第10話 新たな奇跡

 私はひとつまみの砂金をそっと聖杯の中へと入れます。

 聖杯から繋がっている水の流れに乗り、砂金が水で出来た神像へと流れていきます。

 キラキラとした光が巡る様子は不思議さとともに、美しさがあります。


 その巡っていた砂金の輝きが、まず神像の左手薬指で止まります。


「ここは、治癒の奇跡を表す」


 マザー・ホートが親切にも解説してくれます。そのまま輝きが次の場所へと移動していきます。


「あ、動きました」

「ああ。これはやはり、リシュには新しい奇跡が授けられている。しかしここまで神像の全身が克明に形作られていると、どこで止まるかわからんな」

「普通は違うのですか」

「そうだ。神像が克明に詳細に形作られている場所に、砂金が止まる可能性があるのだ。さあ、そろそろ動きが止まるぞ」


 じっと見守る私の目の前で、次に輝きが止まったのは神像の胸の中心でした。


「ほう! これはっ」

「マザー・ホート。どのような奇跡ですか?」

「うーむ。『内結界』の奇跡、のはずだ。これは非常に珍しい。私も長年、位階開示の秘蹟を行ってきたが、見るのは初めてだ」


 私が不思議そうな顔をしていたのに気がついたのでしょうか。マザー・ホートが追加で説明してくれる。


「結界の奇跡には二つある、といわれている。一つは外結界。これは非常にメジャーな奇跡だ。一つの街に、数名はこの奇跡の使える聖女がいるぐらいにはの。全ての街が結界で覆われているのも、この奇跡を授けられた聖女が多いからだ」


 私も、流石に自分たちの住んでいる街を魔女の厄災から守ってくれている結界の事は知っていたので、マザー・ホートの話しに頷きます。


「そしてもう一つが貴女の授けられた内結界だ」


 いよいよ本題のようです。私は身を乗り出して一言も聞き逃さないように集中します。


「興味があるのはわかるが、残念なことに内結界についての具体的な事は私もわからんのだ。かつてかなり昔に、内結界の奇跡の担い手がいたことは伝わっておる」


 そこで口を閉じるマザー・ホート。

 どうやらマザー・ホートにわかるのは、それだけのようです。私は残念な気持ちになりながらも、どうやら自身で手探りで探っていかなければならないようです。


 私の姿をじっと見ていたマザー・ホートはそこで位階開示の秘蹟の終了を告げます。


「これにて秘蹟を終了とする。ここに聖女として新たにリシュは聖別された。そは第一位階、二つの奇跡を担う者である」


 マザー・ホートの宣言とともに、聖杯のうえに形作られていた水の神像が消えていきました。

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