第11話 大晦日の想い出

 年末年始は母方の親戚の家に遊びに行くことが恒例となっていたのだけれど、受験生の僕は自宅で勉強することにした。歳の近い従兄姉妹と会うの楽しいのだが、それぞれに忙しく、あまり一緒に時間を過ごせなくなっていたから、僕としても楽しさ半減なので、今回は行かないことに決めたのである。

 とは言え、大晦日に家で一人。受験生らしく勉強はするものの、飽きてくる。車の走る音もほとんど聞こえてこない。近所の住人も里帰りをする人が多く、街自体が静けさを保っている。

 コーヒーを淹れて、勉強を一旦中断する。

 小さい頃は特に仲の良かった従兄とゲームばかりしていた記憶がある。深夜遅くまで、きゃっきゃはしゃいで騒いでいた。

 従姉はお喋りが面白く、ピアノも上手だった。音楽に無知な僕だが、従姉のおかげでクラシックコンサートの楽しさがわかった。

 もう一人の従妹は、僕には妹がいないので、自分に妹がいたらこんな感じだったら良い、と常々思っていた。

 思い返すと少し恥ずかしいが、純粋に楽しかったと思う。

 毎年、それを繰り返していた。

 毎年、それはとても楽しかった。

 でも、人は成長する。あるいは成長してしまう。

 僕も、従兄姉妹も。

 それは決して悲しいことではない。

 むしろ素晴らしいことなのだ。

 だが、少し寂しい。

 僕はコーヒーを啜った。時計を見ると夕方七時前。晩御飯は確か冷蔵庫に何かしらがあると母親が言っていた。

 キッチンに向かい、冷蔵庫を覗く。市販の鍋焼きうどんを見つけた。簡単に作れて美味しい。僕には、こういうものを発明した人に、もっと栄誉や金を与えるべきでは、と思えてならない。

 他にも惣菜ものを適当にお皿の取り分け、温めたりして、自分の晩御飯を用意していく。炊飯器の使い方は分かっているので、事前にタイマーをセットして、炊飯していた。

 普段はダイニングだが、一人なのでリビングで食事することに決めた。何となくTVをつけると歌番組が始まっていた。紅と白のチームに別れて、歌を歌い合う番組である。歌合戦という名前なはずだが、全くもって平和な番組で、毎年今一つ違いが分からない。

 変わらないというのも面白いのかもしれない。

 否、変わらないように見えるだけで、変わっているのだろう。

 僕と同い年くらいの歌手が歌っている。

 自分とは違い才能があるのだ、と思ってしまう。

 こんな弱音を吐けば、才能ではない努力だと大人は言うだろう。

 でも、その努力の仕方を誰も教えてはくれないし、きっと大人たちも分かっていない。

 画面に映る歌手の女性は華やかな衣装包まれて、完璧すぎる笑顔を振りまいていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る