第8話 聖女位階

「ふー。終わりました。息がつまりました」


 私は宿を出て教会に向かっていました。大きく伸びをして、息を吐き出します。それだけで少し気分がほぐれます。

 それに、ぎすぎすした万雷の乙女のパーティーに比べ、今から向かう教会が落ち着くというのも大きいです。


 先程まで続いていたルルノアの話。それは単に、ヤノスとハーマルーを吊し上げるのが目的のものでした。

 もちろん、名目上は今後の打ち合わせ、なのですがルルノアの言葉の端々には嫌味がたっぷり、二人に対してマウントをとっていました。


 リーダーたるルルノアの決めたルールを破った二人のことが、よっぽど勘に触ったのでしょう。結局、ルルノアがねちねちと二人をイビる所を延々と見せられていました。


 万雷の乙女のもう一人のメンバーで、精霊術師のタタミーも、最後の方は私の隣で死んだ目をしていたほどです。


 そんな苦痛の時間もようやく終わり、解放されると私は一目散に宿を出たというわけです。


「あ、リシュさん。良かった、おまちしておりました」


 教会につくと、タプリールが近づいてきます。


「今日もお世話になります。なにかありましたか」

「はい。マザー・ホートからの伝言を預かっております。リシュさんがいらしたら、マザー・ホートのところに来てくださいとのことでした」


 私は了承を伝えます。

 何度か訪れたことのある、マザー・ホートのいる教会。それはこの街の教会を取りまとめるとても大きな教会でした。


 ◆◇


「あの、本当に着るんですか」


 私はマザー・ホートから手渡されたシスター服を広げてみます。


「貴女のために特別にあつらえたシスター服だ。それに、それを着たからって人前にはでなくていい。ただ、これから行う儀式にはどうしてもその服を着てもらう必要がある」

「儀式、ですか」


 私は人前に出なくていいということで少し安心します。


「そうだ。奇跡を行える聖女というのは本来、教会による聖別を経たものをいう。聖女の位階については話したね」

「はい。第一位階から第十二位階まであるんですよね。歴史上最初に聖別された十二人の聖女にちなんで」

「うむ。それらは教会内の聖職位階とは全く別の系統のものだ。元来、列聖された聖女たちは自分たちだけの修道会に属することになっている。聖人修道会だ」

「マザー・ホートもその聖人修道会に属しているのですね」

「リシュ、貴女もゆくゆくは聖人修道会に入ることを考えることになるだろう。今日の儀式は貴女の聖女としての位階を決めるものだ」


 マザー・ホートに教えてもらい、シスター服に着替えた私たちは司祭館を出て、主神像の置かれた主聖堂へとやって来ました。


 ステンドグラスから差し込む日の光が鮮やかな彩りとなり、しんとした室内が荘厳な雰囲気を感じさせます。タプリールの教会の温かな雰囲気も好きですが、私はこの神の気配の濃い場所の方がなぜか落ち着くのです。


 そこへ数名のシスターが現れます。その手にはこれからの儀式に使うのであろう祭具。


「主神像の前の床、そうそこだ。そこに両膝をついて。よし。それではこれより聖女の位階開示の秘蹟を始める」


 マザー・ホートが厳かに宣言し、儀式が始まりました。



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