六話目

 連れてこられたのは大きなシンプルな城のようなところ。黒ベースで美しい。確かに総統様がいそうな城だった。

 

 ここに来る前に電車の中で教えてくれた。Y帝国は戦争国家であり、貿易が盛んな貿易国家でもあると。そのため港が美しい。城下町も港と繋がっており美しいと伝えてくれた。


 潮の香りと潮風。心地よい。華やかな人の声。ここは今まで見たことのない街だった。


 総統様は私達を置いて城に入っていった。すぐに帰ってくると私の手を引いた。ビルとは違って子供らしくなく紳士な様子だった。まぁ、ビルが子供らしすぎるだけだとも思うが。

「ようこそ、我が国“Y帝国”ヘ。」

 そう言って城内に入っていった。中はシャンデリア、と長廊下。一階はあまり部屋がなかった。ビルは楽しそうに話しながら私と歩いた。総統様は耳元に触れ「只今戻った。例の準備を。」と言った。そして連れてかれたのは総統様の部屋。書類の山と銃のコレクション。そこの席に堂々と座る総統様。魔王の如くクククと喉を鳴らし、一枚の紙にサインして私に差し出した。

「取り敢えず、居候の確認書にサインを。」

 私は焦りながらその、高価な美しく繊細な羽ペンの先端をインクで湿らせた。さらさら紙にサインをした。すると総統様は席を立った。

 

 次に向かったのは書記官室。ビルいわく凄く怖い人らしい。書類の期限を守らなければ食事はなし。書類の追加。鬼畜生。だと、総統様は笑ったが否定しなかったのできっと事実なのだろう。

 トントンと扉をノックした。ペラペラ喋っていたはずのビルも冷や汗を流し黙り込んでしまった。緊張が体中に広がる。

「失礼する。」そう言って、扉を開ける総統様。そこにいたのは気難しそうな書記官様と、その他女性と男。女性は美しい強い女性だった。男は穏やかに笑う優しそうな人。

 その人たちは自己紹介をした。


 書記官はエドワード・エリック。男は調査部隊長のアルセーノ・ワットソン。そしてアルセーノの補佐官ティセル・グランドルチェ。


 総統様はさっきサインした書類を書記官様に渡すとビルを見た。

「前に行っただろ?褒美をやると。」

「?はい。」

「お前、アディーレ気に入ったのだろう?だったらアディーレの教育係を任せる。」

 それは褒美なのか?と思っていたらビルの顔が見る見る輝いた。そして声を張った。

「いいんですか!?」

「喜んで貰えたなら結構だ。失礼する。」

 そう言って総統様は書記官室を出ていってしまった。ビルはまだ喜びのあまり体を震わせていた。そして私を見てしゃがみこんだ。

「聞いた?俺、あんさんの教育係やって!!幸せなんやけど!!」

 すると凛としているティセルの声が響いた。

「なら、教官様ってわけね。」

 ビルはティセルの顔を見た。私は「教官様…。」と呟いた。違和感がすごかった。

「う〜ん。普通にビルって呼んでもらいたいところでもあるなぁ…。」

「ビル?」

 私がそう言うとわしわしと頭を撫でられた。

「ちょー可愛ぃ!!!」

 私は恥ずかしくなり顔をそむけながら「教官様。」ともう一度言った。ビルは少し残念そうだったけどそう呼ばれるのも嬉しかったのが頬がゆるゆるだった。これから私はビル教官様のもとでY帝国の軍人として生きて行くのか…。

 


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