現世の死霊 3
大量のゾンビが一時的に消え去ったことで、視界良好となった戦場には大きな斧を持った大男が立っていた。
鎧なんかの防具も装備してるし、見た目だけで判断するなら冒険者とか傭兵っぽい人だね。
「ロ、ロータルさん、そんなところにいたら危ない、ですよ……? ゾンビ達に襲われ――」
「ォォォオオオオオオッッ!!」
雄叫びを上げたゾンビが、その手にした斧を主人公くんへ振り下ろす。
そして、キィィィンという鋭い音が辺り一帯に響いた。
「――っく!! わ、分かってたけど、あの斧を防ぎ切るのは無茶だったね……」
「は、ハンナっ!?」
彼女は二本の細剣で斧の軌道を逸らしたが、二本のうち一本は弾き飛ばされ、もう一本も地面に刺して手首を抑えてる。
主人公くんを庇った時の反応はいい感じだったけど、ノーダメージとはいかなかったみたいだね。
「しっかりしなっ! あれはゾンビだ! ゾンビ、なんだよ……っ。
もう、どうしようもないことくらい、あんたも……分かってるだろ?」
「だ、だけど……あのロータルさんが死んだなんて、聞いてない……。
そ、そうだ。あの人達は確か、数日前にレーヴの街まで隊商護衛の依頼を受けてたはず……っ。
この人は別人じゃないかな? 顔はそっくりだけど、他人の空似ってことも……」
僅かな可能性という希望を見つけた彼だったが、そんな淡いものはすぐに砕かれてしまう。
「お、おいっ。あれはハイデさんじゃないか!?」
「あっちにいるのはマルコだぞ!?」
「……デリアさん? あれはデリアさん……なのか……?」
次々と上がる発見報告が、斧を持った人をロー……なんとかさんなのだと確定させたようで、主人公くんの顔に浮かぶ絶望の色はより濃くなったみたいだ。
……というかさ。え、誰なの? とりあえず名前だけ出てきたけど、冒険者っぽいゾンビだなってことくらいしか僕には分からないよ?
「ユリアさん、あの人達は誰なんですか?」
「え……? えっと、そうですよね。アイリスさんは、面識がなくても当然ですね。
ロータルさん、ハイデさん、マルコさん、デリアさん……あの方々は、Bランクの冒険者パーティなんです」
「知り合い……ですよね?」
「……はい。
ブルクハルトでは、ベテランパーティとして有名で、新人だった時にお世話になった方も多いんですよ。
わたし達は、そこまで交流があったわけではないのですが……カミルさん達は、特に親しくしていたと思います。
特に、パーティリーダーのラルフさんとは、年の離れた兄弟のようでした……」
ふむふむ。つまり、そんな家族みたいに思っていた人達が、いつの間にかゾンビになっていたわけだね。
いや、そのラルフ? とかいう人の名前は聞いてないか。……言ってなかったよね?
はぁ、ホント名前覚えるのって、メンドーだなぁ。
「ラ、ラルフさんは? ……いない? いない、よね!?
よ、よかったぁ……っ、あの人はきっと生きて――」
「い、言いにくいけどよ……アレ、じゃないか……?」
槍兵の人が指差す先にいるのは、全身が潰れたような、人と判別できるかどうかも怪しい物体だ。
足が動かないのか、地面を這いずるようにして動いているから、その移動速度は極端に遅い。
「あ、あれが……ラルフさん? バ、バカなことを言わないでくれっ!?」
「現実を見ろよっ!! あの革鎧は、ラルフさんの装備だろ!?
……お、俺だって認めたくはないけどよっ!
あの四人だってゾンビになってんだ……っ、そうとしか考えられねぇっっ!」
アレを見ろって……うわぁ、完全にグロ映像だよ……。
僕は直視したくないから、見る時は薄目にして……極力、視界に入れないようにしようー。
「ゴブリン、ですわね……」
「は、はぁ? ゴブリンって、まさか……」
「彼らを殺したのは、ゴブリンの仕業ですわ」
ノラが毅然とした態度でそう告げる。
「そんな……ラルフさん達が、ゴブリンごときに負けたって言うのかっ!?」
「ええ、他の人達を見たでしょ?
下半身などの体の低い部位が集中して狙われていますわ。
それに、こん棒のような殴打武器や、弓による傷跡……すべてゴブリンに襲われた際の特徴ですわ」
「だが、ラルフさんはどうなんだ!? あれは相当な力で潰されないとならないはずだっ!!」
「おそらく、ホブゴブリンですわね。
ホブは様々な亜種がいますが、パワー特化型のグリーンホブゴブリンであれば、おかしな事ではありませんわ」
ノラのゴブリン知識が爆発中だ。
そういえば、彼女はゴブリンに対して思うところがあるみたいだったね。
確かその話をしたのは、僕が転生した日のことで…………あれ? ホブゴブリンに殺された冒険者……?
少し前にそんな人がいたような……。
「アイリスさん……ラルフさん達にヒールを使って、解放してあげてはくれませんか?
このままでは、あまりにも可哀そうで……見ていられません……」
「そう――あ、そういえば、ゾンビを人に戻す魔法とかは、ないんですか?」
「……存在するのなら、わたしもそうしてあげたいです。
ですが、そのような魔法は
心優しいユリアは俯いてしまい、心底悲しそうだ。
ちなみに、そんな魔法は僕も使えないよ。
ま、直接戻すってことじゃなければ、いくつかやり様はあるけどね。
「そうですか。それでは」
「――待って、……魔法を使う相手は彼らじゃない。あっち」
さっきまで前衛が討ち漏らしたゾンビを狩っていたミアが、急に戻って来て指し示すもの。
それは……何というか、黒い
「お、おい。まさかとは思うが、あれは……」
「……ん、たぶんレイス」
「っ!? ゴーストではなく、レイスだとっ!?
……なるほどな。であれば、この馬鹿げた数のゾンビ共も頷ける」
エルネは一人で頷いてるけど、何が分かったんだろう?
僕には何も分からないんだけど……?
とか、暢気に話していると、僕達に気付いたからだろうか、レイスに変化があった。
今まではその後ろが見えるくらいの透明度だったのに、だんだんと濃くなり黒い穴のようになっていく。
また、それと同時に人の顔みたいなものまでが形作られていき、そして――
「カァァアアアネェェェエエエエエッッッ!!!」
――しゃべり出した。
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