第13話 sideルルノア
「七、八……。ふふふ。順調ですね」
窓も締め切られ、鍵もしっかりとかけられたその部屋でルルノアが金貨を数えていた。
資産を冒険者ギルドで保管する冒険者が多い中、ルルノアは現金至上主義のようだ。
机の上に並んだ金貨の列を恍惚の表情で眺めている。
「やはり自分でパーティーを立ち上げて正解でした。万雷の乙女のリーダーと言う立場は、美味しすぎます。撃破数に応じて報酬の配分を決めるとしたのは、自分でもなかなか冴えていましたわ。──出来ればハーマルーの取り分をいま少し減らしたい所ですけれど……」
机の上の書類を見ながらぶつぶつと呟くルルノア。
その視線の先にあるのはパーティーメンバーへの報酬の記録のようだ。
「物理耐性の高くて魔法耐性の弱いモンスターが多い狩り場に行くのを増やしたいですね。ハーマルーは馬鹿だから全く気にしないでしょう。問題は、ヤノスですね。彼女は小知恵が回りますからね。物理攻撃組に不利な所ばかりだと文句を言ってきそうです。あの娘も、大人しく男にうつつを抜かしていればいいのに」
ばさりと地図を広げるルルノア。
どうやら次のダンジョンアタック場所を考えているようだ。
「やはり、ここはノロマなリシュを使って、ハーマルーを上手く牽制するのが良いですかね。理想はハーマルーとヤノスが敵の体力を削って、ノロマなリシュが上手く足を引っ張った所で私が華麗にトドメを刺す。うーん。素晴らしい」
壊れた杖を振り回し、ルルノアは妄想に浸っているようだ。自分の活躍と妄想の中で積み上がる金貨に酔いしれるルルノア。
「そういえば、前回はリシュが余りハーマルーの足を引っ張っていなかった……ような? まさか、そんな事はないですよね。でも、想定以上にハーマルーが敵を倒してしまっていて、私も思わず焦って、結果、杖を壊してしまった……。いえいえ。偶々でしょう。偶々に違いありません。リシュがノロマじゃないだなんて、そんなこと、あるわけないです」
壊れたままの杖を握りながら、自らに言い聞かせるようにそんなことを言うルルノア。真実よりも自分に都合のよい妄想に浸っているようだ。
そこへ、どんどんと施錠されたドアを叩く音がする。
「はあ、誰ですか。これから金貨の感触を堪能しようとしていたところでしたのに」
ルルノアは名残惜しげに金貨を片付けると大事そうに金庫に鍵をかける。
その間もドアを叩く音は止まない。
「防音性能が高くて声の通らないのはいいのですけれど、こういう時に不便ですね。はいはい、いま開けます」
がちゃりとドアが開いたそこにいたのは精霊術師のタタミーだった。
「ルルノア! 遅いよ。魔女がでたって。逃げなきゃ! ――それ、まだ直してなかったの?!」
タタミーが勢いよくルルノアの手を掴む。壊れたままの杖に、向ける視線が厳しい。
「タタミー! ちょっとまってください! 今お金を回収……」
「そんなの置いていきなよ。昔からルルノアはお金のことになると本当に見境ないんだから。すぐそこまで来てるの! 早く逃げなきゃ。ルルノアも魔女の呪いの怖さはしっているでしょ」
「そんな! 私のかわいい金貨たちがっ――」
力ずくで引きづられていくルルノア。ルルノアの幼馴染であるタタミーは容赦ない。
「ほら、街の中心のダンジョンの一層に避難しなきゃ。走って!」
「あああーっ。私のおーかーねー!」
二人が宿を出る。そして数秒後のことだった。
轟音。
宿が、崩れる。
ルルノアの命よりも大切なお金の入った金庫が部屋に残ったまま。
そして、崩落した際に舞い上がった粉塵を突き破り、一体の大型の魔女が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます