第17話 決戦後にはコーヒーを

 センター試験二日目が終わった。国公立大学を目指す受験生には逃れられない魔の二日間。個性だとか、皆んな違ってそれが良いとか、大人達は偉そうに言うけれど、受験生の耳にはそんなものは届かない。だって、試験の点数で進路が別れるのだから。やり直しなんて無いし、失敗は許されない。

 僕は試験を終えて、駅へと向かう途中で受験生の人波から離れた。同じ高校の友人と談笑して一緒に帰る気分ではない。

 特に行く宛もなく、適当に迂回する。地元では無いので、この辺りの地理は全く分からないが、駅から離れ過ぎなければ何となるだろう。

 駄菓子屋が視界に入り、ふと立ち寄ってみた。入り口のそばには自販機とベンチが置いてある。レトロな雰囲気だが、ただ古いと言うのではなく、意図的な演出なのかもしれないと思った。店内は広くはないが、整然と商品が並び、綺麗だった。商品棚が少し低いのは子ども向けの仕様にしているからだろう。何かが欲しかったわけではないが、懐かしい菓子をいくつか手に取った。

 店の主人は物語に出てきそうなお婆ちゃんで、眼鏡を掛けて、帳簿か何かを付けているようだ。

 「いらっしゃい。受験生かなぁ、その制服はこの辺りじゃないねぇ」

 気さくに声を掛けてくる。

 僕は愛想良く応えて、菓子を受け取った。

 「あっ、そこのベンチに少し座ってても良いですか?」

 一瞬、怪訝そうな表情をしたが、余計な詮索はせずにすぐに笑顔を見せた。

 「今日は寒いからね。そこに座ってたら、どうだい?」

 年季の入ったストーブが置いてあり、店の主人がパイプ椅子を持ってきてくれた。

 「ありがとうございます」

 僕は丁寧に礼を述べた。

 パイプ椅子に腰掛けて、今買った菓子を食べてみる。懐かしい味だ。美味しいわけではないが、不思議と嫌いにはならない。

 ストーブが非常に暖かくて、心地良い時間が流れる。

 今日が試験日だったことも忘れそうだ。

 センター試験に奇跡などは起こらない。僕にはもう試験の得点がどれくらいかは想像できた。自己採点をするまでも無いだろう。

 二次試験に向けて気持ちを切り替えて、明日から勉強に励む。それが正解だし、それ以外の選択肢はない。

 でも、と僕は思った。

 その先に待っているのは不合格通知であろう。

 時には勝てない戦いをしなければいけない。以前に、今年で定年退職の数学の教師が言っていた。

 「負け試合かぁ」

 僕は思わず声を漏らした。

 店の主人がコーヒーカップを持ってきてくれた。

 「甘いコーヒーは嫌いだったかな?」

 「いえ、そんなことないです。ありがとうございます」

 温かいコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。

 「君はまだ物語のプロローグだよ。もう私は、エピローグだけどね」

 そう言って笑顔を見せて、店の主人は先程の定位置に戻っていった。

 

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