第15話 内結界の奇跡

「タプリール!」


 駆け込んだ私の眼に映ったのは、教会の外に仁王立ちしているタプリールでした。そのタプリールの両手には、その身と同じぐらいはある、巨大な十字架。

 タプリールが、十字架を横殴りに振ります。力任せの一撃。


 大型の魔女の伸ばした手と、その十字架が触れます。


 十字架が魔女と接した部分から、あふれる光。

 魔女の手からこぼれ出た、呪いとおぼしき闇。


 光と闇が、一瞬の均衡を作ります。


 しかしすぐにその均衡は破れてしまいます。

 吹き飛ばされてしまう、タプリール。その体は教会の扉へ叩きつけられるようにして止まります。

 その手から弾かれた十字架もくるくると回り、タプリールのすぐ横、扉へと突き刺さり停止します。


 倒れこんだタプリールへと近づく、闇に染まった魔女の手。


 私は勢いのままにそこへ飛び込みます。タプリールをかばうように。教会へと近づく魔女に立ちふさがるように。


 眼前に迫る大型の魔女。それは私がこれまで対峙したどのモンスターよりも大きく、そして比べ物にならないほどの威圧感があります。


 しかし私の背に今、守るべきものがあるのです。


 奮い立つ心のままに、私はいつもの癖で左腕をかかげます。

 盾を構えようと、しました。


 そしてそこで、ようやく気がつきました。シスター服に着替えたせいで、今は愛用の盾を装備していませんでした。


 一瞬、頭が真っ白になります。

 そして次に私がとったのは、まさに神に祈ることでした。ここ最近、連日の習慣がこんなときにも影響したようです。

 ただただ一心に、気がつけば神へと呼び掛けていました。


 ──神よ。ラーラ神よ。守るべきものを守るため、私に盾を!


 その時でした。

 普段は背後に感じられる気配が、私の中から感じられます。それはまるで私の中、結界で封じられていた気配が、解放されたかのようでした。

 そしてそればかりか、その気配が左腕を通してあふれ出します。


 思わず驚いてしまった私の左腕から、光が放たれたと思った、次の瞬間でした。

 光が一つにまとまります。それは丸盾のような形を取ります。


 私の左腕に現れた、光で出来た丸盾、それは私が愛用している丸盾と良く似ています。


 私は戦士としてのいつもの動きのままに、盾を構えます。迫り来る魔女の手。それをいなすように。


 魔女の手の動きに合わせ、盾の角度を変えていきます。

 いつも以上に良く体が動きます。


 それは私のこれまでの人生で最高の受け流し、でした。


 光でできた丸盾を通して、伝わって来るのです。


 魔女の呼吸が。

 魔女の重心移動が。

 魔女の筋肉の軋みが。


 そして気がつけば、魔女の腕を伸ばした動きは、完全に私の支配下にありました。


 教会に当たらない位置に、魔女を勢いのままに、ころんと転がしてあげます。

 つんのめり、顔面から石畳に激突する大型の魔女。

 そして私の丸盾に触れた魔女の片腕は、今の一瞬で、ひどく焼けただれていました。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る