「___以上、解除されたものを合わせて五か所で爆発物が確認された。被害は軽傷四、重傷二、死亡一だ」
一週間後、私たちの隊は雑居ビルの一室に集合していた。適当に並べられたソファやデスク、窓の外にある「柚月探偵事務所」という看板のすべてが、いかがわしさを逆に増させているような気がしていた。今では、あの空気が懐かしい。
「爆弾が仕掛けられた場所はほとんどが人通りが比較的少ない場所だった。清掃員に回収されたものは想定外、観覧車のものについては列の並びが通常よりも長かったためと考えられ__」
あくまでも淡々とわかった情報を述べるルークの声が、デスクを思い切り両手でたたく音でさえぎられた。音を立てたビショップは、持ってきた新聞記事を掲げる。
「そんなことはどうでもいいですルーク。問題はこれです。なんですかこの発表は」
集合の前日の朝刊。恐らく、組織に参加しているメンバー誰もが理解できなかったであろう報だ。
『家族を奪われた悲劇の富永長官。テロの撲滅へ』
そんな英雄物語のような見出しと、子供を連れる父親の写真。感情をこれでもかと煽るような一面には、新たなテロ対策組織の設立が決定したことが書かれていた。
「完全にこの新たな組織って僕たちのことですよね? 公表できないような裏仕事をやっていたのに表に出ていくっていうんですか?!」
「俺にもわかんねえよ!」
勢い付いていたビショップの動きが止まる。ルークの本気の怒声なんて、聞いたことが無かった。
叩きつけられた新聞紙を奪い取って、二面を開く。そこには、新たな組織の詳細と、それが国民に受け入れられているかのような文言が踊っていた。堰を切ったようにルークはまくしたてる。その手は、掲載されていた写真を指していた。
「ああそうだよ。新聞の二面にある写真に、富永と一緒に写っているのはキングだ! 掲載されている組織の概要も、仕事内容も、ほとんど俺たちがやってきたことだ!」
それが意味することはこの場の誰もがわかっていた。平穏の裏で働いてきたはずのものが表に出る。目的はともかく、やっていることが犯罪とさして変わらない私たちが、だ。
私たちは、表に出るには力を持ちすぎだ。
全員の険しい目線が、机の上の新聞紙に注がれていたその時、死角から声がした。
「___決定には従ってもらう。それが総意だ」
完全に虚を突かれて、本能のようなものが声がした方に体を向けさせ、腰に差していた拳銃に手をやらせる。ここに来る可能性があるやつは組織の関係者か、敵対勢力の何れかで、真っ当な依頼人なんて来るわけがない。
全員を同時に警戒態勢に入らさせた相手は、右手に封筒を携えて、さっき新聞で見たままの服装でこちらに歩いてくる。
「——キング、要件があるなら事前の連絡をするのではないですか」
たった一人、ナイトだけが、普段通りの落ち着いた表情と声を出せた。机の上に出している右手が震えてさえいなければ、本当にいつも通りだった。
「悪いな。知っての通り各社への対応が忙しいんだ」
言葉と裏腹に全く悪びれる様子のないキングは、歩調を落とさずこちらに近づいてくる。キングのとった言葉選びがさらに私たちの緊張を加速させた。
「知っての通り……ね」
意識して私は、キングのことを睨む。こちらの状態はもう知っているという事なのだろう。そして、各方面への対応で忙しくしているというのも確実に事実だ。じゃあ、いったい何の目的があってここに来たというのだ。わざわざここに来る理由が見えない。
キングはちらとだけ私のことを見てから、ほかのメンバーに顔を向け、持ってきていた封筒から紙を三枚取り出す。
「辞令だ。君たち三人は、ここから異動となる」
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