七話目
我が優秀な情報管理部隊は情報を得ていた。それは勿論“機械技師”についてだ。俺はいまやニコライは不可欠なら存在だった。それは俺以外も同じだろう。ただ、俺とニコライは幼馴染という繋がりがあった。家族みたいな兄弟みたいなそんな存在のニコライが隣にいないのは違和感があった。
皆それをわかってくれていた。
アディーレは過去に天才機械技師と呼ばれる人と繋がりがあり、そしてその人とのトラウマを持っていた。それは情報管理部隊が調べ、実際にビルが検証したから明確だ。そいつに早く会いたい。会って話がしたい。アディーレはかなりビルや俺を警戒していたが知識が不足していた為すぐ心を解いた。俺はともかくビルは。そして時々笑うようになった。信頼してくれているようだし天才機械技師と会うのはそう遠くないかもしれない。
最近新入りが入ったそうだ。脚を失ってから初めての良いニュース。しかしそれは女の子だという。こんな男ばかりの汗臭い軍事基地に少女が来るなんて驚きだった。なんだか心が落ち着かない。ろくに動けなくなり、周りに心配され仕事が減った。それは虚無で少し悲しかった。前は仕事が忙しくていっそ仕事なんてなくなってしまえば良いのにそう思っていたがそうなると苦しい。いつも通りが早く戻ってきてほしい。アレクサンドルの隣で剣を振るいたい。車椅子を動かして思い剣を握る。慣れた手付きで剣を振るい空を切る。その剣を握る手が虚しく見えた。
懐かしい香りがする。
私はその後総統様にまた呼び出された。気づいたら優しく見える総統様の瞳がじっと懇願するように私の目を見張る。そして優しい声で言った。
「ビルに機械技師の話をされただろう。何故、そんな話をしたか、わかるか?」
試すように問いかける。
「機械技師を利用するため?」
過去のトラウマにぱったり蓋をして言った。すると総統様は少しばかり悲しそうに笑った。
「そうだな。それが正しい。でももっと明確な正解がある。ついてこい。」
そう言われて私は総統様を追いかけた。柔らかい午後のレース状の光が私を眩しい程照らす。同じペースで脚を進める総統様はやはりどこか悲しそうに見えた。何も言わずに淡々と歩く。そして連れてこられたのは『外交官室』と書かれたプレートのぶら下げられた大きな鉄の扉。総統様はノックをし、「失礼する。」と告げた。そのバリトンボイスはよく通るようで響いた。すぐにキキィィーと機械音がした。そして扉を開けられた。
「どうかした?アレクサンドル。」
そう言って現れたのは同じ軍服を羽織り、黒髪で美しい宝石のような翠色の瞳の男。彼は車椅子を押して移動していた。よく見れば片脚が無かった。
「……あんた。」
男は私を見て目を見開いた。私も思わず見開いた。
「彼女は最近入った科学班のアディーレ・フランソワだ。」
「……アディーレ?」
彼は私を見つめたままそう呟いた。その声はどこか懐かしく感じさせた。
「そして、この外交官が…。」
「ニコライ?」
私は不安だったがそう呟いてしまった。彼は目を見開いた。そして私の腕を引いて顔を近づけた。その吸い込まれそうな瞳を近くで鮮明に見えた。
「おっと知り合いだったか?」
総統様はそう言った。すると腕を離して微かに笑った。彼はどこか大人びていたが過去に会ったことのあるニコライにそっくりだった。
「アディーレは俺の前の街で出会ってて。なかなかお世話になったんだ。」
ニコライは頬を緩ませながらそう言った。
「まさか、また会えるなんて。」
私を愛おしそうに見つめて笑った。
「あぁ、だから珍しくC連邦国への戦争を反対したのか。」
総統様がそう言うとニコライは思い出を蒸し始めた。
初めて会った時はまだ7歳で何も知らなかった。だから時々家を抜け出して公園を訪れた。そこで一人の少女と出会った。その子と一緒に遊んだ。沢山。しかし俺はY帝国に引っ越すことになった。そこから俺はさよならも言えずに引っ越した。
言えば初めての友達だった。
「まさかここで会えるなんて。元気してたか?栄養取ってるか?何だその服。一緒に服を買いに行こうか。」
ニコライはお母さんみたいにそう言って私を心配した。
「教育係はビルに任せた。一番アディーレを気に入ったようだったから。褒美代わりに。」
ニコライは総統様を睨んだ。そして低い声で呟くようにして言った。
「はぁ?」
「わーニコライ怖いなー。」
総統様は冷や汗をかきながら棒読みでそう言った。私はそんな様子に笑った。するとニコライと総統様が私を見て笑った。
「まぁ、いいや。これからよろしく。」
ニコライと久しぶりの再会に胸が熱くなった。総統様は言った。
「見てわかるだろう?彼は戦争で脚を失った。だから義足が必要なんだ。」
「ニコライは義足を欲しがってるんですか?」
私の質問を聞き総統様は言った。
「良い質問だ。それが特に何も言わないんだ。だから取り敢えず何も刺激せずにいる。どうだ?情報をくれないか?」
本当、ここの人は優しくて卑怯だ。
「そんなの無理って言えないじゃない。」
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