第10話 サンタクロースとトナカイ

 子どもの頃のクリスマスプレゼントはTVゲームばかりをおねだりしていた。高校生になると、TVゲームには少し飽きてしまい、読書に夢中になり始めた。だからと言って、クリスマスプレゼントで本を買ってもらうのは、何か違うような気がすると思い、それはおねだりする対象にはならなかった。と言うより、両親と一緒に買い物に出ると、本は買ってもらえることが多かった。読書を否定する親というのは少ないのだろう、きっと。そういうわけで、高校生になってからはお小遣いをねだることが多かった。もはや、サンタクロースも真っ青の可愛げの無さである。

 そもそもサンタクロースは何故に子どもたちにプレゼントを配らないといけないのか。えっ、そこに疑問を持つなって。それも、寒い年の瀬に。煙突からプレゼントを届けるらしい。寝ている子どもにバレないように。

 高校生にもなるとサンタクロース信仰はほぼ皆無であろう。それでも、クリスマスプレゼントを受け取る、あるいは渡すという催しだけが引き継がれていく。サンタクロースが赤鼻かどうかは問題ではない。白髭を生やしていてもいなくても問題ではない。

 不思議である。何故にキリスト教圏でもないのにここまでサンタクロース信仰が熱いのか。

 僕の思考はついつい拡散していく。

 誰かしらの陰謀だろうか。誰かしらの洗脳だろうか。

 当たり前のようにサンタクロースに願う。それは、もはや、ある種のカルト宗教に近いものなのかもしれない。

 それに、サンタクロースのソリを引くトナカイの事を真剣に考えたことはあるか。ある種のブラック企業の典型だろう。高校生の僕ですら、トナカイに同情してしまいそうになる。同時にサンタクロースが暴君にしか見えなくなる。

 って、こんな事を誰かに話せば、笑われるだけだろう。

 僕は机の上のコーヒーを手を伸ばした。母親が用意してくれたケーキにはサンタクロースの姿をした砂糖菓子が付いていた。

 暴君には全く見えない。むしろ微笑んでいるように見える。

 多くの人は、やはりサンタクロースを聖人と称え、尊敬しているのだろう。でも一方で、多くの人は確実にトナカイのような生活を送るという現実を直視しているはずだ。

 受験に失敗したら、僕もトナカイのように働かないといけないのだろうか。もう少しだけ、学業に溺れていたいという甘えが頭の中を駆け巡ったことは否定できない。

 僕はまだサンタクロースを目指すわけでも、トナカイのように働くわけでもない、ただの高校生に過ぎない。

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