第3話令嬢襲撃!! 監禁生活の幕開…

―――それはまさに突然の出来事、いや事件だった。型落ちの灰色のワゴン車から降り立った男たちは、みな目出し帽で素顔を隠している。服装はジャンパーや迷彩服など様々だが、いずれも薄汚れ、ほつれも目立つ。その動きや所作から若者ばかりでなく、中年や初老に差し掛かった年齢の男も含まれている。が、共通しているのは、凶行を成し遂げんとする異常なまでの殺気を放っている事だった。男たちは停車したプリウスを取り囲む。


最初にワゴン車に引きずり込まれたのは、優馬だった。優男風のスタイルの大学院生は、敢え無く取り押さえられるとサイドドアから後部座席に押し込まれた。非力な男と、彼を揶揄するのは酷だろう。突発的な襲撃に冷静に太刀打ちできるものなど、そうはいない。ましてや数人の男が相手では、女の亜子に抗う術などあろうはずはなかった。

「な、なんなのッ! ちょ、ちょっと! 何するの、私たちをどうするつもりッ!? た、助けてッ、優馬さんッ!」

左右から男二人に腕をとられ、綺麗な黒髪を振り乱し、半狂乱になりかかる亜子。しかし、目下、交際進展中の『恋人候補』は、既にワゴン車内に姿を消している。抗う亜子も、車の後部まで歩かされる。リアウインドーから延びる手に車内へと幽閉されてしまう。鷲掴みにされた白いノースリーブのセーターが鈍い音を立てて首元から千切れた…。


突然の拉致・誘拐劇。しかし、亜子の恐怖は、虜の身になってからが本番だった。走り出した車内は亜子にとって監獄の入り口でしかない。

「いやッ、いやぁ―――ッ!」

なりふり構わず、泣き叫び厄難から逃れんとする亜子。が、異常な臭気を放つ男たちが放つ狂気はそんな清廉な乙女を、力で制圧にかかる。

「少し静かにしろや、お嬢ちゃんよッ!」

背後から、亜子の頭髪を乱暴に掴み、その美貌に車の天井を仰がせた男の一人はバチバチという閃光を放つ凶器を、その白い首筋に押し当てる。

「うぅ――――ッ!」

浜辺に打ち上げられた人魚のように、ビクンビクンと痙攣し喘ぎ悶える亜子。通常スタンガンでは失神することはない。動きを制圧するための小道具なのだ。つまるところ、全身を駆巡る電気ショックの激痛に抵抗する気力を奪われつつも、逆に意識は鮮明になり恐怖は増幅するばかりだ…。


―――ここがどこなのか、亜子にはわからない。狭いコンクリートの壁が剥がれ落ちたような、薄暗くごみの集積場のような臭気を放つ小屋の中だ。車から引きずり降ろされた彼女は、そこで、蹂躙される恋人を慮る声を絞り出す。

「やめてッ、やめてあげてッ…」

が、恐怖とスタンガンの衝撃で、蚊の鳴くような擦れ声は、優馬を殴打する無残な暴行の音にかき消される。昔は物置か、はたまた何かの調整施設だったと思われる壁にむき出しになった配管に後ろ手に結束バンドで縛めを受けた亜子は、生まれて初めて味わう恐怖に慄くばかりだった。

「うぅッ…あ、亜子…」

やがて、壮絶なリンチを受けた優馬の体が、横座りさせられた亜子の足元に投げ出される。

「ゆ、優馬さん、しっかりして…」

嗚咽交じりに、恋人の名を口に知る眞子を見下ろすように、目出し帽の男が、その覆面を外した…。

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