足を運んだ場所があの、運命の木だった。
木によじ登ってから、心の中でめい一杯叫んだ。
『もしも、ここから先の未来に希望があるなら、何でもいいから証明してみせなさいよ!!』
…ってね。そしたら、弾みで本が落ちて、彼に当たったんだ…。
ずっと、声を掛けたかった彼に、明日を諦めかけていたその一瞬に、あの場所で。
少しだけ、運命を信じてみようと思った。
事実、冬弥との毎日はすごく楽しかった。夢中でバカなことをして、ハシャいで。
…こんなに笑顔でいられたのはどれくらい振りだったかな?
今日の、ふとした瞬間に心に訪れた、焦り、不安、モヤモヤ、投げやりな思い…。
『そんな投げやりな思いで、キスしたって満足しないだろ!?』
冬弥の言葉が思い浮かぶ。彼の少し硬くて真剣な表情と共に。
…自分でも思う。なんて強引なやり方だろう。もしも、あのままキスをしていたら、私はどうなっていたんだろう?
『…その、ムードとかあるだろ!?』
冬弥の言葉に救われた。今更ながら、彼の言葉に納得している。
そうだね、どうせなら…その、ロマンチックな方がいい、よね?
『・・・ファースト・キスはまた今度!』
思い出して顔が火照る。その瞬間の未来を考えると、顔から火が出そうだ。
…そんな未来がきて欲しいから――――
だからもう一度、戦うチャンスをじっくりと待とうと思う。冬弥と一緒なら、出来そうな、そんな気がするから。
その時、電子音と共にスマホがヴヴ…っと震えた。
パッと素早く手に取り、ディスプレイを見る。
…冬弥からだ!
…どうやら、トレーニングが終わったみたい♪
お疲れ様、っと返すと、すぐに既読がついて返信がきた。
『これで、明日は勝てるぜ♪』…だってさ♪
…ふふ、少しくすぐってやろっかな?
『走るだけじゃなくて、キスの雰囲気作りもイメージトレーニングしておくんだよ?』
‥‥少しだけ躊躇する。送って大丈夫かな、って。
でも、勢いに任せて送信を押す。ピコん、という電子音がその事実を伝えてくる。
…送ちゃった!!
またすぐに顔を枕にうずめる。本日二度目の悶絶。今度は左右にバタバタ揺れる。自分で自分をくすぐっているなぁ、って思う。冬弥はどんな顔で見ているんだろう?ハラハラとウキウキの気持ち。ベットの上でぴょんぴょん飛び跳ねたくなる!
…ええい、折角だから勢いと調子に乗ってダメ押しをもう一つだ!
…今日の仕返し♪
『あ、キスから先の妄想はまだダメだからねー♪(笑)』
送ってから、スマホをシュっと閉じる。やっぱ恥ずかしい!
ふと、時計を見る。9時半。もうこんな時間か・・・。
…それから、ラインでいくつかふざけたやり取りをした。楽しくって仕方がなかった。
そして、『明日、またあの場所で』という、私たちだけに通じる言葉でラインを終えた。
明日は連休の最終日。天気も晴れてくれるみたい。シャクヤクの花も咲いてくれたらいいな…♪
「・・・・・」
心によぎる楽しみと、少しの不安。
…連休終わったら、私たちはどうなるのかな?
沸いてきたその思いをすぐに振り払う。
…きっと大丈夫。私たちは…その、運命の友達だもんね。ただの友達でも、恋人でもない…うまく言い表せないけど、『運命の友達』だから…。
「・・・ああ、忘れるところだった。」
ふと思い出す。寝る前の薬、飲んでおかないと。
ケースから錠剤を取り出すと、ペットボトルに口をつけて一気に飲み込んだ。
…心の中の不安も一緒に。
「さぁ~て!明日も楽しもう!!」
リモコンで部屋の電気を消して、ベットに倒れこむ。バフっという音が響く。
…心がフワフワする感覚がして、何だか心地よかった。
……明日への希望を胸に、私はそっと目を閉じた―――。
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