第8話 駄菓子屋さんの想い出

 僕の住んでいる住宅団地には何故かしら今もコンビニがない。団地内に小学校や中学校があるので、初めて一人でコンビニに行ったのは、高校生になってからだった。もちろん、家族や友人とコンビニに行ったことはあった。でも、一人でぶらりとコンビニに行く機会は電車通学になった高校生の時からである。

 高校の二学期の終了式を終えて、帰宅途中に駅前のコンビニに入った。品揃えも豊富で非常に便利な場所である。大手コンビニチェーンはそれぞれオリジナルの商品を販売したりもする。でも、何故かしら、長居したいと思える場所ではない。立ち読みをしている人たちをちら見して、そう思っているのは僕だけかもしれないと思った。

 両親が共に外出しているので、家に帰っても、昼食がない。サンドイッチと焼きそばパンを手に取り、甘めの缶コーヒーを掴み、ピザまんの誘惑に負けて、注文し、レジで会計を済ます。会計金額を見て、お蕎麦屋さんにでも行けば良かったかな、と一瞬後悔した。コンビニは基本的に安売りしない。

 駅前からバスに乗り、自宅近くの停留所で降りる。昼ご飯代の小遣いが少し残っているので、久しぶりに駄菓子屋に行ってみようと思い立った。

 看板がくすんでいる。閉店したという話は耳にしていない。そっと入り口の戸を開けて、中に入った。

 「いらっしゃい」

 店主が愛想良く声を掛けてくる。小さい頃からよく来ている駄菓子屋である。何となく僕のことも記憶にあるに違いない。

 「こんにちは」

 僕は挨拶を返した。

 このお店は駄菓子以外にも文房具やクリーニングの依頼も取り扱っている。僕は駄菓子のコーナーに一直線に向かった。高校の制服なので、少し気恥ずかしいが、高校生だって駄菓子が好きなのだ、と心の中で言った。

 駄菓子は、健康的でもなければ、実際のところ、それほど美味しいわけでもない。でも、妙に懐かしく、夢中で食べていた頃の記憶が蘇る。

 小学校の遠足のおやつの金額は二百円だった。今にして思えば、幾らでも良くないか、と思う。それでも、その二百円内で駄菓子を選ぶ時の真剣さはブランド品を品定めする大人顔負けである。

 いくつか適当に駄菓子を取って、レジに行く。

 「変わらないですね、ここは。久しぶりに来ましたけど」

 「そうね。最近は子どもも少なくなって、少し寂しいね」

 店内には小さいな子どもが二人いた。その母親らしき人が優しく見守っている。

 僕もまだ子どもと言えば子どもだが、精一杯大人っぽく丁寧に挨拶をして店を出た。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る