プリン

 あの店員覚えてろよぉ….. 冴えない顔の医大生は、ついさっきレンタルしたビデオを詰めた鞄を振り回しながら帰路に就いた。街灯がないので大変辺りは暗く、おまけに伸びた前髪で視界が狭い。水たまりを踏んでしまいため息がでた。明日は休み。少し気が楽になってきた。ぼろアパートの扉を開け、コートを掛けた。そろそろ秋穂が帰ってくる。それまでにご飯を用意しとこう。慣れた手つきで下ごしらえを済まし、湯が沸くまでさっきのビデオを整理。コンビニで買ったプリンを冷蔵庫に入れとかなきゃ。大半は二人で見るようのサスペンスものだが、一本だけavが混じっている。眼鏡のOLもの。18になりたての高校生がエロ本を買うときにカモフラージュをするような形でレンタルしてしまった。後悔。老けた女店員はそのジャケットをみるやいなや、驚いてつり銭を床にぶちまけた。お前が悪いんだぞという態度に苛立ちを覚えた。同棲している恋人がいるのに彼女に似たビデオで発散するというのも変な話だ。僕と秋穂は付き合ってもう少し4年だが、キスどまりのまま。自分の奥手さをつくづく実感した。こんなの借りてるのバレたら経験豊富そうな彼女には間違いなく捨てられる。(OLさんの裏の顔)をベッドの下にしまいキッチンへ向かった。


 残業で帰りがものすごく遅くなった。孝輔はもう寝たかな、と思ったけどアパルトマン熊谷の402号室の明かりはついたままだった。ヒールを脱ぎ捨てリビングに向かうとじんべえを羽織りこたつで溶けている孝輔がいる。

「おかえり、おつかれ。」

「うん」

孝輔のへにゃっとした笑い顔。たぶん二人とも疲れてる。荷物を置きに行ったら孝輔のベッドから何かはみ出ている。私そっくりな女優さんのえっちなビデオがあった。問い詰める気力もないよ。ため息がでた。付き合ってそろそろ4年。孝輔は記念日覚えてるのかな? この年で生娘のままという自分。変ね。同棲してるカレもいるのに。

こたつに足を突っ込む、やっぱ天国じゃん。孝輔の作った鍋は、ちょっぴりおいしかった。沈黙が続く。来週の日曜で4年。カレンダーに不自然な点がこっそり打たれてある。やっぱ覚えてくれてたんだ。なんとなく頭を撫でてあげた。またへにゃっと笑ってる。この気の抜けたダメ男はなんと先月上場してる有名大手から内定を貰ったばかりだ。世間が彼を認めてくれたんだと思うと少し嬉しくなったのを覚えている。でもこれできっと二人の時間も減るんだろうな。ため息を連発する私の目の前にプリンが置かれた。何重も割引シールが貼られてあるところをみると賞味期限ぎりぎりのものだろう。

「秋穂はやっぱり綺麗かもしれんわ」

こたつの中でくっついていた足を蹴る。このおばか。にやけを抑えながらプリンの容器の蓋を開けた。

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