第16話 決戦の幕間
センター試験は二日間で行われる。最寄りの試験会場に出掛けるのだが、僕の場合は電車で片道一時間半の移動距離。そして、季節は一月。幸いにも雪が降っていないが、底冷えする時期である。
一日目の試験を終えて、帰宅途中の電車の中。車内は必要以上に暖房が効いていて暑い。車内はそれほど混雑していなかった。混雑した電車に乗るのが嫌だったので、少し時間を潰してから、駅に向かい乗車したのだから当然である。
窓に映る自分と目が合う。少し元気がないように見える。否、気のせいだろう。いつも通りだ、きっと。
試験の手応えは全くない。ただ、奇跡を願っても、点数には反映されないことを知っている。自分がどれだけ受験勉強をサボったかも知っている。だから、僕は過度に期待はしていないし、悲観もしない。
ただ、第一志望には手が届かないなぁ、と僕は冷静に思った。諦めたらそこで終わりだ。弱音を吐けば、そんなふうに言われるだろう。でも、大人は狡い。現実を見ろと言いながら、一方で夢を追いかけろ、とも言う。
「滑り止め」の大学を受験しろ。大人たちはそう言うだろう。あぁ、面倒臭いなぁ。僕は首を振る。
自分が何をしたいかも分からないのに、第一志望とか滑り止めとかを決めないといけないこの状況が辛い。
勉強が辛いわけではない。試験が怖いわけでもない。
その先がまだ何も見えていないから、力の入れ具合が分からないのだ。
近くに座っている学生も受験生なのだろう。参考書と睨めっこしている。それが普通なのだ。試験に全力で向かい、合格する。それだけを考える。
一点突破。
それが効率的だし、近道だし、正解なのだろう。
僕はいつから捻くれてしまったのか。
無駄な思考は、勉強をしたくない言い訳。確かにそうかもしれない。でも、その無駄な問いかけに誰も真剣に答えようとしない。
皆んな、問いかけたことすら忘れてしまう。
電車が駅に着いた。改札を抜けると、雪がちらちらと降り始めた。少し離れたバス停まで歩き、ぼんやりと立ち止まる。
「一年くらい浪人しても良いかなぁ」
僕は独り言を発した。
でも、まだ弱音は吐けない。
優しい両親で理解もあるが、さすがにまだ言えない。
その日、僕は負け戦の準備を始めた。
如何にして負けるか。
何事においても、それが重要である。
何も考えなくても勝つことはある。
必死に考えても負けることがある。
「人生は負けることが多いのだから」って以前に父親がそう言っていたことを思い出した。
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