親友探し 8
ラドミラという拉致られ系ダークエルフの捜索活動は4日目に突入した。
この3日間は未調査の奴隷市場を回ったり、またチンピラに襲われたり、逆に彼らのアジトを襲撃したり、何となくそれっぽい人達を襲ったり、という感じで様々な場所を巡ったが、全く手掛かりらしい情報は見つからなかった。
そんなこんなで「そろそろやり方を変えようかなぁ」とか考えながら、今もまたチンピラのアジトを襲撃している。
「お、お前たち何でここにいるんだよ!? クソッ、あんな仕事受けるんじゃなかったぜっ……。
あの時は俺が悪かった!! 俺も反省してるんだ……」
「あの時……? 何を言って――いえ、待って。その黒髪には見覚えが…………あ、思い出したわ!
あなた初日に襲ってきたやつらの1人じゃないっ!!」
カルラが問い詰めている男は、いつものように魔法的に拘束してイモムシみたいに床へ転がしている。
その男の特徴は、黒髪ロン毛で全体的に軽薄そうな見た目、それに歳は20代前半くらいといった感じだろうか。
初日に襲ってきた人? ……あまり記憶にないなぁ。
でも、彼女がそう言ってるんだし、そういうこともあったんだろうね。
「あなたのせいで無駄に色んな場所を調べることになったのよ!
ほら、言いなさいっ! あたし達を襲わせた黒幕はどこにいるの!!」
「だ、旦那の居場所は教えるし、もちろん今度は嘘じゃねぇ!!
……だから、ホントのことを話したら、俺は許してくれよぉ」
「本当に、今回は嘘じゃないんでしょうね?
いえその前に、1度嘘をつかれたのだから、2度目がないようお仕置きは必要かしら……」
カルラが足を後ろへ振り上げるモーションをすると、黒髪ロン毛の顔色が変わった。
「!!?? それだけはやめてくれっ!? 今回は本当だって言ってんだろっ!!
――あの日から勃たなくなった俺の悲しみが、お前に分かるのかよっ!?」
「っ!」「!?」
なんとも悲痛な叫びを聞いてしまった……。
確証は何もないけど、今回は本当の話だと信じてもいいと思う。
「は? 立たないって、何を言ってるのよ。
あたし達がここに来たときは、立つどころか普通に歩いてたでしょ?」
「か、カルラちゃん! まずは話を聞いてみようよ? ……ね?
嘘かどうかは、話を聞いてから考えてもいいんじゃない?」
カルラは黒髪ロン毛の言葉の意味がよく分かっていないようだ。
彼女に伝わらないのは……まぁ、当然かもしれないね。
「ふぅ、まったく危険な女だぜ。それじゃあ、話すぞ? 旦那の居場所は……」
そういって彼が話した場所は、たしかに僕達が探してきたところとは毛色の異なる場所だった。
やっと期待できそうな情報が手に入ったのかな。
毎回空振り続きの捜索活動には、さすがに飽きてきてたから助かるね。
「……それは本当の話なのね?」
「ああ、本当だ。信じてくれとしか言えねぇが、あんた達を襲ったのはそこの一番偉いヤツに依頼されてやったことだ」
「ふ~ん、まあ信じてあげるわ。……それじゃあ最後に、正直に話してくれた"ご褒美"を上げないとね?」
「はっ? "ご褒美"だ? そんなもんいらねぇ、っておまっ、やめっ!?
――ぐぅっっ!! お゛お゛ぉぅぅぅっっ……はなしてやったのに、よぅ……っ、…………」
すべてを話し終えた黒髪ロン毛に待っていたのは、前回と同じく急所を的確に狙った蹴りだった。
……本当に容赦ない。さすがに今回は同情しちゃうよ。
***
2度目となる黒髪ロン毛紹介の場所には、石造りの大きな建物がたっていた。
正面に『ルンプ商会』という看板が掲げられた建物の外観は、重厚感のあるものでその大きさも相まってプレッシャーのようなものを感じさせる。
しかも敷地も相当に広く、マップウィンドウには中庭みたいな空間まで表示されている。
たぶん、この世界に来て一番豪華な場所に来てしまった。
最近は裏通りとか、どちらかといえばダークサイドなところばかりだったから、こういう真面目そうな建物に入るのは気が引けるなぁ。
大体入り口にいる、あの守衛みたいな人は僕達を通してくれるのだろうか?
「こ、ここがそうよね? 本当かしら……もしかしてまた騙されたんじゃ……」
「うん……わたしも少し不安。
でも、ラドミラちゃんをこんな遠くまで連れて来ることができるなら、むしろこういった場所に犯人がいるのは自然なのかも」
「なるほどねぇ、そういう考え方もできるわよね。
じゃあ、ここで眺めていても始まらないし、突撃してみましょうか!」
口では威勢の良いことを言っている彼女だが、さすがに気が引けているみたいで、エルフ耳が周りから見えるようフードを脱いで入口に近づいていく。
そのおかげなのかは分からないが、入り口で止められることもなく建物の中に入ることはできた。
「へぇー、これはなかなか……豪華だねぇ」
外観だけ立派ということはなく、高そうな置物やふかふかな絨毯が敷かれているなど内装も豪華だ。
また、ただ豪華というわけでもなく、ソファーやテーブルなどが設置された商談スペースもあり、ここが商会としての実用性も兼ね備えていることが確認できる。
「あそこがカウンターみたいね。まずはそこで聞いてみるのがいいかしら?」
彼女の言う通り正面奥にはカウンターがあり、その中には店員らしき人物も待機している。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「奴隷を探してるわ。それも、少し特殊な子を……ね」
「特殊な奴隷ですか? 申し訳ありません。そのようなものは取り扱って――」
「そちらについては、当店の店長からご案内しましょう」
突然、横から若い男が話に割り込んできた。
見た目の特徴は10代後半くらいで金髪、それに少し日焼けした肌くらいだろうか。
ここまでなら大した特徴のない男だが、身に着けている衣服や装飾品はこの豪華な店内にいる人間と見比べても遜色ない……というかそれらよりも上等であることが、僕のような素人目にも分かる。
「あなたは……?」
「失礼しました。私は副店長をしておりますコンラート・ルンプと申します。
皆様がお探しの商品ですが、少々込み入った事情もあり店長から直接ご説明させていただきます。
どうぞ、こちらへ」
副店長と名乗る男は店の奥へと続く通路を示してくる。
言葉は丁寧だけど、要するについて来いってことか。
意味深な人物からの意味深なセリフ……となったら、今回は当たりの可能性が高そうだ。
「……わかったわ。2人もそれでいいわよね?」
「もちろん」「うん」
さて、交渉事は彼女達に任せることにして、僕は2人の後ろでのんびり見学することにしようかな。
もしかしたら、僕の仕事はその後に待っているのかもしれないからさ。
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