十話目 

 俺ビルはアディーレからもらった情報を監視班のヴァニラさんに伝えに行った。情報管理部隊は情報をまとめ考察したり、皆に伝えたり時には情報収集を行う。しかし手掛かりが少ない場合ハッキングなどにも手を入れている監視班に任せることがある。

 『監視班第一室』と書いてある鉄の扉をノックした。そして遠慮なく扉を開けるとヴァニラさんと暗殺者ヴィラ・ウルフィーさんがいた。ヴィラさんは特殊暗殺部隊の隊長。しかし驚くほどの気分屋でサイコパス。殺戮兵器さつりくマシーンの異名を持つ程の男だ。相変わらず顔が見えない程伸び切った髪から覗く赤い目が怖い。

「失礼致します。ハッキングの依頼がしたくて。」

 するとズカズカと歩いてヴィラさんが近づいてきた。え、なんや怖…。 

 思わず後ずさる。すると腕を掴まれた。え、えーー!!なんやなんやホンマ怖い!!

 顔を物凄く近くに近づけた。

「ビルお前、アディーレの教育係なんだろ?少し手伝え。」

 えーー!!!???




 そう言って連れてこられたのは暗殺専用野外訓練場だった。暗い森のような訓練場。あまり俺は来ることがない。はじめの試験以来。そして何も言わず鼻歌を歌いながら石をブーツでかつっと蹴る。ホンマ、何なんや。恐る恐るヴィラさんを見るとバッチリ目が合った。すぐ逸らす。怖すぎやろ…。冷や汗のせいで服が体にくっつき、髪が顔にへばりつく。体も熱くなってきた。

「アディーレちゃんのことなんだけど。」

「は、はい!!!」

 突然喋り出し驚いた。

「元スパイじゃんか。」

 



 私はビルと一緒に基地を回ろうと思っていたのだがいなかったので仕方なく部屋に戻ろうとしていた。大きな体を持つ男の人が次々すれちがう。それにドキドキしながら歩いていると一人の男が立ち止まった。

「んお?」

 そこにいたのはブロンド髪の短髪、蒼い瞳が冷たく私を見下す男だった。恐ろしい程私を見下して冷たく蒼い瞳が照らしていた。間違いなく私を見ていて体が動かなかった。

「お前が噂の…。」

 すると強い力の大きな手が私の細い腕を掴んだ。その迫力に泣きそうになったが驚きのせいでそれどころでは無かった。

「ちょっと来い。」

 そう言って私は男に連れてかれた。



 『特殊特攻部隊室』と書かれたプレートのある鉄の扉を乱暴に開けるとそこには煙草を吸っている紫パーカーの男とブロンド髪の緑目の男がいた。扉が開くやすぐに私とこの男を見た。

「ぶ、部隊長様!!!???」

 ブロンド髪の緑目男がそう声を上げた。私を連れてきた男は私を。椅子に座らせるなり言った。

「なんか面倒事に首を突っ込んだらしいな。うちの馬鹿総統が。」

 男は紅茶を私の前に置いた。

「お前、一体何なん?」

 冷たくそう言い放った。私はドキリと心臓がなるのを感じると黙ってしまった。

「答えられないんか?」

 私は答えなければと焦りながら心臓の鼓動に苦しんだ。

「私は、そ、総統様に助けて頂いた者です。」

「あっそ。」

 聞いておきながら冷たい返事をする男。

「俺は特攻部隊長のダニイル・マックス。」

「僕はカトリック・キャッターです。」

「スパロー・トニックだ。」

 次々に自己紹介をしていく。ダニイルは冷たい瞳を窓の外に送った。覗き込むようにしてその瞳を捉えると一瞬目が合った。でもすぐにそらされてしまった。

「何なん?」

「あっ、いや…。」

 するとカトリックがダニイルを嘲笑しながら言った。

「ほんっとアンタって人は冷たいし言葉っ足らずですね〜!」

「うるせっ。後輩の癖に生意気な。」

「アハハハ慣れてください。」

 先輩相手にぐんぐん煽る男だ。そう思った。しかしあまり怒っている様子を見せなかったので仲が良いのだと伝わった。

「……呼び出して悪かったな。話しておきたいことがあってな。」

 さっきとは違う、敵意識とかそういう冷たい感情ではなく何か警告しようとしているような落ち着いた声で言った。

「さっさとここを出ていけ。」

 

 ……は?


「此処はお前みたいな、本気で軍隊なんかになりたくない奴がいるような所じゃない。今しかない。さっさとここを出ていけ。」

 そう言うとダニイルは立ち上がり部屋を出ていってしまった。警告だけされて唖然としている私に追いかける余裕は無くダニイルの消えた扉を見つめた。私は彼にとって邪魔だっただろうか?皆にとって邪魔だっただろうか?そう思うと体が動かなかった。そばでカトリックが「あちゃ~。」と言っているのが聞こえる。

「あんま気にしなくていいですよ。アディーレさん。先輩はああいう人ですから。先輩は貴方に後悔してほしくないだけですから。」

「え…。後悔?」

「そうです。先輩は仲の良かった同期が戦争で亡くなってしまったんです。だから、貴方みたいな弱い少女に同じ思いをさせたくないだけだと思いますよ?」

 彼が言った事が本当なら私はダニイルに謝らなくてはならない。ダニイルにあの苦しみを再び思い出させてしまったのだから。私は彼を追いかけて部屋を出た。




 彼がいたのは二階の裏バルコニーだった。赤い紫の空に照らされて煙草をふかすダニイル。私は恐る恐る近づき、声をかけて良いか迷っていた。すると風になびかれながらダニイルはこっちを冷たい目で見た。バルコニーの鉄格子に肘をつき煙草を加えたりしていた。

「どうかした?」

「その…すみませんでした。」

 私がそう言うと彼は不思議そうに首を。かしげながら眉を上げた。

「何が?」

「貴方の暗い過去を掘り返してしまいごめんなさい!!」

 すると彼は一度私を睨むように見るとアッハハハ!!と大声で笑った。

「そうか、そうかKCに聞いたんだな?そうだよ。俺の友人は死んだ。すっごく面白い奴で馬鹿でお調子者だった。あいつはどこか皆と違っててなんか、ずっとそばにいそうだなーなんて思ってた。あいつなら死なないだろとか勝手に思ってたけどやっぱ人間だから普通に死んだ。苦しそうに笑ってな。俺、驚き過ぎてあんま泣けなかったんだよ。なんか、まだどこからともなくひょっこり現れてまた馬鹿みたいなこと言ってきそうだななんて。でも、どんなに時が経ってもあいつは帰ってこないからやっぱ死んだんだなーって思った。そしたら無性に悲しくてもっとあれやこれややっときゃよかったなって思い始めてさ。なんか、凄く苦しいんだよ。俺、今さ。だから、お前にはそんな思い、してほしくねーんだわ。余計なお世話かもだけどさっさとここを出てけ。言葉足らずで悪かったな。」

 そう言うと大きな手でがさつに私の頭を撫でてくれた。本当、ここにいる人はどこまで優しい人なんだろう。ダニイルのやんちゃな笑顔を初めて見て私は涙を流した。

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