第14話 決断と目覚めの予兆
「大きい! マザー・ホート! 左前方っ。現れたあれも魔女ですか」
「――なんということだ。あれほど大きな魔女が入り込むほど、結界に開いた穴は大きいのか。……あちらは」
「タプリールの教会の方ではありませんか、マザー・ホートっ! 助けに行かないのですか!」
疾走する馬車から身を乗り出すようにして、私は思わず大きな声を出してしまいます。
「そうだ、私達にはできることはない。今は一刻も早く、マザー・カサンドラの元に向かうべきだ。果たすべき務めはそこにある。シスター・マハエラの献身を見ただろう、皆が己の務めを果たすのだ。……それにな、私は魔女に立ち向かうための奇跡を担っていないのだよ、リシュ。そして、それは貴女もだ。貴女の担う奇跡は治癒。言うまでもないだろう」
そう話すマザー・ホートの厳しい顔。それは自らの務めを知る大人の顔でした。
そのマザー・ホートの言葉に、私は自らを納得させようとします。目をつぶり、その言葉をなんとか飲み込もうと努力をします。
最近の毎朝の習慣のせいか、無言で目をつむっていると、いつもの気配が首筋の後ろに感じられます。それとともに思い出されるのは、タプリールの優しい声。そして、ネロとリーの屈託のない笑顔。
その時でした、気配が後押しをしてくれます。私の果たすべき務めとは何か、教えてくれているようでした。
「マザー・ホート! 私は戦士です。私は、人を守るために戦士をしています。だからっ。ごめんなさいっ」
それだけ告げると、疾走する馬車の扉をあけ、私は飛び出します。
目の前、急速に近づく地面。
体をぎゅっと丸め、落下の勢いをすべて回転運動に変換します。
ごろごろと転がる僅かな時間も惜しんで、地面を片手で叩きつけます。その反動で体を起こすと、私はそのまま走り出します。
タプリールの教会目指して。
周囲は逃げ惑う人々でごった返しています。これまでの私、パーティーメンバーからノロマだと散々バカにされていた私でしたら、完全に動けなくなっていたでしょう。しかしなぜか、今は不思議と勘が働きます。
人の流れがはっきりと見えます。眼前を覆う黒いヴェールですらも、それを遮ることはありません。
それは、先日のダンジョンアタックでも経験したものと、同じ感覚。
私は、臆することなく、全力で一歩を踏み出します。
それは次なる一歩へと繋がります。そして更に次なる一歩へ。重ねられた一歩、一歩が積み重なり、私の体が加速されていきます。
まるで目に見えない鎖の束縛から開放されたようでした。
これまででは考えられないほどの速度で、私は路地を駆けていきます。
はやく。はやく。
気分が急くほどに、体が前へ前へと押し出されていくようでした。思いの強さが、まるで祈りとでも言うように。
そうして、教会が見えてきました。
今まさに、大型の魔女がその呪われた手を伸ばしている、その場面に。
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