「は……?」
間の抜けた声が聞こえる。ルークがこんな様子を見せたのは後にも先にもこの一回だけだったが、それでも彼の行動は素早かった。後から聞いたが、この瞬間に彼は、自分の通信の対象を全体にしていたらしい。この判断のおかげで二か所、救えた場所があった。
「制式品はのは確かか!? 類似品ではないか!? 爆弾はどこから見つかった!?」
今まで何も音を立てなかったルークの周囲が騒がしくなる。当然だ。大団円直後にありえない情報が入って来たのだから。
ビショップの声もまた焦っている。それでも必要なことを最速で伝えられるのは、経験のたまものだろうか。
「構成員に通達されている解除法が使えた! 正攻法じゃないほう! タイマーは残り七分!」
私の口から舌打ちが漏れたことに後から気づいた。それほど状況の把握に頭を使っていたという事なのだろう。
詳しいことは分からないが、以前ナイトが言っていた。私たちの組織の爆弾は、知識があればあるほど、最短の解除手順がわかりにくいようになっていると言っていた。その道の知識がある彼からしたら、一番目か二番目に切り捨てる選択肢が正解手順なのらしい。
裏を返せば、その裏道が成立している爆弾は、間違いなく制式のものだ。
状況は読めない。なぜ制式のものがあるのか。なぜ何一つ知らされていないのか。何か思惑があるのではないか。
そんなことを、考えるのは後だ。
「全構成員に伝達! 近隣のごみ箱を捜索、発見し次第解除しろ! 残り二分を切ったら退避だ!」
大急ぎで言い切ったルークの背後で、「キングと音信不通です!」という声が聞こえた。
考えている時間はない。すぐさまあたりを見回す。急ぎすぎたから今度こそ何人かの目に留まったが、そんなこと気にしていられない。
自動販売機の横、屋台の前の二か所に鉄網のごみ箱があったが、中身はほとんど入っていない。
反対側に目を向けてみれば目に入るのは観覧車だ。
「確かあそこにもあったはず……」
息もつかずに駆け出そうとした時、間の抜けたアナウンスの音が鳴り響く。気にはしてられない。早くあそこにあったゴミ箱も見ないと。
『ご来場の皆様に、迷子のお知らせです』
気にしてはいられないと思ったのに、アナウンスの音声が頭の中に響く。どうして無意識に聞いてしまっていたか、気づいていたならもっと速やかに動けていたかもしれない。
『富永雄吾君のお母さま、富永雄吾君のお母さま。お子さんがお待ちです。迷子センターまでおこしください。繰り返します___』
固まってしまった。そういえば迷子センターの中はどうなっていたのかと、一瞬のノイズが混じる。そんなことどうしようもないのだから、考える意味なんてない。対応が入っていてもいなくても、関係がない話だ。
なのに止まってしまった。そして同じように、観覧車の列にあったゴミ箱の横にいた人が呼ばれたかのように顔を上げる。
ゆうご、とその唇が動いたのが見えて、次の瞬間そのごみ箱が爆発した。
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