交渉 3
「抵抗……どう見ても強そうには見えないけど、油断は禁物よね。
アイリス、いつものように魔法で――ってなに!?」
店長とのバトルが始まるところで、部屋の左右から十数人の武装した人間が登場した。
部屋に入った時は、左右の壁に扉なんて存在しなかったはずなのに……隠し扉とはねぇ。
商会って、そんな面白い仕掛けがあるものなの?
「ふふふ、あなた方は乱暴なところがあると噂を耳にしましてね。
それに見合った人員を手配させていただきました。ああ、先に注意をしておきますが、
こちらをあなた方の倒された、ただのゴロツキ連中と同様に考えては、大怪我をされますよ?」
「……こ、こうなったらまずはあんたを捕まえて……っ」
「おっと、依頼人に手を出されると俺達としても困るんだわ。
――<バインド>。嬢ちゃんたちに恨みはないが、少し大人しくしててくれよ?」
部屋に入ってきた内の1人である黒いローブ姿の男が魔法を唱えると、カルラとアンジェは体が縛られたような姿勢で床に転がってしまった。
おお、まずは僕もよく使うバインドの魔法だ。
拘束魔法って地味な感じもするけど、使い勝手がいいんだよねー。
「アンジェっ、う、動ける? ぐぬっ、あたしは無理……」
「うーーんっ! ……だ、ダメ……わたしも無理そう……」
2人は魔法を解除することも難しいようで、完全に身動きを封じられている。
それに対して、僕は魔法の影響を何も受けていないみたいだ。
とはいっても、黒ローブの男が僕だけを魔法の対象外としたわけではない。
なぜなら……。
ログウィンドウ
<バインド>をレジストしました。
しっかりとログウィンドウには、魔法の対象にされたことが表示されているんだよね。
ちなみに、レジストというのは魔法の抵抗? 防御? ……まぁそんな感じのに成功したという意味だ。
耐性系のスキルは基本的に、このレジストに必要な能力値を上げる効果がある、って様々なスキルが教えてくれた。
今回はたぶん<行動阻害耐性>とかいうパッシブ系のスキルが関係してるんだろうね。
「ほぅ、魔術師がいるとは聞いていたが、俺の魔法がレジストされるとはな。
まさか、素で……? ありえねぇか。
おい、そこの女を囲め。装備には注意しろよ? 何かしら隠し持ってやがるぞ」
「アイリスっ、こんなやつらに遠慮することないわ! 全力でやってやりなさいっ!!」
イモムシみたいに転がったカルラから応援の言葉が飛んでくる。
セリフに微妙な悪役感があるような……まあいいか、それじゃあ反撃しようかな。
「<パラライズ>。えーと……どうやら、そちらはレジスト出来なかったみたいですね?」
僕が魔法を唱えると、店長を除いた全員が倒れ伏せた。
「なんだこれは!? お前たちな、何を暢気に寝ている! 起きないか!!」
「無駄だと思いますよ? 全員麻痺状態になってますからね」
「……くっ、おいっ、緊急事態だ! 部屋に入れ!!」
「無駄だって言ったじゃないですか。18人、ですよね?
部屋の外に待機していた人達も含めて魔法を使いましたから、たぶんうめき声くらいしか出せませんよ」
交渉中ずっと余裕の表情を崩さなかった店長が、初めて愕然とした表情を見せた。
生命反応で部屋の外にも人がいるのは分かっていたからね。
試しにそっちもパラライズの対象にしてみたんだけど、効果があったようだ。
魔法の効果範囲には壁とか関係ないんだね。
おそらく出来るんじゃないかなぁ、と思ってやったら大成功だ。
「は? 馬鹿なことを言うなっ!? 腕利きの傭兵共だぞ!!
お前のような小娘にやられるわけが……っ、ほ、ほらっ、すぐに起きるんだっ!!」
「そう思うのは勝手ですけどね……。
とりあえず交渉? いえ、商談でしたか? の続きをしましょうか」
麻痺して何もできない人間に、話しかける姿を眺めているのも暇だからと、つい交渉の続きなんて提案してしまった。
でもこれ、話の流れ的に僕が交渉役をやることになるのかな?
今までは2人に任せてたから、初めて何だけど……。
とりあえず、もう暴力とかもOKな感じだし、ダガーを装備しておくか。
「ひっ!? や、やめろ!! なぜ、このタイミングでそんなものを持つ必要がある!? 交渉じゃないのかっ!?
おいっ! お前達すぐに起きて私を守るんだっ!!
こういう時のために高い金を払っているんだぞ!!?」
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ?
痛いのは初めの一瞬だけで、すぐに何も感じなくなりますから……ね?」
さすがにカルラのように急所を狙うのはかわいそう、というか僕がやったら潰しちゃいそうだから、程々に痛めつける感じなのかな?
でもそれって初心者には難しいから、勢い余って殺しちゃったぁ、なんてことがあってもおかしくはないよね?
「何の話だっ!? く、来るなっ! やめろ! や、やめてくれぇ…………そうだっ!!
――こんなことをして、どうなるか分かっているのか?
私は伯爵様とも太いパイプを持っているんだ! 私に危害を加えれば、お前もただでは済まんぞっ!!」
「伯爵、様? はぁ、そうなんですか……」
「作り話だと高を括っているのか……っ。う、嘘ではないっ!
なぜなら、あのダークエルフを購入された御方こそ、そのレーヴ伯爵様なのだからなっ!!」
伯爵って、たしか貴族の……偉い人だっけ?
うーん、伯爵というか貴族ってどんな存在なんだろう? イマイチぴんと来ないや。
そもそも商会で暴力行為に出ている時点で、後のことなんてもう諦めてるからどうでもいいんだけどね。
「伯爵様ですか、それはすごいですね~。
それじゃあ、今からこのダガーをあなたに振り下ろすので、その伯爵様が守ってくれるかどうか、試してみましょうか?」
「!? ふ、ふざけているのかっ!?
お前は人間だろっ! そこのエルフ共ならともかく、伯爵様にかかればお前のような小娘がどうなるかなど、少し考えれば分かるはずだっ!!」
「へぇ~、そうなんですか。でも、お話はそろそろ終わりにして……」
「――アイリスさんっ、待ってください!!」
店長の言葉に顕著な反応を示したのは、僕ではなくアンジェだった。
どうしたんだろう?
こんないいところで止めるなんて……もしかして、伯爵とかいうお偉いさんが関わっていることを知って怖くなったのかな?
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