九話目
ニコライの行動はまるでおかしかった。廊下を徘徊したり、書類を漁ったり、野外訓練場に訪れては剣を振るう。前はこんなこと無かったのに。自覚していないのかもしれないが彼は相当参っている。自分の状況を苦しんでいる。
彼を俺は呼び出した。
「どうした?アレクサンドル。」
彼は昔と変わらない様子で俺の名前を呼んだ。
「お前に話をしようと思ってな。」
俺はそう言って冷蔵庫からケーキの箱を出した。紅茶を淹れて、机の書類を端に寄せティーカップとケーキを置いた。ニコライは驚いていた。タプタプと甘い香りのダージリンティーを淹れる。
「な、なんだ?俺を書類サボりの共犯にしようとしてる?」
不審そうにニコライは伺った。俺は声を上げて子供みたいに笑いながら言った。
「そんなんじゃないさ。ただ時には休憩も必要だろう?」
「アンタいつも休んでるくせに?」
「う、煩いなぁ…!」
俺がそう言うとやはり真面目なニコライは乗り気ではないようだ。少し残念に思う。と思ったらニコライが笑いだした。
「アンタって人は。全く。たまには休んでもいいかなー!」
そう言いながら豪快に笑う。まるでニコライじゃないように見えた。俺はニコライを見つめるとニコライは笑って俺を見た。
「ここのケーキうまいよな〜。」
「あぁ、どこのケーキよりも格別だ。」
「で?どんな話がしたいわけ?」
いきなりさっきまでの楽しそうな声と裏腹に冷たく悲しそうに言った。わかっててあんな素振りをしていたのか。
「……どうしてアディーレを連れてきたか。」
「おぉ、そいつは気になりますなぁ〜。」
これが本題じゃないと気づいているようだ。素っ気なくそう言った。
「理由は簡単だ。情報が欲しかったからだ。それに、あいつは科学力に特化している。」
「そうなんだ?」
科学力に特化していることは知らなかったようだ。ニコライは美しい手付きでケーキを切り離し口に入れた。
「……その情報ってのが義足を作れる機械技師についてだ。」
「………俺のため?」
ニコライは特になんの反応を起こさずそう言った。視線はケーキに向けられてる。
「そうだ。それに、武器などの量産型を目差そうかと思い。」
「そうだったんだ。」
ニコライは俺を見ず紅茶を飲んだ。俺もやけに乾いてしまった喉をうるわすように紅茶を飲んだ。
「お前は、どうしたい?」
「……俺は、まだ戦いたいよ。あ、アンタのとな、隣で…。」
途切れ途切れにそう言うニコライは泣いていた。体を震わせて目から涙が溢れていた。久しぶりに見た。こんな弱い姿、俺の前では特に幼いとき以来全く見せなかった。どんな辛いことがあっても。久しぶりに見たその姿に体が震えた。
「義足、どうする?」
「まだ戦えるってんなら義足がほしい…!」
それから暫く時を忘れて、苦しみを忘れて思い出をふかしながらティーパーティーを楽しんだ。
ティーパーティーの後、俺は車椅子を動かしてアディーレに会いに行った。彼女は相変わらず眩しい笑顔で俺を迎えてくれた。
「どうかしたの?ニコライ!」
「本当にアディーレなんだよな?」
俺は信じるように目で問いかけながらアディーレを見つめていた。アディーレは笑った。
「うん。そうだよ!」
その途端俺はニコライに抱きついた。その華奢な小さな体を抱きしめた。体中に伝わる体温。涙が溢れそうだった。
「に、ニコライ??どうしたの。」
俺は少し恥ずかしくなり体を離した。そしてアディーレを少しばかりからかってやった。
「子供体温。」
そう言いながら笑うとアディーレは顔を真っ赤にして文句を言いながら俺の体を殴った。俺が笑うとアディーレも笑った。まるで、子供に戻ったように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます