第28話 讃美歌

 目の前の門を進めば、外です。

 私は冒険者とはいえ外へと出るのはこれがはじめてになります。


 成りたての冒険者は町中での依頼をこなし、冒険者のランクが上がってパーティーを組むと街の中心にあるダンジョンに潜るのが一般的です。

 街の外へと決死の覚悟で挑む隊商の護衛は、一流の冒険者の仕事でした。


 ──皆からノロマだと言われ続けていた私が、まさか皆よりも先に外に行くことになるなんて、思いもしなかった。それも冒険者としてじゃないなんて。


 感慨にふけって振り返ります。

 周囲一面の麦畑。その向こう、遠くに見える街並み。そして近くにはマザー・ホートが手配された聖歌隊がいました。


 彼女達の賛美歌は、私たちの出立に神の加護を授けてくれます。それと、門の外にたむろする魔女を一時的に追い散らしてくれる効果があるそうです。

 これが、外へと誰かを送り出すときの標準的な流れになるとおっしゃっていました。


 私たちのなかに結界の担い手たるシスター・テンペストがいるとはいえ、その奇跡も無尽蔵ではありません。少しでもその奇跡を温存しておくためにも必須らしいです。


「いいかい。讃美歌が始まったら門があく。そうしたら一気に駆け抜けるよ。馬車にはリシュとシスター・テンペスト。御者はシスター・マハエラ。騎士ネリムと私は、こいつだ」


 マザー・ホートが指差した先には二頭のモンスターがいました。

 私も何度か遠目に見たことのあるそれらは、冒険者の中でもテイム士と呼ばれる人たちがダンジョンで調教しているモンスターです。

 なかなか高価な生き物で、こんな間近に見る機会があるとはと、驚いてしまいました。

 七色に光る体表が、とても綺麗です。


 マザー・ホートとシスター・マハエラの相棒の騎士であるネリムが、丸っこいそのモンスターに騎乗します。

 私もちょっと乗ってみたかったなとそれを見ながら、大人しくシスター・テンペストと一緒に馬車へと乗り込みます。


「リシュさん、隣、いい?」


 四人がけの馬車の中で、私たちは仲良く並んで座ります。窓からはモンスターに騎乗しているマザー・ホート。私から見ても、凛々しい騎乗姿です。

 マザー・ホートが聖歌隊の中央にいるシスターに向かって何か合図をしています。


 そして聖歌隊による讃美歌が、辺り一帯に響き始めました。

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