24 選抜

 開封した紙を、松浦代表は読み上げた。


「この度、文部科学省並びに外務省の省庁横断プロジェクト『クールジャパンプロジェクト』の一環として、来月のクリスマスシーズンにフランス・パリにて開催される、クールジャパンイベント・ジャパンエキシビションに、日本を代表する若者文化・スクールバンドの選抜メンバーを決勝進出グループ8グループから選抜し、エッフェル塔会場にてライブを開催する運びとなりました」


 一瞬、会場は静まった。


 しかし次の瞬時にはことの重大性をオーディエンスが理解したようで、大歓声が上がったのである。


「そこで決勝進出の8グループのみなさんと、会場のファンのみなさんを始め、全国のスクールバンドファンの皆さんにお願いがあります」


 松浦代表は一呼吸置いた。


「メンバーはスクバンのルールの最大人数である9人を予定しており、8人はそれぞれ各学校から一人推薦、残りの一人は投票で8グループ内から一人選出を考えております」


 と松浦代表は述べた。





 つまり。


 選抜メンバーと投票メンバーの9人編成でドリームバンドを組み、海外ライブをする──ということらしいのである。


 これにはステージ上にいた全員がどよめき、やがてそれは騒然とざわつくこととなった。


 そこで。


 人気投票で1位を獲得した茅ヶ崎商業の児玉可奈子がおそらく投票での選出メンバーとなるのは確実視されていたので、残る8枠の選抜がどうなるか──というところが、全チームの問題となるところであった。


 控室に戻ると、


「何か凄いことになったね…」


 宥は舞台袖で聞いていたが、あらためて大変なことになったのを感じ取っていた。


「宥ちゃん…どうする?」


 普通ならリーダーが出るか、ボーカルの江梨加あたりを出すのが一般的であろう。


「でも投票でうちから行ってるのはカンナちゃんなんよね」


 人気投票のランキングには3位に清家カンナ、12位に能勢江梨加の2人が入っているが、ランキングは他校はボーカルに偏っていて、上位8人にベースが一人もいないのも気がかりではある。





 ランキングがプリントされた紙を前に、


「確かランキングの中では、弘道館の江藤ひなたちゃんがベースできるはずやけど…」


 桜花の情報では弘道館大学高校のキャプテン・江藤ひなたが本来はギターながらベースも弾けるらしい。


「私聞いてみる」


 宥は弘道館のパーティションに行くと江藤ひなたをつかまえ、


「突然悪いんやけど、江藤さんってベース弾ける?」


 もしダメならうちからベース出すけど──宥はヤマをはってみた。


 江藤ひなたは、


「大丈夫、私ベース出来るから」


 敢えて弘道館はベーシストを出すことで、確実に選出をスムーズにするつもりであったようである。


「鳳翔さんは、出来るならトランペットかビオラを出してほしい」


 他のバンドで管楽器は何人かいるが、弦楽器はビオラの薫子と、バイオリン経験のある秋田学院のあずまルカだけである。





 そこへ。


「誰を出せるか決まった?」


 姫路第一の神崎せつ菜が声をかけてきた。


「取り敢えずうちはベースが手薄になるだろうってことで、江藤が出ます」


 せつ菜の隣にいたのは弘道館のリーダー・藤丸かすみであった。


「こっちは楽器がかぶらないように、サックスの星野真凛を出すことにした」


 そこで神崎せつ菜は、


「うーん…鳳翔さんからは、出来れば海士部薫子ちゃんか、それが無理なら清家さんを出して欲しいのがうちの希望かな」


 ギタリストとしては総合ランキング最高の3位に位置するカンナを出してもらうと助かる、というのである。


「うちは私が行くことになりそう」


 姫路第一はリードボーカルでキーボードの弾ける神崎せつ菜を選んだようであった。





 30分ほど過ぎて、おおかたの選抜メンバーが固まってきた。


  弘前第一・神崎アリス〈ギター〉

  秋田学院・東ルカ〈バイオリン〉

  茅ヶ崎商業・楠かれん〈ギターボーカル〉

  姫路第一・神崎せつ菜〈キーボード〉

  八重垣・星野真凛〈サックス〉

  浦戸ヶ崎・白澤翼〈ドラムボーカル〉

  弘道館・江藤ひなた〈ベース〉


 この段階で決まっていないのは鳳翔女学院だけとなり、貴子は、


「いちばん場数を踏んでるから、うちでは江梨加を出すことにしようと思う」


 貴子は江梨加を指名したが、当の江梨加は、


「うちはカンナ先輩がええと思う」


 なぜならカンナは英語ができる──通訳の役割も考えるとカンナが妥当だ…というのである。


「でも…」


「うちは路上ライブでお金貯まったら海外なんかナンボでも行けるけど、カンナ先輩には違う役目もある」


 江梨加はカンナが見た目からカバンを隠されたり、教科書をゴミ箱に捨てられたりしていたり…と、差別を受けていたことを度々見知っており、


「カンナ先輩が行けば、そんな言動はなくなる」


 それは鳳翔女学院だけの問題ではない──江梨加は言う。


「江梨加ちゃん…」


 カンナは江梨加が、思ったより深く考えていたことに驚きながらも、感謝をしているところもあった。


「せやからうちは、カンナ先輩に行って欲しい」


 江梨加は言い切ると、それ以上は何も言わなかった。





 貴子と宥は神崎せつ菜と白澤翼にカンナを出す旨で諮ってみると、


「むしろカンナさんがええと思う」


 白澤翼は述べた。


「それで…鳳翔さんには、篠藤部長を帯同させて欲しいんやけど、それは無理がかえ?」


 白澤翼いわく、決勝進出のWest Camp以外の全てのバンドから、宥を連れてきて欲しい──という要望が出ているというのである。


「でも…私はあくまでマネージャーやし」


「海外に行くからには、しっかりしたマネージャーさんに来てもらわないと、我々メンバーは集中してパフォーマンス出来ない」


 神崎せつ菜は言った。


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