十一話目 

 衝撃な事実を耳にした俺ビルはアディーレを探して歩いた。すると二階の裏バルコニーにダニイルさんがいるのを発見した。綺麗な金髪と輝かしい笑顔。こんな優しい笑顔を見たのは初めてだったかもしれない。そこへ脚を進めるとアディーレがいるのに気が付いた。

「アディーレちゃん?」

 呟くように言うとダニイルが俺を見た。

「アディーレ迎えだぞ。」

 そう言ってダニイルから顔を出したのは泣いているアディーレだった。俺は戸惑いと怒りを感じた。無言でアディーレに近づいて手を引いた。そしてダニイルを睨んだ。

「何してたんですか?」

「いいや〜何も。」

 ダニイルは素っ気なくそう言うと煙草を指で潰した。くったりした煙草はダニイルの手の中で丸め込まれた。

 アディーレは俺を見上げると何か訴えるように見つめた。

「じゃあまたな。アディーレ。」

 ダニイルが優しく笑ってアディーレに手を振っているのはあまりよく思えなかった。しかしアディーレが余りにも嬉しそうに手を振ってたため特に何も言えなかった。




 俺はそれからアディーレにニコライとの関係について聞いた。アディーレは余りにも楽しそうに思い出話をするものだからこちらまで嬉しくなった。

 アディーレを部屋まで送り自分の部屋に戻ろうとしていた。すると総統とニコライの声がした。

「どうしたものか…。」

「前まで弱かったのに。」

「まさか革命を起こすとは。」

 



「こんな状況で宣戦布告を受けるなんて。」




 ドラジエントは今頃何をしているのだろう。心のどこかでもうこの世界で生きていない気がした。しかし真実を知らない限り私は信じることしか出来なかった。すると扉をノックされた。それと同時にヴァニラさんにもらったインカムから報告が来た。



『只今緊急会議が開かれます。直ちに第一会議室にお越し下さい。』



 よく響く放送部隊員の声。ドクドクとなる心臓。嫌な予感しかしない。戦慄とした空気と冷や汗。私は扉を開けた。そこには汗をかいている焦っているビルがいた。



 『第一会議室』の中では大勢の人と幹部が集まっていた。その真ん中の活き活きしている総統様がいた。周りはざわついていた。私とビルも同じだった。

「気づいていると思うが宣戦布告を受けた。しかもC連邦国の革命後確立したC社会主義連邦国からだ。」

 総統様の言葉は実に信じ難かった。ビルは歯を食いしばるだけだった。

「いつ攻撃してくるかわからない。だから皆常に警戒するように。以上。質問などは受け付ける。解散。」

 総統様の言葉を聞いてから私は放心状態だった。なんだか実感がわかなくて力が入らなかった。そこでダニイルの言葉を思い出した。後悔。私は身震いをしてビルを見た。ビルは悲しそうに目を細めて私を見つめ返すとニコッと笑った。

「よーし頑張ってくでー?」

 そう言って自室まで戻った。私は総統様に呼び出された。




 「どうかなさりました?総統様。」

 総統様にそう言うと私に笑い返した。

「ドラジエントを発見した。」

「……え?」

 ドラジエントを発見した?嘘にしか聞こえない言葉を脳で何度も再生しながら総統様を見つめた。

「だから直ちに連行し、戦争に急ぐ。」

「アディーレ、何かあれば俺に言って。脚はなくてもできることはあるから。」

 そう言う優しいニコライの言葉さえもまともに頭に入らなくて辛かった。暫くニコライの慰めの言葉を聞きながら立ち尽くした。

 総統室を出るとすぐにダニイルがいた。

「なんだ、逃げなかったんだ。言っとくけどもう戦争は始まってるから。お前も戦う準備しとけよ?」

 冷たいがなんだかんだ優しいダニイルの言葉で現実を受け入れた。するとポロポロ涙が溢れていた。本当にこんなことが起きるなんて考えてもみなかった。するとダニイルが大笑いしながらぽんぽん頭を撫でてきた。

「本当、お前泣き虫だな。そんなんじゃ、戦争で大切な人を失ったら生きてけねーぞ?」

 その言葉は正論だった。でも私は悲しくてそれどころじゃなかった。だから暫く夜の月明かりに溶かされていた。



 

 外でもテレビでもラジオでもサイレンの音と無機質な女性の「只今、C社会主義連邦国元C連邦国に、宣戦布告を受けました。」と言う言葉が響き渡った。

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