現世の死霊 5

「ユリア、さん……。はい、任せて――」


「なっ、なんでもいいけどよぉ!! 早く、してくれねえかっっ!?」



 ユリアとの会話に割って入ってきた声は、前方で戦闘中の槍兵の男のものだった。


 えー……。今、いい感じのフインキだったのに……。

 大したことでもないなら、無視して続きを――ん、アレは何だろう?



「ショォォォウゥゥヒィィンンッッ!」


「あっつ!? な、何だよコレ! 火の玉が浮いてんぞ!!」


「それはレイスのスキルだよ、気を付けなっ! はぁぁぁっ! <ダブルスタブ>っっ!!

 ……ちっ、こっちはゾンビの相手で手一杯なのに、ウィル・オ・ウィスプの邪魔まで入るなんてね……っ!!」



 前衛陣のみんなは、ゾンビに囲まれて一対複数の戦闘に持ち込まれている。

 それだけであれば先程までと変わらないが、いつの間にかゾンビの質が上がったようで、あの元冒険者達以外にも武装しているのが多くなったみたいだ。


 んーと、彼らがあの時のキャラバンの人達だとしたら、他の護衛の人達ってとこかなぁ。

 かなり劣勢になってるみたいだし、そろそろ終わらせようかな~。



「で、では始めます! ふぅ……<魔力譲渡>~~っ!!」



 ユリアも戦況がかんばしくないことを理解したのか、急いで魔力を送ってきた。



「――ボ、ボクの中に、何かが……入って、くる……っっ!!」



 そして、彼女から凄まじい力が……っ!!

 というのはちょっと盛り過ぎだけど、不思議な力……うーん、これもちょっと大げさな気が……。


 いや、一応なにかが入ってくるような感じはしてるんだよ?

 でも、思ったよりも大したことないというか……、少量過ぎてほとんど感じられないというか……。


 う、うん。注目すべきは、僕の中に美少女の何かが入ってきた、ってことだよね!



「~~~っっ!! ――っ、ふぅぅ……」


「ん、終わりました?」


「は、はいっ! はぁ、はぁ……わたしの魔力は、すべて……ぅっ……お渡し、しましたっ」


「了解です。こほん――こ、これだけの魔力があれば、レイスを倒すことができますっ!」



 という感じで、ちょっとした子芝居もしておこう。


 ユリアがせっかく、「すべてを出し切りましたっ!」ってフインキにしてくれたからね。

 僕もそれくらいはしておかないとさ。



「!! ォォォオオ……ッ、ヤメェェェ、ロォォッッ」



 すると、騒いでいたのが悪かったのか、レイスがこちらの様子に気付いたみたいだ。

 前衛陣を襲っていたはずの火の玉が、そのコースを変えて僕達の方向に飛んでくる。


 まぁ、僕が魔法を発動する方が早いけどね。



「レイス、キミはもう死んでるんだよっ。だから、安心して成仏するんだぁーっ!! <ヒール>ッッ!!」


「ウォォォォォォンッッッ!!! カ……ァ、ネェ……ハ、アル……タス……ケェ…………」



 ヒールの魔法が放つ光に包まれたレイスは、その暗闇のような体を維持できなくなり、始めからそんなものはなかったのではないか、と疑いたくなるほど綺麗に消え去った。


 とりあえず、ノリでクライマックスっぽくしてみたけど、なんか簡単に倒せたね。

 簡単過ぎて、もらった魔力は何も使ってないや。


 これはユリアからの愛の力として、僕の中で大切に保管しておこう……。



「みんなっ! 怪我はなかったかしら!?」



 自分の中の魔力にひたっていたら、すぐにノラが駆け寄ってきた。


 よく見れば、ゾンビ達は普通の死体に戻ったようで、全員地面に倒れ伏している。

 エルネの読みは当たっていたみたいだね。それじゃあ、戦闘自体も終了かな。



「ああ、こっちは問題ない。……ユリアとアイリスのおかげだな」


「ボクよりも、ユリアさんの頑張りですよ。ノラさん、褒めてあげてください」


「え……っ、わたしよりもアイリスさんの――」


「ふふ、二人共よく頑張ったわね。偉いわ……」



 優しい微笑みを浮かべたノラの手が、僕とユリアの頭を撫でる。


 頭を撫でられるのなんて、何時ぶりだろう?

 恥ずかしくはあるけど、それよりも気持ち良さの方が上回るこの感じ……うん、性感帯って最高だね。



「……ぅぅ、ノラ様恥ずかしいですよぉ~」


「それでは、これくらいにしておきますわ。それで……どうして、二人は抱き合っているのかしら?」



 ノラが言う通り、僕とユリアは戦闘中に抱き合った時からそのままだ。

 いや、正確に言うなら僕がユリアを抱きしめている、と言った方が正しいけどね。



「? ……あっ。も、もう大丈夫なので、離してくれてもいいん、ですよ?」


「でも、ユリアさん一人で立てますか?」


「も、もちろんですよっ。っっ……、うぅぅぅ……。

 ご、ごめんなさいぃ……腰が抜けちゃったみたいで、力が入らないですぅ……」



 体重をずっと預けたままだから、何となく分かってたよ。

 さて、昨日みたいに僕が寝床まで連れて行ってもいいけど、今日は……。



「では、ノラさん。ユリアさんの事は任せましたよ」


「え、ええ……分かりました、わ?」



 半ば無理矢理押し付けられて困惑気味のノラだったが、かなり消耗しているユリアの状態を把握して、しっかりエスコートしてくれる。



「……おまえも意外とお節介なやつだな」


「そうですか? そんなことも、ないと思いますよ」



 あの暖かな感触を手放すのは惜しいけど、彼女達にはいくところまでいって欲しいからね。

 ちょっとくらいは応援しないと。


 ……そして、最後には僕も混ぜてくれると嬉しいなぁ。

 男だったらダメだと思うけど、美少女なら……一人くらいは許してくれるよ、ね?



「まあいい、おまえも疲れただろう? 後始末は私達でやっておくから、一緒に休んでいいぞ」


「それは、ずっと弓で支援してたエルネさんも同じでしょ? 

 ……あちらのパーティは取り込み中ですし、お二人だけだと大変ですよ」



 主人公くん達は、何人かの死体を前にお通夜みたいな……というかお通夜だよね、あれは。

 聞いた事情から考えれば、ああなるのは当然だし、しばらくは動けなさそうだ。


 で、後始末……つまり、この無数に散らばる死体達を処理するのは、相当に骨が折れる作業だと思うけど……。



「……あいつらも冒険者だ。これが初めてではないだろう……。

 それに、商会の連中にも手伝わせるからな。二人だけではないさ」


「ああ、そういえばハーピーの時も、一緒に穴掘りしてましたものね。納得です」



 確かにそうだ。商人さん含め、全員で埋葬してたもんね。

 僕は見てただけだけど。



 さてと、これくらいでいいかな?

 途中、ふざけ過ぎたせいで落ちてしまった好感度も、今の気遣うふりで回復しただろうし、安心して寝られるね……でも、その前に。



「じゃあ、お休みの前に……撫でてあげましょうか?」


「はあ……?」


「頭を撫でられるのって、意外と気持ちいいですから。疲れも吹き飛ぶと思いますよ」



 サイズ差的に、とても撫で易そうな頭に手を伸ばす。

 ……が、あともうちょっと、というところで逃げられた。



「い、いらんわっ。おいっ、このバカやめろっ! ――ああ、もうっ。アホなことしてないで早く寝ろっ!!」


「えー、少しくらいいいじゃないですか~」



 撫でなれるのもいいけど、撫でる側にもなりたかったんだけどなぁ。

 ユリアに抱き着いても拒否されなかったことに味を占めたら、失敗しちゃったね。

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