episode7 風呂
雨の中、公園から10分ほど走り、なんとかアパートまでたどり着いた。
雨は小雨だったが、それでも髪や制服もそれなりに濡れてしまっていた。
「はぁーー、やっと着いたー。
うわぁ、もうびしょ濡れ、最悪。」
柚凪は玄関に座り、濡れたブレザーを脱ぎながらぶつぶつと言っていた。
「先にシャワー浴びてきてください、服はまたこれでいいですよね?」
そう言い、俺は先程柚凪から受け取った寝間着を鞄からだした。
「翔が先に入りなよ。
ここ翔の家なんだしさ。」
「いや、そんな訳にもいきませんって、そんなびしょ濡れな髪じゃ風邪ひきますから」
「翔だって濡れてるじゃない」
「オレは男だから平気なんです」
「うわ、なにその男尊女卑」
「いいから、ほら、入ってきてください」
そう言いオレは柚凪の腕を掴み、立ち上がらせようとするが、柚凪は立ち上がらまいと逆にそのオレの腕を引っ張った。
──そしてオレはバランスを崩し柚凪の方へと倒れ込む。
柚凪もオレが倒れた勢いに合わせて後ろへと倒れ、顔の距離はほぼゼロ距離となる。
オレが柚凪に床ドンをするという形になってしまった。
──この体制いろいろとまずいんじゃないか。
そして、柚凪の朧げな瞳とオレの目線がかち合う。
柚凪はその目線をすっと横に流し、言った。
「……じゃあさ、一緒に入ろうよ」
その言葉を聞き、オレの心臓がドクンッと大きく波打つ。
一緒に入ろうよ。
確かに彼女はそう言った。
聞き間違いなんかじゃない。
「一緒に……それはお風呂に、ですか?」
「……その話をしてるんでしょ」
「そんなに、オレのこと信用してくれているんですね」
「別に、翔には私の秘密知られちゃったし、これ以上もこれ以下もないわ……」
「そうですか、じゃあ……入りますか」
────
「ま、まだ入ってこないでよね!
あと、10秒!」
「え、ええ」
結局、最初に柚凪が浴室に入り、その後オレが続けて入るということになった。
湯船は張ってないので、お互い背中合わせになり、代わりばんこにシャワーを使うという形で落ち着いた。
下にタオルを巻き、入っていいか尋ねる。
「じゃあ、入りますよ?」
「う、うん」
扉越しに会話をしたあと、柚凪の体が見えないよう、後ろを向きながら浴室へと入った。
そして、柚凪と背中合わせになるよう座った。
「ひゃうっっ」
すると、いきなり柚凪がかわいい悲鳴をあげた。
「え、あ、どうしました?」
「な、なんでもない、ただ背中が当たって驚いただけよ」
「あ、すみません、すぐ離れます」
「べ、別にいいわよ、もたれ掛かるくらい。
それに、私もこの体制少しキツイから翔の背中かしてほしい」
「あ、全然、どうぞ。」
「うん」
柚凪の背中がオレは背中にもたれ掛かった。
ひんやりとした肌触りが背中を通して伝わってくる。
もたれ掛かるだけでも分かるくらい、彼女の背中は華奢で細かった。
「中々オレたちやばいことをしてるのではないですか?」
「4,5人とやってる人が今更そんなこと言う?」
「う……それは、だから、あの人たちと柚凪に対する感情はなんか、こう違うんですよ、
その、大切にしたい存在というか、守ってあげたいというか、ってこれさっきも言いましたよね、何回言わせるんですか」
もちろん、オレが経験を交わした人物にそう言う感情を持たなかったといえば嘘になるが、柚凪ほどその感情が大きくなる人物はいなかった。
それはもちろん柚凪の秘密を知っているからだと思う。
「そ、そこまで言うなら、存分に私のこと大切にしてよね」
「はい、だから、こういう誘惑みたいものはあまりしないで下さいね、オレも男のなのでいつ我慢がはち切れるか分かりませんので」
「(……っ、我慢なんかしなくていいのに)」
ふと、柚凪がそう小さな声で呟いた。
多分、オレに聞こえないように言ったつもりなようだが、ここは浴室。声は籠もるんだぜ?
「あ、とりあえず、シャワーかしてもらっていいですか?」
「えっ、あ!うん、どうぞ」
そう言うと柚凪はとっさにシャワーとシャンプーを寄越してくれた。
シャンプーで髪を泡だて、髪を洗い流し、柚凪にシャワーとシャンプーを返した。
すると、返したシャワーで柚凪は自分の髪を洗い流しているようだった。
お互い背中合わせだから、当然シャワーのお湯もかかってくる。
「ふぅースッキリしたわ」
そう言い、シャワーをシャワー掛けにかける音が聞こえた。
「じゃあ、あがりますか、どっちが先にあがります?」
「ちょ、ちょっとまって」
「どうしました?」
「昨日のあれじゃ、私があまりにも不公平だから私も翔の背中見てもいいわよね?」
「……あっ、はい、それで許してもらえるなら全然いいですよ」
「だから怒ってないっつーの」
「じゃあ、好きなだけ見ていいですよ」
「うん」
柚凪の背中が離れた。
見えないから分からないが、恐らくもうこっちを振り向いているのだろう。
「言っておくけど!翔は絶対こっち振り向かないでね!振り向いたら殺すから!」
などと、脅迫じみた忠告を受けたのでオレは絶対振り向かないと心に決めた。
「男にしては、綺麗な肌じゃない。
羨ましいわ」
いや、柚凪も天使のような白い肌をお持ちだろうに。
……となるとやっぱ痣の件か。
あれは見るに耐えなかった。
血が繋がってないとはいえ、あそこまでする親がいるとは。
もしもオレが現行犯でその現場を見たら、オレは我を忘れてしまうだろう。
「ねえ、触ってみてもい?」
「さ、触る…?」
「だめ?」
耳元でそんな言葉を囁かれ、オレの理性はメーター80まではきているだろう。
「いい、ですよ」
そう言うと、柚凪の手がスゥーッと撫でるようにオレの背中に落ちてくる。
「う、うおぉぉ」
「変な声ださないでよね」
「しょうがないじゃないですか」
「まさか、たってないわよね」
「さすがに、まだ自制できています」
「ふうん」
そう言いながら、柚凪はオレの背中やら、脇腹やらを擽るように触っている。
「いつまで触ってるんですか」
「ん、じゃあ、これで最後っ」
その瞬間、オレの二つの弾力のあるふくよかなものがオレの背中に押しついた。
少しだけ横目にして見ると、柚凪はバックハグをするような形で抱きついていた。
「え、あ、、柚凪、さん?」
「これは、なんていうか、そのお礼よ。
大した意味はないわっ、
じゃあ先、失礼するわね」
そう言うと、柚凪は立ち上がり、浴室から出ていった。
オレは下を見てみると、既に理性は、100パーセントを突破していた。
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