第15話 決戦前夜
天気予報を確認した。どうやら明日、雪は降らないらしい。積雪によって交通機関が麻痺すれば、試験会場に辿り着くことができない。
センター試験前夜。大学受験に臨む高校生たちにとっては、おそらく最も落ち着かない夜だろう。
僕は試験前日にジタバタしてもどうにもならないと思っているので、比較的落ち着いている。否、自分の学力は把握しているつもりなので、何か特別な事が怒らない限り、結果は想定内である。
ただ天気だけが不安だ。試験会場まで電車を乗り継いで向かわなければならない。積雪の可能性のある田舎に住んでいる学生は誰もが、この日ばかりは快晴を願うだろう。
夕食もすでに済まし、お風呂にも入った。不自然に早く就寝するのも調子が狂うなぁっと思いながら、リビングで温かい緑茶を飲んでいた。
「いよいよ明日かぁ」
普段、息子の学業に関しては一切何も言わない父親が徐に口を開いた。
「ただの試験だ。気楽にな。点数良かったら、焼肉食べ放題かな」
「ちょっと、もうちょっと何かあるでしょうね」
母親がツッコミながら、僕を横目に見る。
「焼肉、あかん?」
「いや、そこじゃない」
僕と母親が同時に言った。
そして三人で笑う。
何かに祈っても結果は変わらない。
何かに願っても結果は変わらない。
僕はそれを知っている。
僕の今までの努力から、自ずと結果は推定できる。
両親は過度に期待しているわけではない。二人とも大学を卒業していないから、息子には経験させてあげたいと思っているのだろう。それに、何かを為す時に学歴が武器になることも事実だ。
僕はおやすみと言い残し、部屋に戻った。
ベッドに入る。
眠ろうと思うが、頭が冴えてしまって、急に高校生活を振り返ってしまう。何か必死に打ち込むことがなかった高校生活だった。否、高校生活だけではなく、今までずっとだが。
大学に入ったら、何処の大学にせよ、何かこう打ち込めるものが見つかれば良いなぁ。
好きなもの。嫌いなもの。
得意なこと。苦手なこと。
好きな人。嫌いな人。
尊敬している人。軽蔑している人。
そんなに簡単に線引きできないが、僕にも少しは自分がどういう人間かをわかってきたような気がする。
終わりのない思考の海に溺れるうちに眠りに付いた。
目覚ましの音で、ベッドから飛び起きる。まだ午前五時だ。窓の外を覗く。まだ外は暗いが、雪は降っていないようだ。
キッチンに行ってコーヒーメーカーのスイッチを入れる。両親はまだ寝ているようだ。すでに、テーブルの上には卵のサンドウィッチが置かれていた。
手早く朝食を済まし、身支度をする。
両親も、やはりすでに起きていたようで、父親が駅まで送ろうかと言ったが、僕は断った。普段通りのほうが良い。
「行ってきます」
僕は幾分緊張しながら、家を出た。
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