第27話 シスター・テンペスト
マザー・ホートはこちらを見て口を開きます。
「リシュ。頼む。貴女の力を貸してほしい。捕らわれているシスターを助けるために、共に《外》へ、ついてきて欲しい」
その真剣な瞳に、私は心を決めます。マザー・ホートが早朝からここまでわざわざ来ていた事から、何かあるのだろうとは思っていました。
「わかりました。マザー・ホート。私もお手伝いします」
私が、肯定の意思を伝えた時でした。
部屋に入ってくる人影があります。
「ボクを、つれていって」
現れたのは、この教会で結界の奇跡を担う聖女でした。
昨晩治癒の奇跡を施した彼女は、今回の騒動ではもっとも症状の軽かったうちの一人です。
確かに他の結界の聖女よりかは体力的には消耗が少ないかもしれません。
「シスター・テンペスト! 確かに結界の担い手が《外》へと同行してくれるのは助かる。その申し出は、とてもありがたい。ありがたいが……」
普段は歯切れのよいマザー・ホートが、珍しくいいよどみます。なにかあるのでしょうか。
「マザー・ホートも知ってるでしょ。ボクの結界の奇跡はこの街では最弱。でも、もうひとつの奇跡は役に立つよ」
「もちろん知ってるとも。しかし結界の奇跡は人類生存の要だ。そう易々と危険にはさらせぬ」
「……ここ最近、魔女に滅ぼされた街は二つでしょ。そのどちらかの街の聖女が生き残り捕まってると考えられる。同胞を、信心を同じくする仲間を、ボクも助けたい」
かたくなにいい募るシスター・テンペスト。見た目に反して、なかなか頑固な性格のようです。
私は、街と街を結ぶ隊商は魔女避けの香を使うと聞いたことがあります。
しかしその香の効果は限定的らしいのです。一攫千金を狙った隊商が帰ってこなかったと話をよく聞きます。ですから、結界の担い手がいてくれるのは、マザー・ホートも頼もしいでしょう。
そうして最後はシスター・テンペストに押しきられるようにして、彼女の同行も決まりました。
シスター・マハエラも当然という顔で同行を申し出てくれます。そしてシスター・マハエラに付き従う騎士の女性も同行下さるとのこと。
異端審問官には必ずその相棒となる騎士がいるそうです。改めて紹介された時に、命が絶えるまでどこまででもシスター・マハエラに付き従うのが、自身の定めだと少し自慢げに言っていました。
「申し訳ないが、このまま出発をする。リンドワードを捕まえた事が、魔女崇拝者達に伝わる前に彼らの拠点をおさえる。荷物は外の馬車に準備済みだ」
重々しく伝えるマザー・ホート。
こうして私たち五人は《外》へと向かいました。
私は、またしてもシスター服から着替え損ねてしまいました。
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