第8話 陥落した上級国民の祖父と孫娘

宇佐美による淫靡な拷問によって亜子が屈する前に、陥落したのは祖父、鍋島行正の側だった。全裸にされた亜子がカメラに向かって語りだす。

『お、おじいちゃま…亜子を…淫乱な亜子を…ゆ、許してくださいッ…身も、心も…この人たちの性奴隷…です』

泣きべそをかいた全裸の亜子はしゃくりあげながら、続ける。

『鍋島のお家の名誉より…おじいちゃまの御立場より…』

亜子は積年の思いを吐露するかのように吐き出した。

『亜子はこの人たちの肉棒が欲しいですぅッ!』

言うが早いか、亜子の左右に男たちの影が忍び寄る。下腹部からセリ出たいくつものペニスを亜子が代わる代わる自ら、進んで望む様に握り、しゃぶり、頭を振ってそこから発射される穢れたスペルマを頬に、額に浴び恍惚の表情を浮かべる。やがて画像は精液塗れのヌルヌルになった美貌を映し出す。そのアップにされた名家の孫娘の表情が、一瞬何事が起ったのか理解できぬというように強張った。そして甘く歪む。


『はうッ…あ、あぁッ…あ、だ、だ、だぁ…ダメぇッ…あ、そ、そんなッ…おじいちゃまが…見るんでしょ…いやッ…ああぁぁ――――—ッ、あ、亜子は…狂ってしまいそうぅぅ――――—ッ!!』

亜子が嬌声を上げる背後に男の影を見た祖父は、孫娘が完全に獣に犯され、そしてそれを歓喜し、受け入れている光景であることに気づく。

『いいッ…いいぃぃッ…いいわ、良いわああぁぁ―――――—ッ、もっと激しく突いてええぇぇぇ―――――—ッ!』

選ばれた者、選良、負けを知らない人生、上級国民の己。穢れ無き己、いや一族。その目の中に入れても痛くないほど愛し、慈しんだ孫娘が今、身分卑しき者たちにかどわかされ、弄ばれ、悦び勇んでレイプを受け入れている。亜子の姿は鍋島にとって敗北以外の何物でもなかった。


数時間――――。鍋島行正は記者会見を開いた。最後に東出によって届けられた動画を目にした彼は、宇佐美からのメッセージに観念したのだ。

『さあ、そろそろ、お嬢様は御覧のざまだぜ? その恍惚の美貌を眺めるのは愉しいが、こちらもそろそろ本題に入りたい。鍋島の爺さん、あんたはあの日、どこへ逃げた? なぜ、救急に連絡をし、処置をしなかった? そしてなぜ何食わぬ顔で戻ってきやがったんだ? マスコミの前ですべてを白日の下に晒し、そして地べたに這いつくばって謝罪しろ! さもなくば堕ちきった亜子の痴態を動画サイトにばらまく!」

その脅しに耐えきれるほど、鍋島は非常になり切れなかった。

「この度の新宿公園暴走事故…いえ、コレは事件ですが…すべてはわたくしがブレーキとアクセルを踏み間違えたことによるものです…」

記者団を前にした鍋島は敢え無く、自らの非を認めた。

「踏み間違えたことに気が付いても、車をコントロールできなかった…それは私の認知機能、運動神経の衰えによるところが大きい…それと」

言い訳の許されないことを利に聡い鍋島は察し、カメラを向きなおり、正直な心情を吐露した。マスコミ各社は言い逃れと責任回避を続けてきた上級国民の変節に唖然として、デジカメのシャッター音とフラッシュの瞬きだけが、室内に木霊し悪漢を照らし出す。


「本音を言えば…浮浪者の人々に偏見と蔑みの感情が無かったといえば嘘になる。…なぜ応急処置をせずにその場を逃れたかといえば…」

そこまで話すと、彼はそれは良い、と呟いて声音を変える。鍋島は続けた。彼の偽りと、逆に偽らざる本音が同居した言葉を声を震わせながら絞り出す。

「私は、選ばれた人間だと今でも確信しておる。…現に財界、政界で私の名を知らぬ者はおらん。帝都電力はこの国になくてはならぬエネルギー資源を担う大企業…。私はその屋台骨となり、この日本国にどれだけ仕えてきたか…。園遊会にも招かれ陛下からお言葉もいただき、叙勲も受けた…。その私が…私が!…上級国民の私が!!」

次第に興奮してきた鍋島は椅子を後ろに蹴り倒すように立ち上がった。そして、その直後白目を剥いて、大木がなぎ倒されるかのように崩れ落ちた―――—。

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