十二話目
私はろくに眠れない夜を更かしていた。すると扉がノックされた。こんな時間になんだろう。そう思い扉を開けると少し怖い目が髪で隠れている男がいた。
「こんな時間に悪いな。話がある。」
その声は冷たく殺意があるような低い声だった。私は男についていった。
連れてこられたのは風通しの良い屋上だった。男は私を見るなり「俺はヴィラ。」と名乗った。そしてすぐさま話を始めた。
「お前元スパイだろ?」
「え…。」
私は驚いた。本当に昔、騙された兵器研究所からの命令で行ったスパイのことだろう。私すらも忘れかけていた話。しかし彼は驚くほど私を攻めていた。
「またそういう関係で入ったのか?」
私は察した。彼は今、この戦争が起こった理由は私のスパイ活動のせいではないかと言っている。私は身震いをしながら言った。
「そんなことありません!」
「そんなの信じられねーわ。…うちの総統何かと馬鹿ですぐ軍に入れる奴だけどまさかスパイを入れるなんて少し幻滅したわ。なぁ、どうしたいん?ここの軍に入って何がしたいん?スパイじゃなかったとしても何がしたいん?」
私は彼の質問にすぐ答えることができなかった。
「私は…。」
私は総統様に拾われた身。沢山の物を恵んで頂き、私に選択肢を与えてくれた。ダニイルだって私にここから出ていくという選択肢を与えてくれた。そんな選択肢に答えたのは私自身。別に戦争を軽く見ていた訳ではないし、かと言って戦争を称賛していた訳でもない。私はただ、皆の期待に答えたかっただけだ。皆優しくしてくれて家族みたいに優しくしてくれて話してくれて笑ってくれて私は恩返しがしたかった。だから私は彼らの役に立ちたい。
「私は優しい皆さんに恩返しがしたいだけです。役に立ちたいだけなんです。…足を引っ張っていたなら申し訳ありません。でもどうかもう少し居場所をください。」
私は彼に謝った。黙っている彼に。顔が見えないせいで何を考えているのかわからないが私は彼を見つめた。
「…あっそ。なら好きにしろよ。でも俺はお前を認めた訳じゃないから。」
ヴィラはそれだけ言うとその場を離れた。
戦争が始まり仕事が明らかに増えた書記官のエドワードを手伝う俺ニコライ。溜め息と気合でようやく終わった十分の一の書類を総統であるアレクサンドルに渡しに行く。アレクサンドルは明らかに楽しんでいた。この状況を。これだから戦争家は。そう呆れつつ触れずに書類を渡す。そして俺は呟くようにしてアレクサンドルに伝えた。
「本当アンタって悪趣味だな。」
「いや、俺としてはこの趣味の良さがわからないのが残念だね。」
どこか余裕気にそう言うアレクサンドル。「総統なんだから俺って言うな。」と注意しながら書類をまとめた。
「俺いや私が言いたいのは
戦争が好きで戦争を起こすより、戦争を軽く見て戦争を批難するくせに戦争を止めない方が悪い。
ということだよ。」
本当の黒幕はどっちだよ。俺は溜め息を再びつきながら散らかった机に書類を置いた。
「そんな屁理屈ばっか言ってんなよ。」
俺がそう言うとアレクサンドルは笑った。そして俺に言った。
「昔みたいにチェスやらないか?」
「どこにそんな時間が残ってんだよ。それにアンタじゃ俺に勝てないだろ?この脳筋。」
少し煽ってやると期待通りの反応をした。嘲笑うかのように高笑いをする。そして愉しさで上がる口角。見開かれる瞳孔。
「それはどうかな?このザコが。」
本当アンタって人は戦争になると人が変わるな。俺は笑いながらアレクサンドルを見た。
「義足、もうすぐだから安心しろ。」
アレクサンドルはそう言うと笑った。だから俺も笑った。
「安心も何も不安なんてねーわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます